ワールドカップの連日連夜の熱戦で、寝不足気味の方もいらっしゃるのではないでしょうか。4年に一度、日本代表の活躍や、世界最高峰のプレーに心が躍る期間です。

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一方、医師目線でみると、この熱狂は少しだけ健康面のリスクもはらんでいます。連日の寝不足、興奮疲れ。もちろんそれもありますが、実は華麗なプレーが選手の「脳」に、そして熱狂的な観戦が私たち観客の「心臓」に、負担をかけている可能性があります。特にプロレベルで長年繰り返されるヘディングによる「頭への衝撃」については、近年かなり議論されてきています。

見る分には美しい「ヘディング」が将来の脳に影響する?



「W杯は日本に優勝してほしい」と医師が願う医学的理由。W杯熱狂の裏に潜む危険な真実
※写真はイメージです(Adobe Stock)
サッカーの醍醐味の一つといえば、空中のボールに飛び込み、頭でゴールネットを揺らすヘディングシュート。見る分には美しい。しかし、その美しいプレーの裏で、選手たちは将来の「脳の健康」という代償を払っているかもしれません。

スコットランドの元プロサッカー選手約7600人を対象に、年齢や社会的背景をそろえた一般男性を、死因や病気のリスクを比較した有名な研究があります。その結果、元プロサッカー選手は、心筋梗塞のような血管の病気で亡くなるリスクが低く、肺がんでの死亡リスクも約50%低いという良い結果が出ています。実際、他の研究でもサッカーを行なう人は、寿命が約4.5年長いという研究もあります。

ところが一方で、アルツハイマー病やパーキンソン病といった「頭の神経の病気」で死亡するリスクは約3.5倍。さらに、アルツハイマー病に限ると約5倍、認知症関連薬を処方される割合も約5倍でした。 勿論、これだけで「ヘディングが認知症の原因」と断定するのは早計です。
プロ選手の生活習慣やケガ歴、運動量など色々な要因が絡んできます。

ただヘディングの機会が少ないゴールキーパーでは認知症関連薬の処方が明確に低かった結果もあります。それを考えると、「頭部への反復刺激」の蓄積が将来の脳や神経に影響を与える可能性は見逃せません。

頭部への衝撃が「うつ病」と関係する? アメフトの教訓



頭部への衝撃という観点では、アメリカンフットボールの研究も有名です。元プロアメフト選手約2500人を調べた研究では、現役時代に脳震盪を3回以上経験した選手は、脳震盪の経験がない選手に比べて、引退後に「うつ病」と診断されるリスクが約3倍に高くなっていました。

さらに、ボストン大学などの研究チームが、亡くなった元アメフト選手の脳を調べた研究では、111人の元NFL(National Football League)選手のうち、実に110人(99%)の脳から「慢性外傷性脳症」という、繰り返す頭部への衝撃が原因で生じる脳の変化が見つかりました。脳への反復的な衝撃は、「記憶力」だけではなく、「気分」や「性格の変化」にも影響する可能性があるわけです。

見ている側も安全ではない? 自国の試合で心臓病リスクが上昇!



「W杯は日本に優勝してほしい」と医師が願う医学的理由。W杯熱狂の裏に潜む危険な真実
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一方、プレーしていない観客側の私たちにも、ワールドカップと健康は密接に関係します。ドイツで開催された2006年ワールドカップの期間中、ミュンヘン周辺で救急医が対応した心血管イベント、つまり心筋梗塞や危険な不整脈などを約4300件調べた研究があります。その結果、ドイツ代表の試合があった日は、心血管イベントの発症が試合のない日と比べ約2.7倍にも上昇し、男性に限っていえば約3.3倍に達していました。

発症のピークは「試合開始から2時間以内」に集中していました。試合が進むにつれての緊張感、決定的ピンチやチャンスでの冷や汗や極度の興奮。これらによって交感神経が繰り返し刺激され、血圧や脈拍数が上昇し、血管の働きにも影響した可能性があります。

実際、2010年の南アフリカ・ワールドカップの決勝を観戦したスペイン人50人を調べた研究では、観戦中にストレスホルモンであるコルチゾールが通常よりも約50%も高くなっていました。
つまり「テレビの前で叫んでいるだけ」でも、体の中ではかなり激しい試合が起きているのかもしれません。

「日本代表には優勝してほしい」医学的理由とは



一方で、サッカー観戦は心臓に悪い話ばかりではありません。実は、私たちをストレスから解放し、心臓を守ってくれるかもしれない究極の特効薬が存在します。それが「自国の優勝」です。

フランスが1998年ワールドカップで優勝した日の死亡統計を調べた研究では、男性の心筋梗塞での死亡率が、前後5日間の平均約33件に対して、決勝当日は23件と約3割少なくなっていました。

正直、明確な理由ははっきりしていないのですが、国全体の高揚感、勝利への期待や一体感、そして歓喜によるストレス軽減が合わさって、心臓に良い方向へ働いた可能性があります。

現実的には、多くの健康な人がワールドカップ観戦を恐れる必要はないでしょう。ただ高血圧症がある人や、心筋梗塞などの心臓病の持病がある人、睡眠不足が続いている人は少しだけ注意した方がいいかも。またハーフタイム中に深呼吸をする、観戦中もこまめな水分補給をするなどの工夫は意外と大事です。

サッカーは、人の体も心も動かします。選手のヘディングには将来的な脳のリスクがあり、観客の熱狂には心臓のリスクが潜んでいる。ただ、国が一つになって歓喜する時間には、医学だけでは測りきれない健康効果もあるのかもしれません。
だからこそ日本代表には、今年のワールドカップは医学的にもぜひ優勝してもらいたいものです。

<文/岡本宗史>

参考資料
Mackay DF, et al. Neurodegenerative disease mortality in former professional soccer players. N Engl J Med. 2019;381(19):1801-1808.
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Wilbert-Lampen U, et al. Cardiovascular events during World Cup soccer. N Engl J Med. 2008;358(5):475-483.
Berthier F, Boulay F. Lower myocardial infarction mortality in French men the day France won the 1998 World Cup of football. Heart. 2003;89(5):555-556. PMID: 12695467
van der Meij L, et al. Testosterone and cortisol release among Spanish soccer fans watching the 2010 World Cup final. PLoS One. 2012;7(4):e34814.

【岡本宗史】
東京大学大学院医学系研究科を修了後、埼玉県のクリニックにて実臨床に従事。「健康・エイジングケア」に関する知見を、医学的視点から紐解き、メディアやSNSを通じて多角的に発信している。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」評論家 等。
Instagram:@soshi_okamoto
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