その後、業界では「健全化」を目指してさまざまな改革が起こり、2022年のAV新法の施行もあって現在では多くの業界人が「AV業界はクリアになった」「安心して働ける」と語る状況になっている。
大島薫さんはそれより前、2014年から2015年にかけて「男の娘AV女優」として活動。
現在はタレント・作家として元・現役問わず多くのAV女優へ取材を続けている。
業界の過去と今を知る大島さんが、自分の体験や取材を通して見聞きしてきた「AV業界の抱える問題点」について、話してもらった。(ライター・蒼樹リュウスケ)
販売停止したはずの作品がいつの間にか復活する「AVメーカーロンダリング」とは?
大島さんが現役当時、実際に見聞きしたケースとして「引退後も作品が発売され続け、画像が無許可で使われ続ける」といった例がある。とあるAV女優が人気になり、毎月発売される新作がどれも大いに売れていた。
ところがその女優は、実は2作ほど出演してすでに引退していた、という。
「もう引退していて連絡も取れない、当然撮影もしていないのに、毎月新作が出ていたんです。想像以上に彼女が人気になったので、メーカーがボツになった未使用映像などをうまく組み合わせて、新作を作っていたんですね」(大島さん)
売れるからと勝手に新作を発売する、現在なら大問題になる話だ。
しかも、話はそれで終わらない。
「数年後、彼女のことが気になって検索してみたんです。さすがに新作は出ていませんでしたが、ある風俗店で『電撃入店』として彼女の写真が使われていたんですよ。一瞬本人かな、と思ったんですが、写真はDVDのパッケージに使われていたものだし、写メ日記にはガラケーが映った低画質の自撮り写真があって。もうスマホの時代なのに」(大島さん)
確証はないが「本人の知らないところで、勝手に画像を使われていた」可能性が高いだろう。
「こうやって、1回デビューしたら永久に都合よく使われてしまうのかな、と哀しくなりました」(大島さん)
これは10年近く前の話であり、現在はここまでメチャクチャなことはおこなわれていない、と信じたいところだ。
一方、現在でもおこなわれている可能性があるものに、大島さんが「AVメーカーロンダリング」と呼んでいるものがある。
大島さんが元女優に取材して聞いた話であり、大島さん自身も似たような経験をした、という。
「たとえば、ある女優がAVの販売停止申請をして、販売サイトから作品が削除されます。本来ならそれで終わりのはずが、その後彼女の出演作が再び販売されている、というケースがあるんです」(大島さん)
いったいどういうことだろうか…。
「販売停止した作品そのものが復活するのではなく、その作品の一部が切り抜かれて、まったく知らないメーカーの作品として販売されるんです」(大島さん)
しかもその場合、出演女優名は本来の芸名とはまったく別の名前を付けられていることが多いそうだ。
「これだと元の名前で検索しても、勝手に再販売された作品は見つかりにくいですよね」(大島さん)
まるで犯罪組織が違法な金をマネーロンダリングするように、AVもタイトルやメーカー、女優名を変えてロンダリングされているわけだ。
どういった仕組みでこんなことが起こるのか、大島さんも被害に遭った女優もわからない部分が多いとのことだが、現実に被害を訴える女優が存在する以上、大きな問題と言えるだろう。
AV新法に従い交わされた契約書が女優にとって不利に働くケースも
2022年に施行された「AV出演被害防止・救済法」、いわゆるAV新法。出演者の権利を守るために施行された法律だが、考え方によっては出演者にとって不利になる面もある、と大島さんは言う。
たとえば撮影した素材を二次利用して制作される、総集編やオムニバス作品だ。
「作品に出演するときに交わされる契約書に、二次的著作物に関しても制作側に権利が帰属する、と明記される場合が多くなっています」(大島さん)
つまり、契約書が総集編やオムニバス制作に「お墨付き」を与える存在になり、なにかしらトラブルが起こった際に出演者側が不利になる可能性があるわけだ。
一部出演者へのオファー集中によって「AV女優の使い捨て状態」が増加
また、大島さんは現在の業界で「AV女優が使い捨てされる」ケースが増えているのでは、という点も危惧している。実際に、現在のAV業界では人気のある一部の出演者にオファーが集中する一方で、仕事・収入がほとんどない出演者が増加している、とも言われている。
「そうなると、仕事がない女の子はどんなに安い仕事でも出演してしまう。私が聞いた例では、複数の子が出演する作品のうちのひとりとして、疑似本番で1万円という話がありました」(大島さん)
このケースだと、出演時間も短く本番も疑似なので出演料は安めになるのは確かだ。
しかし、服を脱いで行為を見せている点では通常のAV出演と変わらず、作品は世の中に残り続けることを考えれば、出演料としてはあまりにも安すぎるだろう。
また、仕事を得るためにハードプレイをメインとする作品に出演OKしてしまい、結果として心身にダメージを負ったうえ、ほかの仕事のオファーは結局もらえない、といったケースもあるという。
「もう、やりがい搾取と言うか、使い捨て状態ですよね。自分の意志で出演を承諾しているわけだけど、実際は仕事がないからどんな作品にも出演せざるを得ない。選択肢があるように見えて、本当は選択肢なんてないところに追い込まれているんです」(大島さん)
数々の事例を聞かせてくれた大島さんが、引退した現在もAV女優へのインタビューを続け、業界の問題点を指摘しているのはなぜなのか、その思いを聞いてみた。
「AV女優になりたいって子が増えたのは確かです。でもその子たちが全員成功するわけじゃない。こういう事実があると伝えて、それを知ったうえで覚悟を持って出演するのでなければ、やめたほうがいいと考えています」(大島さん)
AV業界の問題が表に出てこない理由
業界が抱える問題が、現役の業界人からはなかなか指摘されず、ほとんど表に出てこない現状がある、とも大島さんは指摘する。「現役の女優さんは、業界のことを悪く言わないんですよ。自分が覚悟を決めて選んだ業界だし、本人たちはその世界で頑張っているわけだから、違和感があってもそれを外部に訴える理由がないんです。
現役時代から主張することは主張するほうだった、という大島さんでも、引退後に見えてきたことは数多くあると言う。
また現在ではいわゆる同人AV撮影でのトラブルを耳にする機会も増加している。
精力的に女優に取材し、AV業界の問題点を世の中に発信している大島さんだが、一方で一般社会との温度差も感じている。
「一般の方からすれば、結局のところAV業界のトラブルは『そういう業界だし、悪いことのひとつやふたつはあるんでしょ』と考えられてしまうんです。そのあたりの温度差はかなりあると思います」(大島さん)
とは言え、問題が起これば世間からの目はより厳しくなり、現在以上の強い規制がかかることになるだろう。
そんな状況にならないためにも、大島さんのような外部からの声に、業界は耳を傾けるべきだ。
さもなければ、現在起こっている「AVの地下化」や「出演者の困窮」といった状況がより深刻化し、AV業界は自分で自分の首を絞めることになるのではないだろうか。
<蒼樹リュウスケ>
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター。

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