前編では、検察側の冒頭陳述をもとに、身の毛もよだつ残忍な犯行に至った経緯などを詳報した。後編となる本記事では、弁護側の冒頭陳述と、被害女性の実母の供述調書などから、事件の背景をひもとく。
障害年金生活のなかで始まった“歪な関係”の実態
起訴状によると、2025年3月11日の午前9時50分頃、東京・高田馬場の路上で佐藤愛里さん(当時22歳)の顔面や首などを、ナイフ(刃体の長さ約12.4センチ)で刺して殺害。さらに、犯行に使用したナイフを含む2本を所持した、殺人と銃刀法違反で起訴されている。検察側に続き、弁護側の冒頭陳述がはじまった。弁護側は「起訴内容は争わない」としながらも、金銭を搾取され続けた事情を述べて情状酌量を求めた。その要旨は次のとおりである。
<高野さんは統合失調症と診断され、通院しながら月7万の障害年金で生活をしていました>(弁護側冒頭陳述の要旨・以下同)
決して余裕があるとは言えない生活状況だった。しかし、好意を抱いた佐藤さんに、高野被告は大金をはたいた。
<LINEで、たわいもないやり取りをするなかで、佐藤さんは直接会うことを提案してきました。何度か(山形市にある勤務先の)お店に行き、その度に大きなお金を使いました>
佐藤さんは当時、出生地の山形県内のキャバクラに勤務していた。その初対面から1か月ほどで、佐藤さんから「お金を貸してほしい」と無心され、指定された金額を送金した。
<(貸した金銭を)すぐに返すという約束は守られませんでした。
借金までして送金…返済を求めても届かなかった訴え
高野被告の貯金では、まかないきれない金銭の要求に、断ったこともあったという。だが、佐藤さんは引き下がらなかったようである。<しかたなく、お金を消費者金融から借りて佐藤さんに貸しました。その後、高野さんは何度も返してくれるように頼みました。佐藤さんは「大丈夫」、「返す」と繰り返しました。そのうち、返信もなくなりました>
一度だけ、高野被告の返済要求に応じて、3万円を返してきたことがあった。しかし、以後返済されることはなく、それどころか、姿を消すように佐藤さんは配信を休止してしまった……。
これを受けて、高野被告は、告発するようにSNSに佐藤さんとの金銭トラブルについて投稿。すると、当時の交際相手とされる人物からこんな申し出があった。
<「SNSで投稿されると影響がある」と言われ、今後同様の投稿をしたら違約金として300万円払うように求められました。高野さんは警察に相談しましたが、「民事には対応しない」と門前払いされました。
勝訴判決を受けた高野被告は、佐藤さんの口座を差し押さえたが、残高はわずか「160円」。もはや判決は紙切れにすぎなかった——。
勝訴しても戻らぬ金…法的手段でも救われなかった現実
金銭の返還が見込めない状況に陥っていた高野被告。弁護側は犯行の悪質性を和らげるように、表現に注意しながらこう主張した。
<高野さんは、前日に佐藤さんの配信を見て、会いに行こうと思い立ちました。(省略)やったことは争いません。(裁判員の)皆さんには高野さんのやったことに見合う”刑”を考えていただきます。すべての証拠を見て、”刑”にどう反映させるのが公平なのか、皆さんには考えてもらうことになります>
「愛してほしい」と名づけた娘…実母が語った生い立ち
高野被告の情状酌量を訴える弁護側と対極的に、検察側は被害感情などを記した実母の供述調書を朗読した。「愛里は平成16年に生まれました。みんなに愛されてほしいし、愛してほしいと思い「愛里」と名づけました。
佐藤さんは高校を中退後、実家を出て山形市内のアパートで生活。交際相手との間に、長男を授かった。さらに、高野被告に金銭を無心していた時期かは定かでないが、母子で飲食をともにした際のことを述懐した。
「すごく羽振りが良い印象で、食事をおごってくれたりしました。その頃から『ふわっち』で配信をはじめていて、羽振りが良い理由を尋ねると『配信で』と説明してくれました」
「なんで殺したの」法廷で読み上げられた悲痛な叫び
「愛里がいなくなってから、大阪に住んでいる男性から『お金を返してほしい』と電話があったり、(支援施設にも)サトウという男性から『お金を返してほしい』と連絡があったと言われました」
実母と佐藤さんが最後に対面したのは、事件の前年の24年だった。時が経ち、「とても可愛い存在」という愛娘は遠い地で殺害された——。
「(警察からの電話で)頭が真っ白になって、涙がとまりませんでした。『なんでこんなことになっているの』という言葉しかないですし、頭が真っ白になってしまいました。火葬するときに、『もう痛くないね』、『ゆっくり休みなね』と声をかけました」
愛娘の突然の死に、高野被告への強い怒りをにじませる。
「『なんで死ななきゃいけないの』、『なんで殺さなきゃいけないの』と思うばかりです。高野さんはお金のことで悩んでいて、愛里がお金を返していないのなら、それは悪いことですし、ごめんなさい。高野さんもお金のことで苦しいと思うが、なんで殺したの。
実母の供述にも無言のまま…
法廷に響き渡る実母の嘆きを聞いても、高野被告は表情を変えずに口を結び、供述調書が映し出された、自席にある小型モニターを凝視していた。残忍な犯行の背景にちらつく、高野被告と佐藤さんのゆがんだ関係——。投げ銭や金銭トラブルをきっかけに築かれた関係は、取り返しのつかない悲劇へと行き着いた。その責任が法廷でどう判断されるのか、今後の審理が注目される。
取材・文/学生傍聴人
【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行なっている。
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