NHKが映画に本気だ。
『正直不動産』の映画化に続き、来年は朝ドラ『虎に翼』の映画化も予定されている。
これまでにもNHK作品の映画化はあったが、近年はその動きが目立つ。

なぜ今、NHKは映画ビジネスに力を入れ始めたのか?

テレビ朝日でプロデューサーを務め、ABEMAの立ち上げにも携わったテレビ・映像プロデューサーの鎮目博道氏に話を聞いた。

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NHKが「映画で稼ぎたい」理由

――今年の5月に劇場版『正直不動産』が公開されました。来年は『虎に翼』の映画化もあります。このNHK作品の映画化の流れをどう見ていますか?

鎮目博道さん(以下、鎮目さん):NHKのここ最近の行動は、ほぼ全て「若い人が受信料を払ってくれないんじゃないか」という一点に突き動かされていると思うと、大体納得がいくんですよね。

若い人がテレビを見ないという危機感は民放もNHKも共通ですが、NHKの場合は受信料を払ってもらわないと成り立たないんです。

言ってみればサブスクみたいなものなので、このままだと今後、見たいものがなくても払わなきゃいけないという仕組みに納得いかない人が増えると気づいたのでしょう。単純に人口も減少しています。

そうなると、受信料以外からもお金を集めるしかない。映画で稼ぐというのは、その手っ取り早い手段のひとつですね。

――映画だけでなく、配信にも積極的に動いてますよね。

鎮目さん:NHKの局員の中には、「日本で稼げないなら海外に打って出るしかない」と考えている方も意外と多いんです。

NHKって、公務員でも国営でもないけど、かといって民放とも違う。
公共放送って何なのか、実は誰にもわかりにくい存在じゃないですか。

だからこそ、世界で一番うまくいっている公共放送のBBCを真似したくなるのでしょう。BBCで制作した『SHERLOCK』や『ピーキー・ブラインダーズ』がNetflixで世界的にヒットしたことが念頭にあるんだと思います。

――配信への積極投資も同じ流れですか?

鎮目さん:そうだと思います。今後、受信料があまり払われない状況でも生き残るには、配信も映画もやっておかないとまずいんです。今回の映画化は、それを解決するための第一歩なんだと思います。

テレビの成功法則は映画では通用しない

『正直不動産』に続き『虎に翼』も…NHKが映画に本気を出すワケ。「受信料を払ってくれないのでは」公共放送の狙いを元テレ朝Pが解説
鎮目博道氏
――とはいえ、映画づくりはテレビとは勝手が違いますよね。

鎮目さん:そうなんです。テレビ番組が作れるから配信や映画もうまく作れるかというと、実はそうじゃないんですよね。

つまらなければ、テレビはすぐにザッピングされてしまうから、スタートから面白くする、CMまたぎで離脱させないようにする、といった独特のノウハウの中で何十年も進化してきました。

NHKはCMがありませんが、ザッピングと戦うという点では同じですし、作っているのは民放と同じ制作会社の人間だったりするので、民放と同じ法則で制作していると思います。

でも映画は、途中で切り替えることができません。途中で飽きさせないようなテンポのいいストーリー展開や、結論を引っ張り続ける作り方は、テレビではご法度です。
そこに気づかないままテレビと同じように作ってしまうと、途中でだれてしまうんですよね。

これは配信でも同じことです。有料コンテンツと無料コンテンツの違いって、思った以上に大きいんですよ。結果、「映画館で見たけど、結局テレビドラマじゃん」ってなってしまうんです。

――では、何を映画化するかも重要になってきますね。

鎮目さん:テレビの視聴率って、年齢や性別、都市部や地方などに関係なく、広く見てもらえると高くなるじゃないですか。でも映画や配信でヒットするのは、一部の人に深く刺さるものなんですよね。

例えば、子供向けのアニメ作品や近年流行りのオカルト系作品なんかがわかりやすいと思います。でも、テレビマンはずっと老若男女にウケるものを作り続けてきたから、一部の濃いファン層向けの作品を作るのがすごく苦手で、結果、なんとなく浅い映画になってしまうんです。

――それでいうと、『虎に翼』は濃いファン向けの作品に入りますね。

鎮目さん:あの作品は、仕事に打ち込む女性たちに深く刺さりましたよね。そういう人たちが、劇場に観に来てくれる。
高視聴率の作品より、熱狂的なファンが付いている作品の方が映画向きだということに、ようやく気づき始めたということでしょうね。

黄金時代の成功体験が足かせに

――気づくのがずいぶん遅かった気もしますが…。

鎮目さん:かつてのテレビ黄金時代は本当に勢いに乗りまくっていていました。その頃を知っている世代が、景気が悪くなってきた時に「失敗しないように」と無難な番組を作り続けたんです。

正直に言うと、「自分たちが引退するまでは現状維持でいい」という意識もあったと思います。

しかもテレビ業界の人たちって、外部のノウハウを取り入れることが苦手で、自分たちの仕事は業界外の人間にはわからないという過信もありました。

だから、テレビ以外のエンタメが成功している姿を見て、「映画会社やゲーム会社、YouTuberとも戦わなきゃいけない時代になっていた」と気づいたんだと思います。

――韓国との差も開いてしまいましたね。

鎮目さん:韓国は人口が少なくて市場が小さいから、国内だけではビジネスとして成り立ちにくいんです。

だから、世界で当たるものを作るしかないという状況で、ずっと試行錯誤を続けてきた。その結果、各国でジワジワと認められるようになって、今では世界中から投資が集まるようになりました。

日本はその逆で、国内でビジネスが成り立っていたから、わざわざ世界を見る必要はなかったんです。

しかも韓国のテレビマンは、もともと日本で学んでいた人が多いんですよ。
その韓国に、いつの間にか抜かれていた。しかも大差をつけられて。

日本のテレビに残された最後のチャンス

――つい先日、NHKがNetflixでドラマを放送するというニュースも出ましたね。

鎮目さん:正直、ああならざるを得なかったんだと思います。

受信料以外の収入を得ていかないといけないというのもあるし、Netflixで当たるということは海外の人が見るということです。

そこで「日本に面白いコンテンツがある」と認識させた上で、海外でビジネスをしていこうと考えているのでしょう。当たり外れの経験を積み重ねることで、海外にウケるものづくりの力が鍛えられるはずなので、その意味でも必然の選択だと思います。

実は最近、各局でドキュメンタリーを単館映画化する動きも増えていて、「ニュースの素材から映画が作れるぞ」、「バラエティからも映画が作れるかもしれないぞ」、という意識が広がってきています。

そうなると当然、「ドラマも映画化しなきゃ!」となってきますよね。今回のNHKの動きは、その流れの中にあると思います。

――今まさに変わろうとしているんですね。ただ、時間はかかりそうです。


鎮目さん:一朝一夕にはいかないでしょうね。なにせ、業界全体が固定概念や既存ルールがガッチリ固まってしまっているので(苦笑)。

今はコツコツ根を伸ばす時期で、5年・10年先にようやく花が咲くかどうかだと思います。

逆に言うと、今ここでシフトチェンジできなければ、日本のテレビは本当に終わってしまうかもしれません。

民放にいると、スポンサーや視聴率の縛りで、やりたくてもできないことが多いんですが、NHKにはその縛りがありません。

だから、まずは誰よりもNHKに頑張ってほしいんです。NHKも民放も、ここが最後のチャンスだと思います。

<取材・文/安倍川モチ子 写真/本人提供>

【安倍川モチ子】
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa
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