iDeCoは掛金の全額が所得控除の対象となるため、掛金を増やせば現役時代の節税効果が高まります。一方、iDeCoは受取時に税金がかかるため、受け取る金額が大きければ大きいほど、課税額も増えるのです。

では、積立時の節税と受取時の課税、どちらを重視してiDeCoを積み立てるべきか、50歳会社員のシミュレーションを基に考えていきましょう。


iDeCoの掛金上限「6万2,000円」に引き上げも、すぐ増...の画像はこちら >>

iDeCoの掛金を増やす前に知っておきたいこと

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を拠出して運用し、原則60歳以降にその資産を受け取る私的年金制度です。


 制度自体は2001年から導入されており、当時は「日本版401k」「個人型確定拠出年金」などと呼ばれていました。


 その後、2016年に「iDeCo」という愛称が決まり認知度が高まり、また2019年に騒がれた「老後2,000万円問題」によって個人の資産形成意識が高まったことから、iDeCoの加入者は年々増加傾向にあります。


 こうしたなか、50代に入って「定年後」「老後」が視野に入ってきた人のなかには、老後資金をより多く準備するために、iDeCoの掛金を増やそうと検討している人も多いようです。


 ただし、掛金は自由に変更できるわけではなく、変更する際のルールや注意点もあります。


 そこでまずは、掛金を増やす前に知っておきたい仕組みと節税効果について確認していきましょう。


iDeCoは掛金を調整できる

 iDeCoの掛金は、家計状況に応じて変更することが可能です。例えば、生活に余裕が出てきた場合は掛金を増やし、反対に収入の減少や支出の増加などによって負担が大きくなった場合は、掛金を減らすこともできます。


 ただし、掛金額の変更には、以下のようなルールが設けられています。


  • 掛金額を変更できるのは、原則として1~12月(納付月)の間に1回
  • 掛金の最低額は月5,000円で、1,000円単位で設定
  • 加入区分などに応じて掛金の上限が定められている

※それぞれiDeCo公式サイトより


 また、iDeCoで積み立てた資産は原則として60歳まで引き出せません。そのため、節税効果を高めるために無理に掛金を増やし、日々の生活費や急な出費に必要な資金まで拠出しないよう注意が必要です。


 なお、現行制度では、企業年金に加入していない会社員の場合、iDeCoの掛金上限は月2万3,000円です。ただし、2026年12月の制度改正後は、会社員のiDeCoと企業年金などを合わせた拠出限度額が月6万2,000円に引き上げられます。


 そのため、これまで上限まで拠出していたものの「さらに増やそう」と考えている人が多いのです。


iDeCoの掛金は全額所得控除の対象

 iDeCoに加入する大きなメリットは、なんといっても「掛金を拠出することで得られる節税効果」でしょう。


 iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、拠出した金額の全額を所得から控除できます。生命保険料控除のように控除額そのものに上限が設けられているのではなく、iDeCoでは拠出した掛金の全額が所得控除の対象です。


 そのため、基本的には掛金を増やすほど所得税や住民税の負担を軽減できます。


 節税額の目安は、以下のように計算できます。


  • 所得税の節税額=年間の掛金×所得税率
  • 住民税の節税額=年間の掛金×10%

 例えば、所得税率20%の人が毎月1万円(年間12万円)を拠出した場合、所得税と住民税を合わせて年間約3万6,000円の負担軽減が見込めます。毎月3万円(年間36万円)であれば、年間約10万8,000円です。


 ただし、実際の節税効果は、所得やほかの所得控除・税額控除などによって異なります。住宅ローン控除などによって、もともと納める所得税が少ない人などは、iDeCoの掛金を増やしても想定した節税効果を得られない場合があるため注意が必要です。


iDeCoの掛金を増やすと本当にお得なのか

 ここからは、50歳の会社員をモデルに、iDeCoの掛金を増やした場合の節税効果と受取時の税金をシミュレーションします。


 具体的には、50歳以降も毎月1万円の拠出を続けるケースと、毎月3万円に増額するケースの比較です。50歳から60歳までの節税額の合計や、60歳時点のiDeCo資産額、退職金とiDeCoを一時金で受け取った場合の税額について、それぞれどの程度変わるのかを確認していきましょう。


