熱量とテンポの良さで視聴者を惹きつける解説
サッカーワールドカップ・アメリカ大会で、本田圭佑氏の解説が話題を集めています。オランダの弱点をシンプルに「左や、左」と指摘したかと思えば、警戒すべき選手については「1にガクポ、2にガクポ、3にガクポ」と独特の表現で解説。現役時代さながらの熱量とテンポの良さで、視聴者を惹きつけています。ネット上でもおおむね好評です。「選手目線で分かりやすい」「ファンの気持ちに寄り添っていて親近感がある」といった声が相次ぎ、本田節を歓迎する空気が広がっています。
筆者も中継を見ながら、これまでのサッカー中継にはなかった独特のグルーヴを感じました。ただ熱いだけではありません。試合の流れや空気を的確に汲み取り、視聴者の感情とシンクロしながら盛り上げていく。そのスタイルは、ありそうでなかった新しい解説の形なのかもしれません。
本田の解説に求められているものとは?
まず評価したいのは、試合全体を俯瞰したうえでのラフさです。たとえば、日本代表が守勢に回った場面で、堂安律選手を助けるために久保建英選手がカバーに入った際、本田氏は「いいよ、タケ」と短く称賛しました。
この言葉が秀逸なのは、プレーの内容そのものは映像を見れば分かるからです。久保選手がピッチ上のどこを走ったとか、どのような動きをしたのかとかを細かく説明する必要はありません。むしろ視聴者が求めているのは、そのプレーがどれほど価値のあるものなのかという評価です。つまり、実況ではなく批評なのです。
「いいよ、タケ」の一言には、「その判断は正しい」「その献身はチームを救っている」という意味が凝縮されています。
日本代表を応援しながら、重要なポイントを短い言葉で押さえていくスタイルは、ある意味で二代目・松木安太郎氏と言えるかもしれません。松木氏には、「危ない」と叫んだ場面が高い確率で失点につながるという定評がありました。本田氏の解説にも、同じような先見性がありました。流れが悪くなりそうな局面や、相手の嫌な攻撃の芽を早めに察知するあたり、本田氏独特のレーダーが作動しているように感じられました。
一方で、評価が分かれそうな部分も…
一方で、評価が分かれそうな部分もあります。それは、あまりにもフランクな言葉遣いです。
オランダのガクポ選手を評する際、本田氏は何度も「ウザい」という言葉を使っていました。もちろん、「ウザい」という表現は日常語として広く浸透しており、多くの人がニュアンスを共有できます。相手にとって嫌な動きをする選手を表現する言葉としては、決して間違っていません。
ただ、こうしたカジュアルな言葉は、ここぞという決定的な場面で使うからこそ効果を発揮します。巧みな駆け引きで日本の守備陣を翻弄したときや、圧倒的なフィジカルでボールを収めたときに「うわぁ、ウザいわ」と言えば、その一言に説得力が生まれます。
しかし、今回の中継では「ウザい」がやや多用されていました。
解説者・本田圭佑の成長に期待
もっとも、これは欠点というより、進化の余地と言うべきでしょう。現在のラフでアバウトなトーンを保ちながら、表現のバリエーションを増やし、場面ごとに言葉を使い分けられるようになれば、サッカー解説の世界で本田圭佑氏は唯一無二の存在になるはずです。
日本代表の躍進とともに、解説者・本田圭佑の成長にも注目が集まる今大会。代表が目指す「最高の景色」を目にしたとき、本田節はどう炸裂するのでしょうか。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
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