ジャクソンホール会議でのウォーシュFRB議長講演と金融経済懇談会での氷見野日銀副総裁の講演、いずれもタカ派色をにじませ9月は同時利上げの公算大。市場の関心は次の利上げへ。

日本ではインフレリスクが強まり10年金利がとうとう3%台に。果たして物価はどこまで上がるのか。賃金との関係から探ります。9月利上げの後は12月?


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日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
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ウォーシュFRB議長、ジャクソンホール会議でタカ派姿勢示す、9月利上げへ

 市場の注目を集めていた「ジャクソンホール会議」が8月27~29日の日程で開かれ、ウォーシュFRB議長による予想以上のタカ派発言を受けて、9月利上げに対する市場の思惑が強まることとなりました。


 FRB議長として初めて出席したウォーシュ氏は、28日に行われた講演で、物価目標を上回るインフレはFRBの責任だとして、「基調的なインフレ率が十分な速度で明確に目標へ向かっているという確信が持てないなら、まだやるべき仕事がある」と語り(図表1)、9月利上げに含みを持たせました。


<図表1 ジャクソンホール会議でのウォーシュ議長の発言>
日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
(出所)FRBより筆者邦訳

 これを受け、それまで3割程度だった金利先物が織り込む9月の利上げ確率は、一気に6割超まで上昇しました(図表2)。


<図表2 金利先物が織り込む利上げ確率の変化>
日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
(出所)シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)、楽天証券経済研究所作成

 今回のウォーシュ議長の発言は、インフレ抑制を優先する中央銀行としての姿勢を改めて明確にし、金融政策運営に対する市場の信認をつなぎ止めようとしたもので、9月利上げの可能性が大きく高まったとみています。


氷見野日銀副総裁、埼玉講演で9月MPMがライブになることを示唆

 一方の日本銀行。やはりこちらも注目されていた氷見野良三副総裁の講演が27日に開催され、副総裁は決め打ちを避けつつも、9月金融政策決定会合がライブになる、すなわち利上げが議論される可能性が高いことを示唆しました(図表3)。


<図表3 氷見野副総裁の金融経済懇談会(埼玉、2026年8月27日)>
日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
(出所)日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 ポイントは、「毎回の金融政策決定会合において、しっかりと議論してまいりたい」という発言です。市場はこの『毎回の』という言葉を、利上げタイミングとして9月の金融政策決定会合も含むと受け止め、すでに8割程度にまで高まっていた9月利上げの織り込み確率は、講演後も低下することはありませんでした。


 日銀も、9月17~18日に開催される金融政策決定会合で、1.25%への利上げを行う可能性が高いとみています。市場も9月は利上げで勝負あったとみており、関心はすでに9月利上げ後のさらなる追加利上げに移っています。


市場の関心は9月利上げ後の追加利上げ~カギを握るインフレ期待の上振れ~

 鍵を握るのは、長期金利上昇の背景ともなっているインフレ期待(予想)です。といっても、日本ではインフレ期待が実績に応じて事後的に調整される傾向が強いため(これを「適応的期待」と言います)、重要なのは消費者物価のこれまでの実績、特に足もとまでのトレンドということになります。


 図表4は、先月2025年基準に改定された消費者物価指数(CPI)の生鮮食品およびエネルギー除く総合指数と、それと関係の深い賃金指数を2015年から見たものです。図にはそれぞれのトレンドラインとして、ざっくりですが前年比が3%になるラインも点線で掲載しています。この図が示しているのは、このところCPIと賃金が相乗的に3%ペースで上昇している姿です。


<図表4 消費者物価指数と賃金指数>
日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
(注)消費者物価指数(CPI、生鮮食品およびエネルギー除く)は、2025年以降を日本銀行が算出する特殊要因除く指数で接続している。(出所)総務省、厚生労働省、日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 もちろん、日銀が目指しているのはCPIの3%トレンドではなく、「物価安定の目標」の2%トレンドです。つまり、この図が意味するのは、金融政策のフェーズがすでに2%を目指す局面から、2%に抑える局面に変わっているという事実です。


 政策金利が中立金利を下回る緩和状態が長引き、CPIの3%トレンドが今後も続けば、インフレ期待もおのずと3%に上振れていくことになります。


 そうなれば、CPI上昇率を2%トレンドに着地させることが困難となり、大幅な利上げを余儀なくされる、いわゆるビハインド・ザ・カーブ(利上げが後手に回ること)に陥る可能性が極めて高くなります。日銀の政策委員会が「ヤバい」と焦っていても不思議ではありません。


 のんきに構えていれば、昨日、1996年9月以来30年ぶりに3%に達した10年金利は、インフレ高進をますます織り込んでさらに上昇していくことになります。


 こうしたことから、CPIの3%トレンドが定着し、インフレ期待が2%を超えて上振れる前に、CPIの上昇ペースを今より低下させる必要があります。9月に利上げした後の追加利上げについては、今のところ筆者のメインシナリオは来年1月で従来から変わりませんが、今後の物価指標の出方次第では、今年12月に早まる可能性も低くはないとみています。


