次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線
第20回 山梨学院・檜垣瑠輝斗
衝撃のニュースが飛び込んできた。
投打二刀流の怪童・菰田陽生(はるき)を擁する強豪・山梨学院が、山梨大会準決勝で帝京三に敗退。
もし山梨学院が山梨大会決勝に進んでいたら、準決勝で登板機会のなかったこの投手がおそらく先発マウンドに上がったのだろう。今夏にひっそりと復活した、もうひとりのエース・檜垣瑠輝斗(ひがき・るきと)である。
【配球の7、8割がカットボール】
今春の選抜高校野球大会(センバツ)では、左ヒジ疲労骨折の故障明けのため、大事をとって登板回避。故障が癒えた今夏は2試合で9イニングを投げ、被安打1、失点0と抜群の安定感を見せていた。
身長195センチ、体重102キロの巨躯を誇る菰田に対し、檜垣は身長176センチ、体重67キロと平凡な体格。ストレートの球速は常時130キロ台半ばで、プロスカウトが食指を動かす対象とは言い難い。
ただし、檜垣にはカットボールという絶対的な武器がある。高校野球の歴史を振り返ってみても、檜垣ほどのカットボールの使い手はいなかったのではないか。檜垣はカットボールについて、「自分の生命線」と言い切った。
球場の横(一・三塁側)から檜垣の投球を見ていると、何の球種を投げているのか判然としない。どのボールも、ストレートとの球速差がほとんどない。130キロ台前半で小さく動く球もあれば、120キロ台後半で小さく落ちる球もある。
「配球の7、8割はカットボールです。同じように投げていても、指のかかりによって横に曲がったり、下に落ちたりするんです。(2年夏の)甲子園で投げた時は、ほぼカットボールでした」
一般的な高校生投手が投げるカットボールは、ストレートとの球速差が激しい。10キロほども減速するスライダー系の球を、「カットボール」と申告する投手も珍しくない。
檜垣のカットボールは130キロ前後で変化する、一級品のカットボール。ストレートを狙っている打者は、檜垣の格好の餌食になる。
「ストレートの軌道からボール1球分ズレるので、内野ゴロやファウルを取れます」
【曲げようとしないが極意】
いったい、どのように投げているのか。そう聞くと、檜垣は惜しげもなく教えてくれた。
「握りは真っすぐに近くて、ストレートと同じ感覚で腕を振ります。ただ、リリースポイントの一瞬で『曲げる』感覚を入れます。本当に一瞬だけですね」
変化の具合が今ひとつの日は、すかさず吉田健人部長から指摘が入る。
「曲げる意識が強すぎると、体を横に振ってしまうので......。
吉田部長は技術指導全般を担当しており、檜垣と二人三脚で取り組んできた。そうしてマスターしたのが、今のカットボールなのだ。
菰田もまた、チームメイトの檜垣からカットボールを学んだと証言している。
「センバツ前に、檜垣の握りを参考にしてカットボールを覚えました。檜垣のカットボールは高校トップクラスのボールですから」
同学年とはいえ、菰田はエースを争うライバルである。「敵に塩を送る」感覚はなかったのか問うと、檜垣は笑顔でこう答えた。
「真っすぐが軸の菰田にカットボールがあれば、全然違いますから。日本一を目指す投手陣のひとりとして、『教えたくない』という思いはないですね」
今春のセンバツで菰田と檜垣の穴を埋めた2年生左腕の渡部瑛太も、「檜垣カットボール道場」の門下生である。檜垣は後輩左腕に対しても、助言を惜しまなかったという。
「渡部は自分とタイプがほぼ同じなので、カットボールを含めてほとんど教えました。渡部はよく『カットボールの球速が出ない』と言ってきますが、『曲げようとせずに、より真っすぐに近い感覚で投げるといいよ』と伝えています」
左ヒジの疲労骨折とカットボールの多投の因果関係は気になるが、靭帯など回復に時間のかかる部位は痛めていない。むしろ、「ストレートの出力はケガする前より上がっています」と檜垣は自信を深めていた。
【唯一無二のカットボーラーが歩む次の舞台】
今夏の山梨大会では、檜垣は1回戦から快投を続けていた。投げられなかった春の鬱憤を晴らすかのようなパフォーマンスだったが、試合後に報道陣に囲まれるのは決まって菰田である。
関東王者に輝いた昨秋にしても、公式戦で主戦格として投げたのは檜垣だ。公式戦のイニング数で言えば、檜垣の48回2/3に対し、菰田は7回に留まる。
そんな檜垣に対して、吉田部長は昨秋にこう讃えていた。
「檜垣がいるから、菰田を無理させずに使うことができる。頼れるピッチャーが菰田ひとりだったら、こんな起用はできません。どうしても菰田ばかりが注目されますけど、このチームにとって檜垣の存在はものすごく大きいですし、ありがたいと感じています」
檜垣のなかで、「自分ももっと注目を浴びたい」という功名心や、菰田に対するジェラシーは湧かないのだろうか。意地悪な質問と思いつつも、聞かずにはいられなかった。
檜垣はこちらの意図を察してか、苦笑混じりにこう答えていた。
「逆に菰田がいるから、自分のような選手でも多少は注目してもらえるのかなと思っています。それに速球派の菰田が同じチームにいるから、自分のようなタイプが生きるなと。
高校卒業後は、強豪大学で野球を続ける予定になっている。強打者のバットの芯を巧みに外す檜垣なら、大学でもきっと重宝されるに違いない。
当代一のカットボーラー・檜垣瑠輝斗は、これからも唯一無二の存在感を放ち続ける予感がする。










![Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/41Bs8QS7x7L._SL500_.jpg)
![熱闘甲子園2024 ~第106回大会 48試合完全収録~ [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/31qkTQrSuML._SL500_.jpg)