連載第96回
杉山茂樹の「看過できない」

 48カ国によって争われている今回のワールドカップ本大会。初めて体験するこのスケール感に、筆者は少なからず圧倒されている。

 これまでの32カ国から1.5倍の増加だ。24カ国だった時代(1982年スペイン大会、1986年メキシコ大会、1990年イタリア大会、1994年アメリカ大会)を知る筆者には、このうえなく新鮮に映る。スケール感に驚かされるばかりである。

 これまでなら試合はほぼ毎日、観戦できた。次なる会場に続けて駆けつけることができる距離にあった。だが今回、それは難しい。現地を訪れているにもかかわらず、テレビ観戦を強いられる頻度が高い。アメリカ大陸の大きさを痛感させられている毎日だ。

サッカー日本代表に引き分けたオランダの立ち位置 優勝候補が目...の画像はこちら >>
 さらに言えば、大会が始まれば瞬く間に時間が過ぎていくのが常だった。気がつけばグループリーグの2戦目を迎えていたとか、決勝トーナメントに入っていたとか、日本が舞台からいなくなっていたとか、ジェットコースターに乗って一気に突っ走るような感覚に襲われたものだ。だが、今回はそうではない。決勝戦が行なわれる7月19日まで、まだ1カ月以上もある。
大会はまだ始まったばかり。グループリーグの1節目も終わっていない。先が果てしなく長く感じられる。

 ワールドカップの旅は優勝チームを探る旅でもある。それに筆者はこれまで11回も参加してきたわけだが、その経験から言わせてもらうと、最初から最後まで好調なチームはない。危ない橋を渡りながら決勝戦に駒を進めるのだ。だからグループリーグ1節目の戦いを見て評価を下すのはナンセンス。グループリーグを3引き分けで辛うじて通過したにもかかわらず、優勝を飾った1982年スペイン大会のイタリアのような例もある。

 48チームを4チームずつ12のグループに分ければ、これまで(32チームを4チームずつ8つのグループに分けた)より、4チームの力関係に差が生まれる。グループリーグの接戦度は低下する。波乱の目は限りなく低下する。「順当」な結果に終わる可能性が高い。

【好試合が目立つここまで】

 ところが実際は今回、好試合が多い。グループリーグのこれまでの戦いを見る限り、競った面白い試合が目につく。グループHのスペイン対カーボベルデなどはその最たる例になる。結果は0-0。優勝候補の筆頭に推されているスペインが、初出場のカーボベルデを軽く一蹴するだろうとの予想は大きく外れた。

 攻めるスペイン。守るカーボベルデ。この一方的な関係は最後まで崩れなかった。その意味では好試合とは言えないが、今大会これまでのところ、一番の事件と言える。先は長い。できるだけ手を抜いて勝ちたいとスペインが考えたとしても不思議はない。ラミン・ヤマルを後半26分までベンチに温存したことに、それは端的に表われている。

 スペインの計画は失敗に終わった。

ひと言で言えば「油断」となるが、それでスペインが焦っているというわけでもない。残る2試合はウルグアイとサウジアラビアだ。ウルグアイはそれなりに手強い相手だが、サウジアラビアには負けないだろう。「順当」の予想が初戦の1分けで崩れることはない。

 ただし、「順当」が予想されるのは、グループリーグと決勝トーナメント1回戦(32強)あたりまでだろう。前評判の高い強豪がまさに順当に、きれいに勝ち上がれば、少なくとも準々決勝4試合は、好カードが並ぶことになる。そこから先の予想は「激戦必至」となる。

「順当」から「激戦必至」に一転する展開だ。となると、見どころはクライマックスに差しかかった時、各チームにどれほど体力が残されているかになる。優勝候補に推されている上位8強は、そのあたりを念頭に置いているはずだ。

 そこにはオランダも含まれる。日本と2-2で引き分けた一戦は、番狂わせに等しい、スペイン対カーボベルデに次ぐ事件と言えるが、両国の立ち位置が影響した試合であったことも確かである。

【一流のスタジアム、満杯の観衆】

 オランダはエネルギーを100%使わずに勝ちたいと考えた。立ち上がりからボールを支配したが、リスクの少ない慎重なボール運びを繰り返した。2-1とリードした状況で終盤を迎えると、5バックに布陣を変え、守りきろうとした。それが仇となり、日本に同点弾を許し、引き分けることになったのだが、そこには確固たる言い訳が存在する。

 何と言ってもまだ決勝まで1カ月以上もある。ドラマはこれからいくらでも起きる。どこが優勝するのかを最大のテーマに、アメリカ大陸を1カ月間以上にわたって大旅行する筆者にとって、それが簡単にわかってしまっては面白くない。最後はこれ以上ない激戦の連続であってほしい。

 舞台は一流だ。スタジアムの話だが、とにかく大きい。全16会場のなかで国立競技場(約6万8000人)より大きなスタジアムは半分以上の9を数える。加えて観衆はどの試合もほぼ満杯だ。

大会前、日本では「観客席は埋まるのか」という懸念が囁かれていたが、そこで筆者は1994年アメリカ大会を想起した。

 この時も、同じ心配をする日本人がたくさんいた。サッカー文化のない国で行なわれるワールドカップは成功するのか、と。だが、32年前も日本人の心配は杞憂に終わった。巨大なスタンドはどこも超満員で、舞台に問題はまったくなかった。今回はそれ以上だ。大きいうえに、どこも新しい。

 心配したくなるのはむしろ日本のほうだ。ダラスのスタジアムに6万9285人を集めたオランダ戦。その内訳は、ざっと見てオレンジ4万人に対し、ブルー1万5000人といったところだった。ブルーのうち日本から駆けつけた人に限れば、5000人いれば多いほうではなかったか。大多数の日本人にとって、ワールドカップ観戦旅行は高嶺の花になってしまった。

 オランダ人だけではない。他国のサポーターと比較しても日本人の数は少ない。アメリカの心配をしている場合ではない。国力の低下という逆風が吹くなかで、サッカー日本代表はどんな成績を収めるか。興味深く見守りたい。

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