物価と賃金の上昇率はどこに着地するのか

 ところで、図表4に示したCPIと賃金の上昇率は、今後も今の3%トレンドに沿って上昇し続けるのでしょうか。それとも別の均衡点に向けて変化していくのでしょうか。

インフレと賃金を示す別の指標を使って、少し理論的に考えてみましょう。


(1)上昇するGDPデフレーターとユニットレーバーコストの意味

 図表5は、日本の国内総生産(GDP)デフレーターとユニットレーバーコスト(ULC)です。ユニットレーバーコストとは一単位生産するのにかかる労働費用のことで、労働を提供した人が受け取る報酬の総額である「名目雇用者報酬」を、実質GDPで割って算出します。


 その分母と分子にGDPデフレーターを掛ければ、名目雇用者報酬を名目GDPで割った労働分配率と、GDPデフレーターに分解することができます。


 従って、GDPデフレーターの伸びは、ユニットレーバーコストの伸びから労働分配率の伸びを差し引いたものと整理することができ、仮に労働分配率が一定なら、GDPデフレーターの伸びはユニットレーバーコストの伸びと同じになります。


 確かに、図表5を見ると、両者が同じように推移していることが分かります。ちなみに、両者の乖離(かいり)部分は労働分配率の変化で説明可能です。


<図表5 GDPデフレーターとユニットレーバーコスト>
日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
(注)シャドーは景気後退期。(出所)内閣府、楽天証券経済研究所作成

 このように、図表4ではCPIと賃金指数が同じようなペースで上昇しているという現象を、事実として捉えるしかなかったわけですが、同じインフレ指標と賃金指標の組み合わせをGDPデフレーターとユニットレーバーコストに置き換えることによって、恒等式として双方の関係性を捉えることが可能となります。


 そのGDPデフレーターとユニットレーバーコストが、近年、かなりの勢いで上昇していることが分かります。


(2)実質賃金は労働生産性に規定される

 その具体的な伸び率を、高成長期(1980~1997年)、低成長期(1998~2012年)、アベノミクス期(2013~2019年)、最近(2024~2025年)に分けて示したのが、図表6になります。


<図表6 実質雇用者報酬と労働生産性>
日米とも9月利上げへ、日銀を焦らす物価・賃金の上昇ペース、12月に追加利上げも(愛宕伸康)
(注)実質雇用者報酬は名目雇用者報酬を家計最終消費支出デフレーターで実質化。消費者物価は総合指数(消費税調整済み)。労働生産性は内閣府が推計する潜在成長率から、労働時間と就業者数の伸びを差し引いて計算した。(出所)総務省、内閣府、楽天証券経済研究所作成

 図には、名目雇用者報酬、図表5にも示した「家計最終消費支出デフレーター」、それを用いて名目雇用者報酬を実質化した実質雇用者報酬、消費者物価指数(総合、消費税調整済み)、潜在成長率から労働時間と就業者数の伸びを差し引いた労働生産性の伸びを示しています。


 ちなみに、賃金指数と雇用者報酬の違いは、前者が労働者1人あたりの現金給与総額であるのに対し、後者が全雇用者に支払われた報酬の総額であり、雇用者数の変化分が伸び率の違いに現れることになります。


 図表6の説明を兼ねて、直近の2024年から2025年を見てみましょう。まず、名目雇用者報酬は、図表4に示した賃金指数より若干高めの3.7%増加しています。


 家計最終消費支出デフレーターの伸び3.1%は消費者物価指数の伸び3.0%とほぼ同じであり(基礎データが同じなので、基本的にそうなります)、それで実質化した実質雇用者報酬は0.6%(=3.7-3.1)の伸びに止まっています。実質雇用者報酬を実質賃金と考えると、経済理論上は労働生産性の伸びと同じになるはずで、実際そうなっているのが分かります。


(3)インフレの経済に対する影響、賃金との関係を見るだけでは不十分

 さて、問題は、今後名目雇用者報酬やCPIのトレンドに変化が生じるかどうかです。もし、労働生産性に見合わない高い賃金を企業が払っているとすれば、労働分配率が上昇し、やがてそれを抑制する力が働くはずです。


 従って、名目雇用者報酬の伸びが縮小していき、それに見合ってCPIの伸びも縮小すると想像できます。しかし、今は実質雇用者報酬の伸びと労働生産性が同じという均衡が成立しているわけで、その限りにおいては現在の構図が変化するインセンティブがないように見えます。


 しかし、ここで一つ考えなければならないのは、果たして図表6がマクロ経済全体を描写しているのかどうかという点です。雇用者報酬は前述のとおり、労働を提供した人が受け取る報酬の総額です。


 ということは、賃金でも同じことですが、図表6は雇用者(就業者)のみを対象とした議論であって、4千万人弱(公的年金の実受給権者数は2024年度末で3,941万人)に上る年金受給者を考慮していない議論ということになります。


 高インフレ(インフレ増税と言ってもよいでしょう)が直撃する年金受給者などまで含めて考えると、持続する3%という高インフレに日本経済が耐え得るかどうかは不明です。


 仮に、今後、高インフレによって景気が鈍化の度合いを強めていった場合、結果的に労働分配率が上昇し、企業は名目雇用者報酬の伸びを抑制する動きを強め、CPIの伸びが鈍化していくかもしれません。


 いずれにせよ、高インフレが続くことの年金受給者を含めたマクロ経済全体への影響については、さらに分析を深める必要がありますが、とはいえ、日銀が2%の物価安定目標を実現させようとする限り、CPIの3%トレンドが定着し、インフレ期待が2%を超えて上振れる前に、CPIの上昇ペースを今より低下させる必要があるという結論が変わることはありません。


(愛宕 伸康)

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