PL学園から広陵高校まで “名門野球部”で40年続く「暴力の連鎖」… 元・甲子園球児の弁護士が語る「指導」と「ハラスメント」の境界線
高校野球の夏の風物詩、甲子園が今年も開幕する。だが高校野球には、消えない影がつきまとう。
暴力、そして指導の名を借りた圧力の問題である。
2025年夏に大きな問題となった、広陵高校(広島県)の寮内で上級生が下級生に集団で暴行を加えていた事案について、第三者委員会は今年5月28日、「集団的態様での暴力」「教育的指導の範囲を明らかに逸脱する重大な人権侵害」と断じる報告書を公表。
学校側は、全寮制の廃止と指導体制の抜本的見直しに追い込まれた。
さらに6月25日、春夏通算6度の甲子園制覇を誇る名門で今大会もV候補に挙げられている横浜高校の監督について、元部員による実名でのパワーハラスメント告発が週刊誌で報じられ、学校側との主張の対立が続いている。
なぜ高校野球の現場では暴力が繰り返されるのか。連鎖を止めるにはどうするべきか。(ライター:岩田いく実)

輝かしい甲子園の影で続く暴力の連鎖

2025年に発生した九州国際大学付属高校野球部で部員が同級生に暴力を振るった問題で、今年7月8日、日本高校野球連盟(以下「高野連」)は同校に対し注意の措置を行った。
被害生徒は今年2月にも被害に遭ったとされ、転校を余儀なくされている。
昨年の広陵高校に続き、今年も甲子園の影で暴力の連鎖が続いている。
高校野球の現場では長年にわたって暴力事件が続いてきた。
上級生から下級生へ、そして指導者から部員へ――。暴力は形を変えながら、高校野球の歴史に絶えず影を落としてきた。
1986年、名門・PL学園高校野球部で、上級生が下級生に対し、敷地内の人工池に投げ込んだスリッパを拾ってくるよう命じた。
その際、拾いに行かされた下級生の一人が水中から浮かび上がらず、死亡する事故が発生。理不尽な命令が部員の命を奪う結果となった。
同じPL学園では1990年代半ば、上級生による下級生への暴力事件が相次いで表面化し、複数の部員が処分を受けている。
2011年12月には青森山田高校の野球部寮で、消灯後に1年生らが焼肉をしていたことに腹を立てた2年生が、1年生部員の背中を殴打し、死亡させた。同校は2012年選抜大会への推薦を辞退した。
暴力は部員間だけではない。前述の横浜高校(神奈川県)では、2019年、部員への暴力を理由に監督と部長が解任される事案が発生。
さらに2020年春には甲子園常連校である福井商業高校(福井県)の野球部監督による暴力問題と報告義務違反が発覚している。
そして迎えた2026年夏。「厳しい指導」と「違法なハラスメント」は、いったいどこで線引きされるのか。
高校時代には群馬県立前橋高校でキャプテンを務め、2002年春の選抜甲子園に出場した経験を持ち、現在はスポーツ法務に力を入れている石原遥平弁護士に聞いた。
PL学園から広陵高校まで “名門野球部”で40年続く「暴力の...の画像はこちら >>

石原遥平弁護士

「いじめの連鎖」断ち切る勇気が勝利につながる

過去には様々なトラブルが起きている高校野球ですが、先生ご自身の甲子園でのご経験とはどのようなものだったでしょうか。

石原弁護士:私が受けてきたのは、「今日も野球がしたい」と思わせてくれる指導でした。

普段の練習では指導者から何かを「与えてもらう」関係ではなく、練習メニューも自分たちで考え、実行し、試行錯誤するなかで、多くの引き出しやアイデアを示してくれる伴走者として寄り添ってもらいました。
試合に出られないメンバーも分析班として対策資料を作り、それを試合で生かすことが伝統になっており、それがチームの強みになっていたことも間違いありません。
また、甲子園出場を目標に掲げつつも、監督が「失敗しても、命までは取られないんだから思い切りやろう」というスタンスでいてくれたことは、県立高校ながら強豪私立を次々と破り、2002年春の選抜甲子園に出場できた大きな要因だったと考えています。

広陵高校における問題では、第三者委員会から報告書が提出されました。指導に関して厳しい指摘もありましたが、どのような印象を持ちましたか。

石原弁護士:広陵高校問題の第三者委員会の報告書では事案発生の原因として、「『甲子園出場』を絶対視する同調圧力、暴力への親和性、閉鎖的な指導体制」が指摘されていました。
指導者は甲子園を目指しつつも、その先にあるものは何なのか、部員には目指す過程で何を学んでほしいのか、という点を改めて考えるべきだと思います。
甲子園を目指すことで何を得たいのか、部員一人ひとりで考え方に違いがあるのは当然だとしても、その認識を常にすり合わせておくことが重要でしょう。
長いあいだ甲子園から遠ざかっていた、ある強豪校の主将は「部内のいじめの連鎖を自分の代で断ち切ったことで、部内での争いではなくチームとしての底上げができ、それが甲子園出場につながった」と話していました。
勇気をもって負の連鎖を断ち切り、勝利に向かう決断ができたことで成果が出た、という非常に象徴的なエピソードだと思います。同校は、その後も継続的に甲子園に出続けています。

