「これ、ダンスクラブじゃないの?」
歌舞伎町のホストクラブ・Lillionで働く翠嵐(すいらん)は、外国人観光客からそんな質問を受けることがある。

ホストクラブといえば、日本人女性が通う夜の社交場というイメージが強い。
だが、外国人観光客であふれる現在の歌舞伎町では、その常識が少しずつ変わり始めている。

実際、翠嵐のもとにはアメリカ人や中国人、韓国人など、さまざまな国の客が訪れる。インバウンドの波は飲食店やホテルだけでなく、ホストクラブにも押し寄せているのだ。

「日本人客だけを相手にするより、世界に目を向けた方がマーケットは大きいと思うんです」

そう語る翠嵐は、英語で接客できる数少ないホストの一人である。なぜ外国人はホストクラブへやって来るのか。そして、“日本独自の夜の文化”は世界へ広がっていくのだろうか。

外国人観光客であふれる歌舞伎町。「英語で接客できるホスト」が...の画像はこちら >>

アニメでホストの存在を知ることも

外国人客と聞いて、多くの人は中国人や韓国人を思い浮かべるかもしれない。しかし翠嵐によると、自身の外国人客の層は、約7割はアメリカ人だそうだ。

なぜなのか。理由は意外なものだった。

「『桜蘭高校ホスト部』ですね」

2000年代に人気を博した少女漫画・アニメ作品だ。

「アニメを見てホストという文化を知った人が多いです。日本文化やアニメが好きで、『一度本物のホストクラブに行ってみたい』と思っている人は結構いるんですよ」

外国人観光客にとって、ホストクラブは単なる飲み屋ではない。
日本独自のカルチャー体験の一つだ。アニメやドラマ、YouTubeを通じて知った世界を実際に見てみたい。そんな動機で来店するケースが少なくない。

近年では、ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』や、カリスマホストとして知られるローランドの動画などをきっかけにホスト文化へ興味を持つ外国人も増えている。

「アメリカやヨーロッパのお客さんは、日本文化の体験として来る人が多いですね。ホストクラブ自体を楽しみにしている感じです」

かつては日本人女性だけの閉じた空間だったホストクラブが、いまや外国人観光客の観光スポットになりつつある。

外国人客にとって“体験型エンターテインメント”

とはいえ、外国人客がホストクラブで日本人客と同じように遊ぶわけではない。むしろ遊び方は大きく異なるのだとか。

「日本文化を体験したい人が多いんです」

恋愛感情や疑似恋愛を求めて来店するよりも、“体験型エンターテインメント”として訪れるケースが多い。

象徴的なエピソードがある。

「アメリカ人のお客様が一人で来店して、20万円ぐらい使ってくれたことがあります」

その客はシャンパンを注文し、シャンパンコールまで体験して帰って行った。もちろん、全員が大金を使うわけではない。むしろ日本人客より慎重なことが多い。


「ホストクラブって、ドリンク1杯が5000円とかするじゃないですか。アメリカ人から見ても普通に高いんですよ」

いくら円安とはいえ、観光客にとってホストクラブは決して安い遊びではない。だからこそ翠嵐は、接客前に予算を確認する。

「予算を超えないように遊んでもらうようにしています」

外国人を接客するうえで肝に銘じているのが、文化体験として楽しみたい人に無理な営業はしない姿勢だ。

国によって遊び方にも違いがある。アメリカやヨーロッパの客はホスト文化そのものを楽しむ傾向が強い。一方、中国や韓国などアジア圏の客は、より“推し活”に近い感覚を持つことが多いという。

「中国や韓国のアイドルみたいな見た目のホストが人気ですね」

同じ外国人でも、求めるものは決して一枚岩ではない。

「ホストクラブツアー」や各種SNSで集客

外国人観光客であふれる歌舞伎町。「英語で接客できるホスト」が本気で集客してみた結果「アメリカ人から見ても普通に高いから…」
外国人客が来店する経緯はさまざま
翠嵐が外国人集客を始めたのは約4年前。当時はまだ珍しい取り組みだった。

