それが子どもたちに「人として生きていくために必要な力」を授け、2人が中学受験をして御三家へ。そのうち長女は東京大学へと進学したそう。
「昔ばなしは、自分の頭で考えて動く力、人の痛みに気付ける想像力、壁にぶつかっても諦めない粘り強さを授けます」と沼賀さん。その子育て術を、2026年6月に『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)として出版しました。
今回は同書から、頭がいい子の親が、昔ばなしの読み聞かせをする理由を5つ紹介します。
■理由1:物語で、試練と回復のプロセスを疑似体験
「間違えた! もうやらない!」「体育着が見つからないから、学校に行かない!」
少しの失敗で心が折れて、悲嘆に暮れる子どもたち。これを沼賀さんは、「正解だらけの清潔な世界に慣れ過ぎて、心の免疫が落ちている状態」と分析します。
昔ばなしの主人公たちは、親に捨てられ、悪い魔女にだまされて、自らとんでもない失敗をしでかし、理不尽な目にあいます。しかし、どれだけ大ピンチに陥っても、助けがきてハッピーエンドを迎えます。
その物語を繰り返し聞くことで、子どもたちは理不尽な試練と回復のプロセスをたっぷりと疑似体験します。これが現実のトラブルに負けない心の免疫につながり、子どもたちの「折れない心」を育てます。
■理由2:物語の骨組みをつかむ力を育てる
問題が解けなくて、「分からない!」とさじを投げる子ども。
この状態を切り抜けるために必要なのが、「抽象力」。「抽象力とは、細かな違いの奥にある『共通の骨組み』を見抜く力のこと」です。
昔ばなしには、共通の型があります。「欠乏がある→旅に出る→試練を乗り越える→帰ってくる」。この黄金パターンを繰り返すことで、子どもたちの頭の中に物語の型ができあがり、初めて聞く話でも「もうすぐ山場だ」と先回りして考えられるようになります。
「物語の骨組みをつかむ力さえあれば、どんな複雑な情報に出合っても、要点をつかんで自分のものにすることができます」
■理由3:「問いを持ち続ける力」と「推論する力」
インターネットで答えを検索できる便利な時代です。しかし、あまりに便利過ぎて、仮説を立てる時間や悩む時間が消えてしまいました。
「分からないなりに立ち止まり、考えて、間違えて、また考える。答えにたどり着くまでの時間が、自分の頭と心で生きる力を育てるのです」
昔ばなしには、「次はどうなるんだろう」「どうしてこうしたのだろう」と理由を考えたくなる余白と繰り返しがたくさんあります。『カチカチ山』でタヌキはなぜあれほどひどいことをしたのか。
昔ばなしを読み終えた後の「問いを持ち続ける力」と「推論する力」が、子どもたちの考え抜く力につながるのです。
■理由4:ゼロから創る想像力
動画やゲームは細部まで作り込まれています。服のしわ、背景の雪の動きまで完璧に描かれた世界——。子どもたちは自分の中でイメージしなくても、臨場感あふれる世界を堪能できます。
一方、昔ばなしは細かな描写が省かれています。「むかしむかしあるところにおじいさんが」と書かれていても、おじいさんの背が高いのか、低いのか、太っているのか、ひげはあるのかは分かりません。
「何もないところから、自分だけの映像を立ち上げるトレーニングこそが、AIにはまねできない想像力の源泉になるんです」
物語は現実では起こり得ない出来事と触れ合わせてくれます。動物がしゃべり、時にはカエルが王子になることもあります。
「ありえない飛躍に何度も触れることで、『目の前に見えている世界が全てではない』という感覚を自然に身につけさせてくれます」
■理由5:コミュニケーションの原点
AIは素晴らしい聞き手です。怒らないし、否定もしない。
しかし、体温はありません。
子どもが「傷つくのが怖いから、リアルな人は苦手」と殻に閉じこもる前に、家庭の中で、生身の人間と心を通わせる回路を作りましょう。
「そのために特別な会話術は要りません。生の声で昔ばなしを語るだけでいいのです」
昔ばなしは、現実の人間同士だけでなく、幽霊や鬼、動物といった別の次元のものと当たり前に会話します。この隔てなさがコミュニケーションの原点。
「自分とは違う存在、言葉が通じないかもしれない相手とフラットに向き合い、関係を結ぶことができるきっかけになるのです」
■寝る前の5分間の昔ばなしで、子どもを育てる
「今日は忙しくて、子どもにストレスをぶつけてしまった」と落ち込む日もあるでしょう。それでも、寝る前に5分間だけ「昔ばなし」を欠かさず聞かせていれば、子どもたちにはさまざまな力が育っていくのです。
子育てが楽しめない日も、手軽に取り組める昔ばなしの読み聞かせ。ぜひ日常生活で取り入れてみてはいかがでしょうか。
沼賀美奈子 プロフィール
昔ばなし研究者/大学講師。小澤昔ばなし研究所に所属し、昔ばなし研究の第一人者・小澤俊夫 に33年間師事。
この記事の執筆者: 結井 ゆき江
フリーランスの編集者・ライター。中学受験雑誌の編集者として勤務した後に独立。小学校で発達障害グレーゾーンの児童をサポートした経験から、教育分野を中心にライターとして活動する。









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