◆書けない作家の焦燥と執着
田中慎弥の小説は、どこか読み手を追いつめるところがある。読んでいて呼吸が苦しくなるような箇所がある。
新作『実験』。とりわけ表題作には、新人賞を獲(と)って文壇にデビューした作家が出てくる。4冊、単行本も出た。だが生活がままならない。奥さんの稼ぎによって生活が維持できている。
なにより小説が書けない。これまでの乏しい人生経験は断片的にいろんな小説に混ぜた。もうネタがない。そんな折、幼(おさな)馴染(なじみ)の春男から連絡が。うつだという春男が会いたい、といっているらしい……。
才能が涸渇(こかつ)したわけでもない主人公の小説家は、春男と会ううちに、ちょっと閃(ひらめ)くものがある。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。
【初出メディア】
日本経済新聞 2010年6月23日
【書誌情報】
実験著者:田中 慎弥
出版社:新潮社
装丁:文庫(209ページ)
発売日:2013-01-28
ISBN-10:4101334838
ISBN-13:978-4101334837