「その頃は、外国人への集客をやっているホストってほとんど見つからなかったんですよ」

きっかけはシンプル。英語が話せたからだ。

「英語で接客できるホストは本当に少ないです。
今働いている店でも僕だけですね」

集客の方法は、観光メディアに「ホストクラブツアー」を掲載したり、友人の紹介もあったりする。最近では飛び込み来店も増えた。

「月に5人ぐらいはいますね」

Lillionが路面店であることも影響している。外国人観光客が店の前を通りかかり、「ホストクラブってここ?」と入店するケースも少なくない。中にはダンスクラブと勘違いして入ってくる人も。歌舞伎町を歩く外国人にとって、ホストクラブはまだまだ未知の存在なのだ。

一方で、SNSの影響も大きい。ホスト業界では今、中国のSNSである「RED(小紅書)」を活用するホストも増えている。

翠嵐もこう話す。

「中国のお客さんがREDを見て指名しに来るなんて話はよく聞きます」

TikTok、Instagram、RED。

ホスト業界もまた、SNSを中心に回る時代へ変わりつつある。

“公立進学校bot”から歌舞伎町へ

翠嵐にはもう一つの顔がある。

Xで約2万8000人のフォロワーを持つ「公立進学校bot」の運営者だ。
このアカウントは翠嵐が地理が好きな一面から開設された。

「全国にある国公立の学校には、地域ごとに特性があるんですよ」

公立進学校botは教育系アカウントとして知られ、全国の高校受験事情や進学校情報を発信している。ホストとはあまりにもかけ離れた肩書きだ。意外なことに、そのフォロワーも来店することがある。

「公立進学校botを見て指名してくれる人はいます」

高校時代からアカウントを見ていたフォロワーが成人し、実際に店を訪れるケースがあるそうだ。さらに親世代の来店もあるのだとか。

「教育ママやパパが進路相談をしに来店されることもあります(笑)どこの学校を受験したらいいか?などの話をしながらお酒を飲むんですよ」

受験の話をしながら酒を飲む。一般的なホスト像からは少し想像しにくい光景かもしれない。だが、それこそが翠嵐の個性だ。

英語が話せる。

教育にも詳しい。

男性客の指名も、他のホストに比べれば多い。


ホスト業界の中でもかなり異色の存在であることは間違いない。

歌舞伎町の“インバウンド化”は進み続ける

外国人観光客であふれる歌舞伎町。「英語で接客できるホスト」が本気で集客してみた結果「アメリカ人から見ても普通に高いから…」
日本独自のカルチャーが夜遊びの定番になる可能性もあり得る
翠嵐は、ホスト業界のインバウンド化は今後さらに進むと見ている。

「4年前と比べても、明らかに変わりました」

以前は外国人集客に取り組むホストはほとんどいなかった。しかし現在は店単位で外国人向け施策を進めるケースも増えている。個人で海外向け発信を行うホストも珍しくない。

「これからも増えると思います」

背景には、日本文化への関心の高まりがある。アニメ、漫画、ドラマ、YouTube。海外から見ればホストクラブもまた、日本独自のカルチャーの一つだ。そして、入り口の役割を担うのがSNSである。

「これからもTikTokやREDを頑張りたいですね」

翠嵐はそう語る。SNS時代のホスト。その先に見据えているのは、日本国内だけではない。
世界だ。

最後に、ホストクラブとはどんな場所なのかを尋ねた。

「ホストクラブって、性別や国籍を問わず、さまざまな大人が楽しめる社交場なんですよ」

少し考えてから、こう続けた。

「一部の人だけの場所じゃない。全世界に開かれたエンターテインメントの場所だと思っています」

かつて日本人女性を中心としたイメージが強かったホストクラブは、いま外国人観光客を迎え始めている。“インバウンド化”する歌舞伎町の最前線で、翠嵐は今日も海外へ向けて発信を続ける。

<取材・文/櫻麗(おうれい)>

【櫻麗(おうれい)】
新潟県出身。フリー記者。池袋のスナックでチーママとして働きながら脚本家を志すも挫折。業界新聞の記者、自治体の広報誌などの制作ディレクターを経て独立。現在は歌舞伎町ホストのSNS運用ほか、アングラ、夜職、歌舞伎町カルチャーを主な取材領域に記者として活動中。表には出にくい人間模様を追い続けている。猫と過ごす時間が至福 X:ohreindb
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