「指導」と「パワーハラスメント」の違い

高校野球に限らず、スポーツの現場では指導が必要だと思われますが、パワーハラスメントとの違いはどのようなものでしょうか。

石原弁護士:職場におけるパワーハラスメントの定義を部活動に当てはめると、以下の3つの要素をすべて満たすものがパワハラに該当します。

(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)教育上必要かつ相当な範囲を超えたもの
(3)生徒の学習環境・部活動環境が害されるもの
逆にいえば、教育上の必要性に基づき、社会通念上相当な範囲で行われる指導は、たとえ厳しいものであっても原則としてパワハラにはあたらないと考えられるでしょう。
ただ、「社会通念上相当な範囲」というのは当然時代によって移り変わるものですし、判断が難しいところです。
例えば、以下のようなものは「社会通念上相当な範囲」を逸脱しているといえるでしょう。
第一に、殴る・蹴るといった体罰はもちろん、小突くなどの身体接触や、人格を否定する暴言・威嚇は許されません。
第二に、過度な負荷や、(昔は許容されていたかもしれない)非科学的な練習を強いることも許されません。
第三に、時代の変化を理解しない「昔ながらの精神論」も許されません。「精神力の向上を図る」ことを目的に精神的負荷をかける指導と称されるものは、多くの場合、指導者世代が自分の受けてきた指導を焼き直しているにすぎず、時代錯誤と言わざるを得ません。

選手や保護者が「これはおかしいのでは」と感じても、常勝校では声を上げにくい場面もあるようです。

石原弁護士:声を上げた本人が一番“わりを食う”(犠牲になる)構造になっているためです。
これまで我慢してきたのに声を上げた瞬間、最悪の場合は出場停止、そうでなくても指導者不在で試合に勝てる確率が落ちる――そういうことが現実に起こり得ます。
より高いレベルで競技を続けようとする限り、短い部活動生活のなかで成果を出さなければなりません。そう思うと、どうしても「現役のあいだは我慢しよう」という考えに至ることが多いのです。

しかし、味方になってくれる弁護士や自治体の子ども関連相談窓口もあります。事実関係を整理し、証拠を精査できるだけでも、話は格段に前に進みやすくなります。
最近はスポーツ法務を扱う弁護士も増えていますので、ぜひ気軽にお近くの弁護士に相談してほしいです。

学校や指導者、高野連などの組織側には、今後どのような体制整備が求められるのでしょうか。

石原弁護士:不祥事発生時の調査・処分に関する高野連のシステムは、完璧ではありませんが、一定程度機能しており、ひとつの完成形だと思います。
高野連側にさらに何かを求めるというよりも、学校側が部内のいじめやトラブルを適時・適切に察知し、コミュニケーションの方法を間違えず、弁護士などの専門家と連携してヒアリングやアンケートの実施、事実認定を迅速に行うことが何よりも重要です。
広陵高校の第三者委員会報告書においても、「学校の対応の問題点」として「いじめ事案として扱わなかったこと、初動調査の不十分さ、被害生徒の安全確保・心理的支援の不備、保護者対応の属人化・不透明性等」が指摘されていました。
最近では被害生徒が所属校を介さずに日本高野連へ直接被害を申告できる通報窓口の設置や、弁護士ら第三者による調査・事実認定の仕組みが提言され始めており、私もその方向性に賛同していますが、その制度設計によって部内で重用されなかったことの報復として通報することをどう防ぐのかなど、課題は多いと思います。
広陵高校の事案が示したように、正規の申告ルートが機能していないと感じた被害者側はSNSに頼らざるを得なくなり、真偽不明の情報が拡散して、過ちを犯していない部員までが「連帯責任」で巻き込まれてしまいます。
炎上する前に被害を受け止められるルートの整備、専門家による迅速かつ公正な事実認定、過ちを犯していない生徒の出場機会を奪わない「個別責任」の徹底が必要です。
加えて、私立学校が問題を抱え込まず、早い段階から行政や専門家に相談・連携できる支援型の枠組みを作ることも、隠ぺいを防ぐうえで有効でしょう。

世界が注目する「甲子園」だからこそアップデートが必要

暴力や不祥事など様々な問題が指摘されているなか、今年も甲子園が始まります。暴力の連鎖を止めるために、高校野球界全体でどう向き合っていくべきだとお考えですか。

石原弁護士:私は現在、アジアの子どもたちが野球に挑戦する場を提供する国際大会「アジア甲子園」(NB.ACADEMY主催)に関わっています。
「感動は、国境を超える」をスローガンに掲げるこの取り組みを通じて実感するのは、世界が「甲子園」という舞台と、そこで育まれてきた文化に注目しているということです。
だからこそ、野球部での暴力という問題を、日本国内だけの話として終わらせてはいけません。
甲子園は世界のお手本になるような人材を育てる場であってほしい。そのためには、指導者・教育者側も、保護者も、そしてもちろん部員自身も、時代に合わせて自らをアップデートし続ける必要があります。
指導者も部員自身も、暴力や理不尽を「伝統」として受け継ぐのではなく、勇気をもって断ち切る――そうした決断をして実行できたチームこそが成果を出すことができる。
私自身の経験からもそう確信していますし、これから甲子園に関わるすべての方に、その勇気を持ってほしいと願っています。
■プロフィール
石原遥平(いしはら・ようへい):弁護士。弁護士法人淀屋橋・山上合同パートナー。株式会社スペースマーケット取締役(監査等委員)、株式会社ミツモア社外監査役、クラシル(旧dely)株式会社執行役員等。一般社団法人シェアリングエコノミー協会リーガル/ストラテジーアドバイザー。2002年関東代表として選抜甲子園に出場した経験を持つ。

岩田いく実:損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。


編集部おすすめ