◆「移動する作家」独特の視点
いしいしんじさんは移動する作家だ。それはいつも旅しているという意味でもなければ、定住を嫌っているという意味でもない。
でも、事情は少し違うように思う。
ちょっと前までいしいさんは三浦半島の三崎と長野の松本の二箇所に居を構えていた。だから自然に親しむ生活を大切にする人だと、思っていた。いまもそう思っている人も多いのではないか。
でも三崎に住んだのは乗った電車の終点まで行ってみたらそこが三崎だったからだし、松本を拠点にしたのは、結婚の事情があったらしい。
ある場所を訪ねる。そこで見聞した事象に関心を持つ。ついでに住んでみる。そんな軽やかさがいしいさんにはある。嬉(うれ)しいのはそれを文章にしてくれることだ。
ニューヨークを除けばほぼすべての題材が日本の街。
小説とは別の、ナマの「いしいしんじ」が感じられる一冊。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。
【初出メディア】
日本経済新聞 2010年11月24日
【書誌情報】
遠い足の話著者:いしい しんじ
出版社:新潮社
装丁:単行本(221ページ)
発売日:2010-10-01
ISBN-10:4104363022
ISBN-13:978-4104363025