理工系学部における女子学生比率の低さを改善する打開策として、総合型選抜や学校推薦型選抜で「女子枠」を設ける大学が出てきています。

これまでも国立の名古屋工業大学などが実施してきましたが、ここにきて特に注目を集めているのが「東京科学大学」の理工系(旧・東京工業大学)です。
同大では、定員約1000名の1割以上を占める大規模な「女子枠」入試を導入しました。

2026年度の女子枠定員は154人(予定)となっています。しかし、女子枠が拡大した一方で一般選抜の定員が削減されたため、受験生や保護者の間からは強い反発の声が上がっています。

■共学大学なのに「女子だけの入試」
この女子枠拡大を巡る議論では、共学であるにもかかわらず「女子しか受験できない入試区分があるのは不平等だ」という意見が中心です。問題はそれだけにとどまりません。

実際には、一般選抜を受験した女子学生の間でも「女子枠がなければ、一般選抜の枠で自分が合格できていたかもしれない」という不利益の可能性のバリエーションが発生しています。

今回は、数値データをもとに、東京科学大学・理工系の女子枠入試を分析し、キャンパス内に広がる構造的な格差について検証してみましょう。

■一般選抜での女子の合格率は10.7%に過ぎない
まず、東京科学大学(理工系)の女子学生がどのような入試方法で入学しているのか、同大学が公開している2025年度の入試データから見ていきましょう。

一般選抜に合格して入学した学生の数は861人で、そのうち女子学生はわずか64人です。一般選抜における女子の志願者は598人で合格率は10.7%、10人に1人しか受かっておらず、一方で、男子の志願者は3049人で合格者は797人、合格率は26.1%、4人に1人が合格しています。

数字上は圧倒的に男子が合格しやすいことが分かり、同時に534人もの女子受験生が一般選抜で不合格になっていることが分かります。この534人の中に「女子枠がなければ合格した女子学生」がいたら、女子枠によって恩恵を受ける女子とそうではない女子の格差が生じます。


その一方で、女子枠は最も志願者が多い工学院の総合型選抜でも、志願者262名に対して合格者は69名、合格率は26.3%となっています。女子枠自体も決して易しい入試ではありませんが、一般選抜と比較すると合格の可能性が高いことがうかがえます。

2025年度の女子による合格者は全体で240人でした。そのうち、一般選抜合格者は64人。つまり、同大に合格した女子学生全体のうち、「女子枠」で合格したの割合は57.5%。「女子枠」以外の一般枠(男女共に出願可能)の総合型選抜と学校推薦型選抜も女子の合格者の割合は多いです。女子のうち一般選抜で合格したのは26.6%で、残りの73.3%は総合型選抜と学校推薦型選抜で合格しています。

All Aboutニュースに掲載した記事『「女子枠はSAPIX出身集団」東京科学大学の一般選抜組の学生が語る、批判集まる入試の実態』の中で、公立高校出身の女子学生(ヤスダさん)が「一般選抜で入学した自分はマイノリティー(少数派)という意識がある」と語っていますが、このデータを見ればその感覚は当然と言えるでしょう。

■「公立出身の一般選抜」vs「私立中高一貫出身の女子枠」
同記事の中でヤスダさんはさらに、「男子は公立出身者が多い。自分も公立出身だ。一般選抜入学者は公立出身が多い。一方で女子枠の学生は私立中高一貫校出身者が多く、そこには経済的な格差がある」という趣旨の証言をしています。


こちらも実際の合格者データから検証してみます。

教育情報サイト「インターエデュ」が公開している2026年度の高校別合格者ランキングを参考にしてみましょう。

東京科学大学には医療系(旧・東京医科歯科大学)と理工系(旧・東工大)があり、サイト上の速報値では両方の数字が合算されています。そのため、一見すると1位は開成高校ですが、これには医学部医学科の合格者が多く含まれています。

そこで、入試情報に定評のある「大学通信」が2026年4月15日にX(旧Twitter)で投稿した、医学部医学科の高校別ランキングおよび合格者数のデータを加味し、理工系のみのランキングを逆算・抽出しました。

その結果、2026年の理工系の合格者ランキングの実質1位は神奈川県立翠嵐高校となり、上位26校のうち14校を公立高校が占めることが分かりました。大学の関係者や学生から「うちは公立出身者が多い」という声がよく聞かれるのは、データ的にも裏付けられているのです。

一方で、同大の医学部医学科(旧東京医科歯科大学)におけるランキング上位10校は残酷なことに全て私立中高一貫校と国立大学附属校が占めています。

1位は開成高校、2位は桜蔭高校、3位渋谷学園渋谷と私立の最難関校が占め、公立校は都立日比谷高校や県立翠嵐高校といった最難関校ですら上位10位に名前がありません。

こうした状況から、国公立医学部には届かないものも公立校のトップ層が、理工系の最難関として同大の理工系を選択している構図が見えてきます。

■女子枠導入で激変した高校別の合格者ランキング
この合格者ランキングで特筆すべきもう1つの変化は、女子枠入試が本格化した結果、ランキング上位に有力な女子校が急浮上してきた点です。

女子枠がスタートする前の東京工業大学時代、2023年の合格者ランキングに名を連ねる女子校は、9位の豊島岡女子学園(11名)や、23位の鴎友学園女子(8名)など極めて限定的でした。


ところが、2026年度のランキング(速報ベース)では、23位に吉祥女子高校(12人)、29位に洗足学園高校(11人)がランクインしています。

洗足学園の2026年の合格実績を詳しく見ると、同大への進学者11人のうち10人が理工系に進学ています。女子枠が始まる前の2023年度における洗足学園からの東工大合格者数は2名だったため、わずか数年で5倍の合格者を出している計算です。

吉祥女子高校も、2023年度の2名から、女子枠の始まった2024年度には8名へと急増しています。

こういった私立難関中高一貫の卒業生たちからは「高校側から大学の女子枠を受験するよう具体的な働きかけがあった」「大学の担当者が高校にやってきて説明会を開いた」という証言が複数確認されています。

もちろん、こういった大学や高校からの働きかけを受けた女子枠合格者は一部だと推測できますが、それでもその外にいた女子から見ると「なぜ一部の高校の生徒が情報を持っているのか」「まるで指定校推薦」と反発が起きるのは不思議ではありません。

新しい入試方式が導入され、そのアプローチや情報が特定の高校に手厚く提供されている現状に対して、「これでは実質的に一部の選ばれし高校に向けた指定校推薦のようなものではないか」という違和感を抱く人が出てくるのは想像できるのではないでしょうか。

■求められる今後の議論
受験生の間で不公平感や疑問の声が渦巻く、東京科学大学・理工系の「女子枠」問題。共学なのに男子が出願できない入試はどうなのか、男子への差別ではという疑問が生じています。また、「女子枠」入試実施で「合格の可能性が高まる女子学生」と、そうではない女子学生の格差が生じているようにも見えます。

入試方法の多様性と公平な競争環境の維持という課題をどのように両立させていくのか、今後の展開を引き続き注視していく必要があります。

この記事の執筆者: 佐藤 れん
受験業界に身を置く教育ライター。
専門はジェンダーと大学受験。かつては大学の非常勤講師をしていたことも。
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