FIFAワールドカップサッカー2026が盛り上がりを見せています。中国は、今回のワールドカップへの出場はかないませんでしたが、スポンサーとしてコミットしています。
習近平国家主席にとってのサッカーワールドカップ
2011年7月、中国の首都・北京の中心部にある人民大会堂での出来事です。
当時、国家副主席で、次期最高指導者(党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席)に内定していた習近平氏は、訪中した韓国民主党代表・孫鶴圭氏と会談した際に、次のように語りました。
「中国がサッカーのワールドカップに出場し、ワールドカップを主催し、ワールドカップで優勝すること。これが私の三つの願いです」
サッカーファンで知られる習近平氏が公の場で口にした「野望」といえます。習氏はそれから約1年4カ月後、最高指導者の地位へと上り詰め、「中国の夢」を指導思想に据えました。また、スローガンとして「中華民族の偉大なる復興」を掲げています。
その中身は、中国共産党結党から100年に当たる2021年、中華人民共和国建国から100年に当たる2049年、その中間にある2035年を三つの時間軸としながら、経済力、技術力、軍事力で、超大国・米国に追いつき、追い越し、その過程で、台湾問題を解決して「祖国の完全統一」を達成すること、その結果、アヘン戦争(1840年)以来の「民族の屈辱」から脱却すること…といったものだと私は解釈しています。
習氏はサッカーをこよなく愛しており、その最高峰の祭典であるワールドカップが、中国の夢を追求していく上での一つの舞台に映っているのかもしれません。
実際、中国(男子)がFIFAワールドカップに出場したのは2002年の日韓共同開催時の1回きりです。当時、優勝したブラジル、3位に入ったトルコと同じ組・グループCで、3戦全敗(他はコスタリカ)、勝ち点ゼロで試合を終えています。
いま現在、北中米で開催されているFIFAワールドカップサッカー2026を含め、習近平氏が最高指導者に就任して以来、中国男子チームは一度もワールドカップに出場しておらず、習氏にとっての「願い」はいまだかなっていないというのが現状でしょう。
中国企業はW杯にどうコミットしているのか
中国代表は出場できていないFIFAワールドカップサッカー2026ですが、「中国」はそれなりの存在感を示しているといえます。中国企業が、主催者であるFIFAへのスポンサー(協賛)としてコミットしているからです。
まず、FIFAと長期的なパートナーシップを結び、ワールドカップだけでなく全てのFIFA主催大会の権利を有するFIFAパートナー(最上位スポンサー)7社の中にパソコン大手・レノボ(Lenovo)社が入っています。(その他は、サウジアラムコ、アディダス、ADI Predictstreet、コカ・コーラ、ヒュンダイ・起亜自動車、カタール航空、VISA)
また、今回の2026ワールドカップのオフィシャルスポンサーとして家電大手・ハイセンス (Hisense)と乳製品大手・蒙牛(Mengniu Dairy)の2社が入っています。
この3社によるスポンサーの総額は約5億ドル(約800億円)に上り、米国(6社)に次ぐ世界第2位のスポンサー国の地位に君臨しています。
私が執筆している7月8日午前現在、ちょうどノックアウトステージにおける「8強」がそろったタイミングで、引き続きサッカーファンにとっては緊張感と高揚感が入り交じった時期が続くと思いますが、各スタジアムで行われる試合、およびその映像から、レノボ、ハイセンス、蒙牛のロゴやスローガンが、ときに中国語が混ざりながら映される光景を目にした方も多いのではないでしょうか。
私は日本戦をテレビの地上波で観戦した際、レノボのCMも目にしました。
実際、これらの企業が投じているのは広告効果を目的としたカネだけでなく、技術やモノも提供しています。
例えば、レノボは「公式テクノロジーパートナー」という立ち位置で、1万7,000台以上のデバイスやAI技術を提供するなど、大会運営におけるインフラとしての役割を担っています。ハイセンスは大会の公式テレビ、映像技術、蒙牛は公式乳製品・アイスクリームなどを提供するなど、運営自体にコミットしているという状況です。
W杯から見る中国経済と中国企業の現在地
このように、経済力同様、ワールドカップにおけるスポンサー企業の数や金額という分野でも「世界第2位」の座につけている中国ですが、実際のところは、その勢いに陰りが見られます。
例えば、ワールドカップへの協賛企業という意味でいうと、2018年のロシアワールドカップでは7社の中国企業(大連万達グループ、VIVOなど)がスポンサーを担っていました。
また、2022年のカタールワールドカップでは、中国企業によるスポンサー額は約14億ドル(約2,000億円)に達していました。
もう一つ、私が注目したのが、中国国内向けの放映権についてです。自国は出場できていないですが、中国では習近平氏を含め、サッカーファンがゴマンといて、ワールドカップ期間は非常に盛り上がりますから、当然国内の主要メディアが放映権を勝ち取りに行きます。
今回、FIFAは当初2億5,000万~3億ドルを要求していたのですが、最終的には国営の中国メディア集団(CMG、CCTV)が約6,000万ドルという大幅なディスカウント価格で妥結しました。中国代表チームが出ていない、時差の関係で視聴率に影響が出るといった要因も重なったのでしょうが、中国側がFIFAに対してかなり「強気」で価格交渉をしたということでしょう。
この価格交渉を巡り、私が思い当たることが2点ありました。
一つは、大国どころか、強国を自称し、追求している国として、そもそも強気の交渉をしてくる傾向にあったということです。これは、中国政府の外交交渉や中国企業の買収交渉などあらゆる場面でも起きている事象です。中国という国の「強硬姿勢」を物語っています。
もう一つが、この連載でも幾度となく検証してきた「迷走する中国経済」の影響です。国営の中国メディア集団としても、その費用対効果の観点から、FIFAから要求された額の3分の1以下である6,000万ドルしか払えなかった可能性は大いにあります。また、前述した、中国からのスポンサー企業の数、金額を見ても、従来よりも低下傾向にあることは比較的明確です。
私の理解によれば、もちろん中国代表が本大会に参加できていないというのが最大の理由なのでしょうが、中国人民のワールドカップ熱は決して冷めておらず、中国企業としても、ワールドカップという4年に1度の舞台を広告、顧客獲得、ブランドといった戦略から重視していることは間違いないでしょう。
最近、中国では「出海」(チューハイ)という言葉がはやっています。おおむね、企業の海外進出を指します。国内経済が供給過剰と需要不足のダブルパンチで低迷する中、多くの企業にとって、「外に出なければ淘汰(とうた)され、つぶれる」という荒波が立ちはだかっています。
そんな中、体力のある大手を中心に、ワールドカップという習近平氏にとっての「夢の舞台」でエクスポージャーを図ることは、その企業戦略に符合するケースは少なくないでしょう。一方で、払えるか払えないか、払うか払わないか、は別問題という現実もまた立ちはだかっています。
その意味で、現在行われているFIFAワールドカップサッカー2026は、中国企業の「海外進出欲」と中国経済の「構造的低迷」の両方を反映していると私は分析しています。
(加藤 嘉一)

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