「誰よりもかわいい」と思いたいわけじゃない。完璧ではなくても自分の顔を受け入れ、普通に暮らしたい――大学2年生の小渡結稀(おど・ゆうき)さん(19歳)は、長年苦しみを抱え続けてきた。

自分の容姿に激しい劣等感を抱いていた小渡さんは学生時代、4時間もヘアメイクして登校。整形も計3回行ったが、苦しみが和らぐことはなかった。彼女はどのようにしてルッキズムの呪縛から抜け出し、自分の外見を認められるようになったのだろうか。話を伺った。

「登校前の準備に4時間」「体育の授業もマスクのまま」醜形恐怖...の画像はこちら >>

「スクールカースト上位」に目を付けられ…

「登校前の準備に4時間」「体育の授業もマスクのまま」醜形恐怖症に苦しんだ19歳女性が「3回の整形」を経て、平穏を掴むまで
小学生の頃の小渡さん
幼少期の小渡さんは、活発な性格で、むしろ小学校中学年までは自分のことを「かわいい」と思っていた。だが、小5の頃にスクールカースト上位の男子から嫌われたことを機に、自分の容姿への評価が変わる。

「明確な理由が分からないまま嫌われ、同級生の女子からは「ブス」「ぶりっ子」と陰口を叩かれるようになりました」

小学6年生の頃から、心身は本格的に壊れていく。体重が気になりだし、夏休みには親が仕事で不在なのをいいことに食べているふりをして食事を抜く日が増えた。気づけば3日間、何も口にしていないこともあったという。

夏休みが明ける頃、体重は10kgほど落ち、30kg台前半に。もともと太っていたわけではなかったが、元の体重に戻ることは怖かった。

中学時代、世間はコロナ禍。着用が日常化したマスクは、小渡さんにとって下着のような存在になった。
この頃、初めて自分のスマホを持つ。朝5時に起き、夜中の1時すぎまでスマホを触り、美容の情報を収集するようになった。

「メイクには3時間、髪を下ろすだけのヘアセットに1時間かけていました。そうしないと、近所の郵便局に行くことも宅配を受け取ることもできませんでした」

マスクが手放せなかった学生時代

「登校前の準備に4時間」「体育の授業もマスクのまま」醜形恐怖症に苦しんだ19歳女性が「3回の整形」を経て、平穏を掴むまで
マスクが手放せなかった高校時代
4時間のヘアメイクをしても、自信は持てない。すっぴんよりは外に出るハードルが少し下がる程度だった。カフェなど、若い女の子がたくさんいる場所では惨めになり、恥ずかしくなったそうだ。

耐えがたかったのは、学生時代の卒業アルバムだ。嫌いなパーツはもちろん、目の位置や骨格など、自力ではどうにもできない部分までもが気になり、絶望した。

「一眼レフは実物に近い」と見聞きしていたため、マシに思える自撮りとの差に落ち込み、「こんな顔で生きていたくない」と思った。

「無加工の自分が写った卒アルをみんなが持っていることが嫌でした。卒アルが配られること自体が怖かったです」

小渡さんは、卒アルに写った自分の顔を油性ペンで黒く塗り潰したそうだ。

高校生になると、校内でマスクが外せなくなり、学校で昼食を摂らなくなった。マスクをするのに、朝5時に起きてメイクしなければ学校には行けない。
体育の授業もマスクをしたまま受けた。高校の卒アルは、掲載自体を拒否したそうだ。

「学生時代、一番辛かったのは孤独だったこと。親にもなかなか苦しさを分かってもらえず、毎晩泣きながら『辛い』と伝え続けました」

7軒の美容外科を回り、整形を決意

「登校前の準備に4時間」「体育の授業もマスクのまま」醜形恐怖症に苦しんだ19歳女性が「3回の整形」を経て、平穏を掴むまで
スマホのカメラロールには同じ構図の自撮り写真が何枚も並んでいた
やがて、母親に連れられ、心療内科を受診。だが、小渡さんは「ただ話を聞いてもらっているだけ」と感じ、1年も経たないうちに通院を辞めてしまう。小渡さんが助けを求めたのは、精神的な治療ではなく、物理的に顔を変える整形だった。

「顔のパーツは全部嫌いでしたが、特に鼻が嫌でした。正面から見た時の形や比率が悪く、目と目の間に収まってもいなかったから。写真を撮って自分で数値化しては、結果に落ち込んでいました」

かねてから家族に「整形をする」と宣言していた小渡さんは高3の頃、受験を早期に終わらせ、7ヶ所の美容外科でカウンセリング。母親は当初、反対したが、最終的には「それで楽になるなら……」と同意書にサインしてくれた。

