日本の文化やサービスの海外展開を後押しする官民ファンド・海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が存続の危機に立たされています。赤沢亮正経済産業大臣は、6月16日の会見で損益目標に達さなければ検討会を設置して対応を考えると発言しました。

クールジャパン機構は2024年度の累積赤字額が383億円。目覚ましい成果を出しているとは言い難く、批判にさらされています。官民ファンドを運営する難しさを改めて突きつけました。

80億円投資のジャングリアは苦戦…「一風堂」成功の影で“累積...の画像はこちら >>

経営破綻したスパイバーには140億円を…

クールジャパン機構が投資した成功事例に、ラーメン店「一風堂」を運営する力の源ホールディングスが存在します。2014年に7億円を出資し、13億円を貸し付けました。力の源は2017年3月に上場を達成。クールジャパン機構は2019年に全株を売却しました。

力の源はクールジャパン機構から調達した資金を元手に海外展開を加速。ロンドンやシドニーなどへと店舗ネットワークを拡大しました。現在は16か国・地域に展開し、海外は144店舗。全体の45%を海外の店舗が占めています。海外展開を目指す会社に資金支援をして活動をバックアップするという同機構の目的を果たし、エグジットによってリターンを得るというファンドらしい収益も得られました。

一方、失敗事例も存在します。
その一つがスパイバー。この会社は慶應義塾大学発のベンチャー企業で、強靭なクモの糸を大量生産して工業製品や医療分野に応用するという壮大な計画を立てていました。クールジャパン機構は2018年11月に30億円を出資。その後、追加出資して累計140億円を出資しています。

しかし、この会社は300億円もの債務超過を解消できず、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏の長女・川名麻耶氏が代表を務めるCRANEへと事業を譲渡。特別清算を申請する方針を固めました。負債総額は300億円が見込まれており、クールジャパン機構が資金を回収できる見込みは薄くなりました。

ジャングリアに関わる「刀」にも出資

スパイバー以外にも、危うい案件が目立ちます。2022年には株式会社刀に80億円を出資しました。刀はマーケティングの専門家である森岡毅氏が立ち上げた会社で、自社でのテーマパーク運営に乗り出しました。しかし、「イマーシブ・フォート東京」は2026年2月に閉館。わずか2年での撤退となりました。刀は2025年6月期に13億円を超える赤字を出しています。


鳴り物入りでオープンした「ジャングリア沖縄」は、開業半年の来場者数が65万人。運営会社は来場者数や目標を公開していないものの、美ら海水族館の半分程度で黒字ラインに乗るとされており、年間150万人程度の来場を想定しているようです。しかし、集客には苦戦を強いられています。

30億円を出資した五常・アンド・カンパニーは、上場申請を取り止めました。インド子会社の会計処理に不透明感が高まったため。クールジャパン機構が思うように事が上手く運びません。

そして、同機構には別の問題点も浮上しています。それが公金の還流疑惑です。クールジャパン機構には複数の日本企業が出資をしています。出資した企業の海外進出に必要な事業などに対して、同機構が出資をしていたというのです。つまり、企業が出資した資金が同じ企業に還流しているのではないか、という指摘がなされています。

資金支援以外の具体的な取り組みは?

クールジャパン機構は、官民ファンドの弱点が目立っているような印象を抱かせます。

かねてより、官民ファンドはその存在意義を疑問視する声がありました。
官が主導することで投資プロセスの透明性が低く、情報開示が少なくなりがちなのです。公金の還流疑惑はそれが悪い形で表出したと言えるでしょう。

民間の投資ファンドや金融機関が手を出しにくい分野に対して、資金を供給しがちだという問題もあります。クールジャパン機構はスパイバーへの追加出資を2021年9月に行っています。しかし、スパイバーは2020年ごろにクモの糸の大量生産という計画を中止し、たんぱく糸で再起をかけました。

ちょうど同じタイミングで将来の事業価値を担保にするスキームを駆使し、金融機関から巨額の借入をするようになっていました。そうした中で、クールジャパン機構は出資というリスクの高い方法を選択したのです。

官民ファンドが、投資先の支援体制を十分構築できるのかという懸念もあります。もともと、官民ファンドは専門的な人材や目利きが不足しやすいと指摘されています。民間の投資ファンドと比べると給与水準が低くなりがちで、優秀な人材は積極的に入りたがらないからです。

官主導における現場支援の限界

優秀な人材を獲得しても、十分な活躍ができるのかにも疑問が残ります。投資ファンドというと華やかな世界のようにも見えますが、ハンズオン支援の場合は支援先の会社に出向き、場合によっては現場に入ることも数多くあります。


民間の投資ファンドが外食チェーンを立て直した際、担当者が店舗に入ってオペレーション改善や顧客満足度向上のヒントを得たというエピソードも存在します。企業価値を高める取り組みは泥臭いのです。

しかし、官主導のファンドで、このような活動が推奨されるでしょうか。クールジャパン機構はハンズオン支援を行なっていましたが、踏み込んだ支援ができていたのかどうかは不明確な部分があります。具体的な取り組みに関する情報開示に欠けているため、実態もあまり見えてこないのです。

現在、政府はAIや半導体、造船など新たな成長分野への投資を加速しようとしています。国が投資を主導し、国際的な競争力を高める狙いがあるのです。官民ファンドの活用が積極化する可能性もあります。

だからこそ、官民ファンドの在り方そのものを根本から議論する必要があるように見えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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