『隠し事』(河出書房新社)著者:羽田 圭介Amazon |honto |その他の書店

◆「他人の秘密知る」ユーモア交じえ
同棲(どうせい)する彼女のケータイを覗(のぞ)いたことがない主人公は、彼女の入浴中にケータイにメールが届いた瞬間、ふと覗き見てしまう。そこには見知った男の名前が……。


あまりにベタな展開だと思われる方も多いだろう。じじつ私もそう思いつつ読んでいた。

だが展開は少しずつこちらの予想をいい意味で裏切るものだった。

フラットな部屋でなんら隠し事なく暮らしていたはずの2人。だがケータイのメール以後、振り払えない疑念をきっかけに世界はまったく別の姿になってしまう。主人公は、執拗に、しかもばかばかしいくらいに秘密に執着してしまうのだ。

隠し事をめぐるあれこれをそれこそ執拗に描いた小説の代表は、谷崎潤一郎の『鍵』だろう。羽田圭介のこの小説にも、谷崎の影響は感じられる。そして谷崎の後にこの小説を書く以上、その先が探求されてもいる。

他人の秘密に触れたくなる気持ちはどんどん空回りして、およそナンセンスな境地にまで至る。そのことを克明にかつユーモア交じりに仕上げている。去年、就活を描いた小説『ワタクシハ』で話題になった作家は、確実に腕をあげている。


【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2012年2月1日

【書誌情報】
隠し事著者:羽田 圭介
出版社:河出書房新社
装丁:文庫(168ページ)
発売日:2016-02-08
ISBN-10:4309414370
ISBN-13:978-4309414379
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