 なお、掛金については「2026年12月の制度改正後の上限」を基準に試算します。


 シミュレーションの前提条件は以下のとおりです。


  • 属性:会社員
  • 配偶者:なし
  • 年齢:50歳
  • 所得税率:20%
  • これまでのiDeCo掛金:月1万円
  • 50歳時点のiDeCo運用期間:10年
  • 50歳時点のiDeCo資産額:154万円
  • 50歳以降の運用期間:10年
  • 想定利回り:年5%
  • 60歳時点の勤続年数:30年
  • 退職金:1,000万円
  • 退職所得控除:1,500万円
  • iDeCoの受取方法:一時金
  • 企業年金:加入なし

モデルケース1:毎月1万円を拠出する場合

 まずは、50歳以降も毎月1万円の掛金を継続するケースです。


 所得税率を20%とした場合、年間12万円の掛金に対する所得税の節税額は2万4,000円です。住民税についても1万2,000円軽減されるため、年間の節税額は合計3万6,000円となります。


 そのため、50歳から60歳までの10年間では、合計36万円の節税効果が得られる計算です。


 また、想定利回り5%で運用できた場合、60歳時点のiDeCo資産は約406万円となります。退職金1,000万円と合わせると、受取額は合計1,406万円です。


 よって、今回のケースでは退職金とiDeCoの一時金を合わせても退職所得控除1,500万円の範囲内に収まるため、退職所得に対する所得税・住民税は発生しません。


 モデルケース1のシミュレーション結果をまとめると、以下のとおりです。


項目 結果 年間の節税額 3万6,000円 10年間の節税額 36万円 60歳時点のiDeCo資産 約406万円 退職金を合わせた受取金額 約1,406万円 受取時の課税額 0円

モデルケース2:毎月3万円の拠出に変更した場合

 次に、50歳から掛金を毎月3万円に増額するケースを見ていきます。


 所得税率を20%とした場合、年間36万円の掛金に対する所得税の節税額は7万2,000円です。住民税についても3万6,000円軽減されるため、年間の節税額は合計10万8,000円となります。


 そのため、50歳から60歳までの10年間では、合計108万円の節税効果が得られる計算です。毎月1万円を拠出するモデルケース1と比べると、10年間の節税額は72万円多くなります。


 また、掛金月3万円を想定利回り5%で運用できた場合、60歳時点のiDeCo資産は約710万円となる計算です。退職金1,000万円と合わせると、受取額は合計1,710万円となります。


 退職所得の金額は、以下の計算式で求めます。


 退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2


 今回の退職所得控除は1,500万円のため、課税退職所得金額は105万円です。


(1,710万円-1,500万円)×1/2=105万円


 この105万円が課税退職所得金額となり、以下に該当する所得税率をかけて所得税額を算出します。


iDeCoの掛金上限「6万2,000円」に引き上げも、すぐ増額は「ちょっと待った」…掛金を月1万円から3万円に増やした50歳会社員「10年後の受取額」は?【iDeCoの出口戦略シリーズ】
出典: 国税庁「No.2260 所得税の税率」

 課税退職所得金額105万円の場合、所得税率は5%です。そのため、所得税は次のようになります。


所得税:105万円×5%=5万2,500円


 また、住民税は課税退職所得金額の10%として計算します。


住民税:105万円×10%=10万5,000円


 従って、退職金とiDeCoを一時金で受け取った際の税額は、所得税と住民税を合わせて15万7,500円となります。


項目 結果 年間の節税額 10万8,000円 10年間の節税額 108万円 60歳時点のiDeCo資産 約710万円 退職金を合わせた受取金額 約1,710万円 受取時の課税額 15万7,500円

50代からのiDeCo増額で気をつけたいこと

 今回のシミュレーションでは、iDeCoの掛金を月1万円から月3万円に増額したほうが、受取時の税金を考慮しても節税メリットが大きいという結果になりました。


 それぞれの結果を比較すると、以下のとおりです。


掛金 月1万円 月3万円 50~60歳までの節税額 36万円 108万円 受取時の課税額 0円 15万7,500円 節税額-受取時の課税額 36万円 92万2,500円

 掛金を月3万円に増額すると、10年間の節税額は月1万円の場合より72万円増えます。

一方、受取時には15万7,500円の税金が発生します。


 それでも、今回の条件では、月3万円に増額したケースのほうが、税負担は約56万円軽減できました。


 ただし、これはあくまで今回の条件によるシミュレーションです。所得税率や掛金額、運用利回りや退職金の金額、勤続年数などが変われば、節税額や受取時の税金も変わります。また、iDeCoを年金形式で受け取る場合は税金の計算方法も異なるため注意しましょう。


 iDeCoの掛金変更を検討する際は、現役時代の節税効果だけを見るのではなく、将来の退職金やiDeCoの受取額など、出口まで考慮して考えることをおすすめします。


(辻本 剛士)

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