親の持ち家があるなら、子どもたち世代が出たくない、自宅で暮らしたいと思うのも当然かもしれない。だが親世代は、子どもが自立することを想定して老後を考えていたりするから、互いに相いれないものがある。
■自立していくと思っていたのに
35歳の長男、33歳の長女、31歳の次男。3人の子どもたちが今も自宅で暮らしているというマリさん(63歳)は深いため息をついた。
「私たち夫婦の想定では、子どもたちがみんな出て行ったら、家を売って小さなマンションを買って暮らすことになっていました。少なくとも長男と長女はもう家にはいないはずだった……」
ところが3人子どもがいれば、みんながすんなり大きくなったわけではなかった。長男は大学に入ったものの、「どうしてももともと第一志望だった別の大学に行きたい」と中退して2年浪人した。第一志望に入学し直したが、現役生ではなかったために就職で不本意なことになり、入社した会社を3年で辞めている。
「その後、2度くらい転職して、ようやく今のところに落ち着いた。長女はすんなり大学まで出ましたが、その後は演劇に没頭して、今もアルバイト生活。とても自分で賃貸住宅に住める状況ではありません」
■30代の子どもが3人もいるのは……
次男は中学時代から不登校になった。
「長女は一人で生活したいと言ったこともありますが、なにせお金がない。アパートを借りても家賃が払えなくなって、私たちが尻拭いをするのはごめんだからと言ったら、一人で暮らすと言わなくなりました。どこでどうしているのやら、時々しか帰ってこない時期もあります。連絡はくれるし大人だから放ってありますけど」
30代になった子どもたちが3人も家にいるのは、非常にうっとうしいとマリさんは言う。子どもは自立するもの、社会に送り出すのが親の務めだと思って頑張ってきたのに、結局、誰一人自立していないというのがマリさんの言い分だ。
■できる限りのことをしてやればいいという夫
ところが夫の意見は少し違う。子どもたちが元気で成人したのだから、親の務めは果たした。あとは彼らの人生だから、好きなように生きればいい。
「言われない限り、ふだんは子どもたちの食事の用意はしませんが、帰ってきてはごそごそ自分で作ったりしているようです。使われたくない食材は『使うな』と貼り紙をしています。夫と一緒に食べようと思っていたステーキ肉を長男と長女に食べられたときは本気で激怒しました」
というのも、マリさんには夫婦の老後という問題があるからだ。職場結婚だったが、当時の慣習にしたがってマリさんは退職、その後は子育てに忙しく、パートでしか働けなかった。子どもたちの学費にもお金がかかり、老後の資金が圧倒的に不足している。親の遺産もほとんどない。ないどころかマリさんの親の生活費まで一時期は援助していたくらいなのだ。
■夫の定年まであと2年なのに
「夫の定年退職まであと2年。そうなったら家を売って、駅近くの小さなマンションに住むのが私の目標だったんです。今住んでいる一軒家は夫婦には広すぎるし、駅からは遠すぎる。年をとると出不精になるけど、駅が近ければどこにでも行ける。
ところが子どもたちはいつまでたっても出ていかない。時々「食費代わり」とお金を入れてくれることもあるが、あまり当てにはならない。長女などは早朝から風呂に入って出掛けることもあり、光熱費を考えるとイライラするとマリさんは言う。
「みんな自立しなさい、苦しくても一人暮らしをしなさいと言ったこともあるけど、誰もちゃんと耳を傾けようとしない。元気でいるのだからいいじゃないと周りも言う。そんなふうに甘やかすから、誰も結婚もしようとしない。こんなことでいいのかしらと私は本気で憂えているんですが、誰も真剣に受け止めてくれないんですよ」
最後にマリさんはポツリと漏らした。「あんなに一生懸命、3人を育てたのに、何の還元もないんですよね」と。もちろん見返りを求めて子育てをしたわけではないだろうが、「孫の顔さえ見られない」ことに寂しさを感じているのは確かなようだ。
<参考>
・「2026年3月 全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向」(アットホーム株式会社)









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