『ぜつぼう』(講談社)著者:本谷 有希子Amazon |honto |その他の書店

◆奇人たちとの交流にいやし
本谷有希子をご存知(ぞんじ)だろうか。劇団を主宰し、複数の小説を上梓(じょうし)している。
小説はといえば、なかなか一筋縄ではいかない。いろんな意味で破壊的な主人公が活躍する。

新作『ぜつぼう』もそうだ。主人公戸越は、もうすでに長い間、不眠症に悩まされている、元人気コメディアンだ。ロシア人の相方と貧乏旅行をして、それがTVで放映されて、一気にスターダムにのしあがったのはいいけれど、そもそもしっかりした芸があるわけじゃなし、ピークを迎えた人気はやはり急に冷めてしまう。

そんな主人公がふとしたハズミで知り合う、ダンボールハウスの男がいる。そして男の実家に行くことになる……。

とにかく、この人の小説は細部が優れている。かなり踏み込んで描写する。本谷の才能が非凡なことの証明だ。なおかつ、この小説のいいところは、ダメ芸人の戸越が、ひょんなことから身を置くことになった場所で、奇妙な人物たちと触れ合ううち眠れるようになるというところだ。タイトルの「ぜつぼう」は底を打って、戸越は、東京への帰路の電車の中で、死んだように眠り続ける。
一種の癒し小説になっている。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2006年6月21日

【書誌情報】
ぜつぼう著者:本谷 有希子
出版社:講談社
装丁:単行本(175ページ)
発売日:2006-04-28
ISBN-10:4062133245
ISBN-13:978-4062133241
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