36歳の技巧派・菅野智之(ロッキーズ)が残した2年連続2ケタ...の画像はこちら >>

【技巧派として2年連続ローテーションを堅持】

「アメリカではいかに速いボールを投げて、多くのスピンをかけて空振りを奪うかが主流になってきている。だからケガが増えてきている。そのなかで1年間計算できるピッチャーでいるのは、自分ひとりの力ではやっぱり(難しい)。

トレーナーやサポートしてくれる人がいるので、そういう人たちに感謝しています」

 メジャー2年目のシーズン終了を間近に控え、コロラド・ロッキーズの菅野智之のアメリカ野球に関する分析は、的を射ていると言えるのだろう。そういった環境のなかで、自身が残してきた実績に少々控えめながら胸を張ったのも理解できる。

 昨季、ボルチモア・オリオールズでは10勝10敗、防御率4.64だったベテラン右腕は今季も26試合登板で12勝9敗、防御率5.30という成績をマーク(現地時間9月14日時点)。防御率の高さこそ気になるものの、パワーピッチャー全盛の時代に、技巧派の36歳が2026年もほぼ1年を通じて先発ローテーションを守ってきたことは、特筆すべき点である。

 チーム周辺の人間に話を聞いても、菅野の評判は総じてよかった。特に41歳の青年監督、ウォーレン・シェーファーは絶賛している。投球だけでなく、英語はまだ流暢ではないはずの菅野のリーダーシップまでも強調していたのが印象深い。

「トモ(菅野)には被害を最小限に抑える能力、冷静さを保つ能力、そしてマウンド上でのベテランとしての存在感がある。言葉の壁は現実に存在するが、それでも背中で投手陣を引っ張ってくれてきた。それが常に一番いいリーダーシップの形なんだ。彼が日々、どう準備しているのか、若い選手たちは毎日見ることができる。ローテーションの5日間を通してトモの姿を見ていれば、選手たちは学ぶものがある。

長いイニングを投げ続けるために必要なことが何であれ、それができているということだから」

 指揮官がメディアの前で自軍選手を褒めるのは当然だが、シェーファー監督のこれらの言葉は単なる社交辞令ではなさそうだ。ある関係者は「(打者天国で有名な)クアーズフィールドを本拠地にしているのであれば(高地に位置しておりボールが飛びやすい)、防御率が少し高くなるのは仕方ない」としたうえで、監督同様に菅野のプロ意識を称賛していた。

「シェーファー監督は言葉だけではなく、先発ローテーションを守ってきた菅野に本当に感謝しているようだ。日々をプロフェッショナルらしく過ごしているし、若い選手が多かったチーム内で手本になる存在だったのは事実なのだろう」

【労使協定交渉が与える想定される影響】

 もちろんすべてが順風満帆なわけではない。NPBでは大エースだった菅野もアメリカでは巨人時代に近い投球ができていないのは確かだ。8月は5試合で1勝4敗、防御率8.61と激しく打ち込まれた。メジャーでの被本塁打は2年で合計62本に達し、球威のなさゆえに痛打されるゲームも見受けられる。

 7月31日まで11勝4敗、防御率4.47という好成績を残しながら、8月3日のトレード期限までに強豪チームからは声は掛からなかった。優勝を狙うチームにとって必要なのは支配的な投球ができる投手であり、いわゆる"イニングイーター(安定して長いイニングを投げ、試合を作る投手)"の菅野はそれほど魅力的に映らなかったということなのだろう。今の立ち位置を考慮すれば、メジャーリーガーとしての将来は必ずしも楽観視できないのかもしれない。

 MLBの労使協定は今オフに期限切れを迎え、選手会とMLB機構の交渉は難航中。12月1日からロックアウトに突入する可能性が極めて高いと見られるなか、多くのFA選手が影響を受けることが予想される。ロッキーズとは1年契約の菅野も、そのなかに含まれるはずだ。

「11月中に契約をまとめられそうな一部のトップ選手以外、今オフのFA選手は不透明な状況に置かれる可能性が高い。今年はキャンプイン直前の2月にロッキーズと契約(基本年俸510万ドル=約7億6500万円)を結んだ菅野も、そのカテゴリーにいるひとり。状況を考えれば、来季はNPB復帰を模索したほうがベターかもしれない」

 米国内で活動する代理人のそんな言葉どおり、ロックアウトが長期化すれば2027年はFA戦線に加え、春季キャンプの開始も遅れることが必至。そんな情勢に加え、菅野の実力評価、年齢などを考慮すれば、確かに日米間で難しい選択を迫られることになっても不思議はない。

 ただし、そんな現在の立ち位置であったとしても、菅野のメジャーでの2年間には価値があったと思える。

 この2シーズン、菅野が負傷者リストに入ったのは背中の痙攣で離脱した今年7月の一度だけ。それ以外の期間は絶えずオリオールズ、ロッキーズの先発ローテーションで投げ続け、2年連続で2ケタの勝ち星を挙げてきた。ロッキーズの一員としての12勝は2021年のヘルマン・マルケス以来、チーム最多タイの数字でもある。

【独自の特色を出し、結果につなげた功績】

「(勝ち星がつくことは)責任イニングをしっかり投げているということ。(現代野球では)評価されない数字とはいえ、しっかりイニングは投げられているということだと思うので、悪くはないと思います」

 菅野自身もそう認めているとおり、勝利数は現在のMLBでは必ずしも高評価されるスタッツではない。とはいえ、先発投手は少なくとも5イニングを投げ、自軍をリードに導いておかなければ勝利は手にできないのだから、意味がないとは思えない。多くの先発が早いイニングでマウンドを降りる近年の趨勢を見ればなおさら、先発にとっての勝ち星は再評価されてしかるべきにも感じられる。

 今季ここまで26度の先発機会のうち、菅野が5イニング以上を投げた21試合でチームは14勝7敗。多少の運に左右されてきたのは事実だとしても、ナ・リーグ西地区で最下位に低迷し、すでにポストシーズン進出の望みは絶たれたロッキーズでこれだけの勝ち星を手にしてきたことが単なる偶然とはやはり思えない。

「チームも去年よりはいい成績になっている。その手助けには少しはなれたんじゃないかと思っていますし、そこにやりがいを感じて僕はやってきたので」

 メジャーでの菅野を"勝利の使者"とまで称するのは大袈裟なのかもしれない。それでも毎度の登板でサバイバルを模索し、チームを勝利に近づける術を見つけようとした投球には一風違った趣があった。球速、球威が重要視される現代メジャーリーグに乗り込み、制球力、球種の多彩さ、投球術、マウンド度胸を駆使して挑み続けたオールドファッションな勝負にはスリリングな見応えがあった。

 こんな生き様もある。今後がどうなろうと、たとえ今季限りでアメリカでのキャリアが一段落したとしても、菅野のメジャー挑戦は"成功"と呼んでいいだけの結果を生み出してきたように思えるのである。

杉浦大介●取材・文 text by Daisuke Sugiura

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