初めての整形は、二重埋没。その後は、一番気になっていた鼻を整形した。コンプレックスだった鼻が綺麗になり、嬉しかった。
しかし、手術から1ヶ月後、小渡さんは自分の行動に恐怖を感じる。

「ダウンタイム中とはいえ、自分の写真を加工する強度があまり変わっていないことに気づきました。外見を変えても、自分の見え方や癖になっている確認行動は変わっていないと。気づいた時、自分のことが少し怖くなったんです」

整形をして気づいた“自分の歪み”

「登校前の準備に4時間」「体育の授業もマスクのまま」醜形恐怖症に苦しんだ19歳女性が「3回の整形」を経て、平穏を掴むまで
整形から1~2ヶ月後の小渡さん
3回の整形を終えても、普通の顔になった感覚が持てない。そう感じた小渡さんは自身の悩みと症状がぴったり当てはまる醜形恐怖症(身体醜形障害)の情報を収集し始め、自己認知の歪みを正そうと奮闘し始めた。

専門機関で取り組んだのは、物事の考え方や行動の癖を見直す認知行動療法。「自分を親友だと思って接する」というマイルールも設けた。

「私の場合は、自分の顔を見て嫌な思考が浮かんだ時に『親友が同じことで苦しんでいたら、どう声をかけるだろう』と考え、その言葉を自分にかけました。それを繰り返していると、自分への攻撃が弱まっていきました」

小渡さんは今も、自分の見た目が大好きだとは思えていない。だが、すっぴんや薄いメイクでも外出できるようになり、「完璧でなくても、これが自分」と認められている。

「外見を気にすることは悪いことじゃない。ただ、それによって生活が壊れているなら、自分を責める考え方や苦しさを強めている行動にも目を向けることが大切です。仕事や趣味など、かわいい以外の尺度で自分を認められるようになることも大事かもしれません」

「ありのままの自分」を好きになれなくてもいい

現在、小渡さんは認知行動療法を提供する心理士とタッグを組み、認知行動療法の考え方に基づいたメンタルヘルス支援に取り組んでいる。また、見た目の悩みを抱える当事者が話し合えるコミュニティも運営。
孤独の解消に励んでいる。

他者と容姿の比較が簡単にできる今の時代を生き抜く上で大切なのは、「かわいくなりたい」という気持ちを否定しないことと「かわいくないと価値がない」という考えに飲み込まれないことの両方だと小渡さんは話す。

「本当に苦しいコンプレックスは好きになれなくて当然。だから、ありのままの自分を好きになるより、まずはコンプレックスによって生活がどれくらい制限されているのかを把握し、生活に支障がでない状態を取り戻すことを目指してほしい」

醜形恐怖症は「どんな容姿の人でもなり得る」

また、第三者から外見に対する暴言を受けた時には「相手の問題」と捉え、客観的な評価だと思わないことも自分を守ることに繋がると小渡さんは話す。

「ネットでは、醜形恐怖症は美形な人に多いとの情報が流れていますが、どんな容姿の人でもなり得る病気だと感じました。認知が歪んでいると自分を客観視できないので、容姿の悩みで生活に支障が生じた時は『醜形恐怖症かどうか』や『自分は本当にブサイクなのか』の自己判断は避けてほしいです」

この社会には、見た目によって扱いが左右される理不尽さがたしかにある。だからこそ、小渡さんは「外見を楽しむ自由」と「外見で苦しんだ時に助けを求められる環境」の両方が社会にあってほしいと願う。

「自分を好きになれなくても、苦しんでいる自分を責めないで。外に出られない、写真が怖い、鏡を見るのがやめられないなどの苦しみは、気合いだけでどうにかできるものではありません。信頼できる人や専門家、同じ悩みを持つ人に打ち明けてほしい。もちろん、私に話してくれてもいい。待っています」

「登校前の準備に4時間」「体育の授業もマスクのまま」醜形恐怖症に苦しんだ19歳女性が「3回の整形」を経て、平穏を掴むまで
小渡結稀
=====

整形は魔法ではない。
小渡さんが得たその気づきは、ルッキズムの呪縛から逃れられない人の心に刺さることだろう。

<取材・文/古川諭香>

【古川諭香】
フリーライター。生まれつき心臓病で脾臓がない。得意な執筆ジャンルは生きづらさ、障害、猫。おキャット様と快適に暮らせる家を建てたほど、私生活では猫の下僕。X:@yunc24291
編集部おすすめ