「俺の車に文句あんのか!」
――数年前、地方都市のどこにでもあるコンビニの駐車場で、中年ヤンキーから理解不能な因縁を付けられたというメーカー勤務のツバサさん(仮名・35歳・男性)。

 それはまさに“平成の遺物”とも言える時代錯誤な男との遭遇だったという。


「オマエ、殴られてぇの!?」コンビニで絡んできた“平成ヤンキ...の画像はこちら >>

真っ黒な日産セダンから1台空けて駐車すると…

 ツバサさんは次のアポイント先に向かう仕事の移動中、クライアントに渡す資料をコピーするため、車でいつも利用するコンビニに立ち寄ったそう。

 現場は住宅街に隣接する、いたってのどかなエリア。トラブルとは無縁に見える場所だ。

「そのとき、広い駐車場には店舗の真正面に1台だけ、真っ黒な日産のセダンが停まっていました。私は相手の運転席のドアが開けやすいよう、あえて1台分のスペースを空けて駐車したんです。

 自分なりの配慮というか、真隣に停めると『トナラー』と思われて嫌がられることもあるので、“ドライバーの暗黙のルール”のつもりでした」

 ところが、エンジンを切った直後のこと。

「ドンドンッ!!っと助手席の窓を激しく叩く、暴力的な音が車内に響き渡ったんです」

 ツバサさんがおそるおそる窓の外に目をやると、そこには黒いセダンから降りてきた、上下黒ジャージ姿の男が立っていたそうだ。

「一瞬、目を疑いました。令和のこの時代にまだこんな“平成ヤンキー”が生息しているのかと……。その男は推定40代前後。金髪混じりの短髪に、曇天の下でもギラつくミラーサングラス、首元には太い金のネックレス……。

 一昔前の映画やドラマに出てきそうな、絵に描いたような“平成ヤンキー”そのものだったんです」

平成から時が止まったままのようなジャージ中年

 そのジャージ中年は、今にも人を殴り倒さんばかりの怒りの表情をしていたため、ビビッてしまったというツバサさん。

「恐怖を感じた私は、窓を閉めたまま『なんですか?』と問いかけたんです。すると男はさらに怒り沸騰という感じで、『ナメてんのか!?』、『人が話してんだろ、降りろよ!』、『なんだ今の停め方は!』、『俺の車に文句あんのかよ?』、『お前、殴られてぇの!?』とマシンガンのように大きな声で威嚇してきて…。


 声の振動が車内まで響いてくるように感じられたほど、威圧的な怒号を浴びせられ続けました」

 ツバサさんの話す通り、広い駐車場でポツンと1台停まっている車の隣を避けるのは、対応としてなにもおかしくないように思えるが、なぜジャージ中年は怒っていたのだろうか。

「おそらくその男は、車を離して停められたことを、『俺の車が汚いとでも言いたいのか』『近寄りたくなくて避けられた』と被害妄想的に捉えたのかもしれません。……しかしなぜ絡まれたのか、今でも正直、理解できません。

 そのときは頭の中が恐怖でいっぱいでした。ドアや窓を開けたら最後、引きずり出されて暴力を振るわれるかもしれない、そう思ってドアも窓も閉めたまま『そんなことはないです』と必死に声を絞り出すのが精一杯でしたね」

“待った”をかける救世主の登場で形勢逆転!?

 執拗な威嚇を続けるジャージ中年。この状況から逃れるためには強引にでも車を発進させるしかない、そんな考えも脳裏に浮かんだそうだが……。

「だけどそんなことをしたら、この男が僕の車にわざとぶつかって、さらに事態が悪化するかもしれないし。そういう思考がグルグルと頭を巡っていましたね」

 ツバサさんがもう詰んだと絶望していたそのとき、“待った”をかける救世主が現れたという。

「たまたま居合わせたコンビニの男性客がジャージ中年の背後に立っていたんです。その男性は身長が190cm近くあり、胸板が分厚くて腕も太い大柄マッチョ。170cmそこそこのジャージ中年を上から見下ろす格好になっていました」

 その構図はまるで、キャンキャンと吠えていたチワワが、ドーベルマンに睨まれたようなものだったそうだ。

逃げるようにセダンへ乗り込んで去って行った

「男性客が『どうしました?』と、低く野太い冷静な声で尋ねてくれました。それだけで、あれほど威勢よく喚き散らしていたジャージ中年の肩が、目に見えてビクッと跳ねたんです。そこからはもう、面白いくらい狼狽しはじめて(笑)」

 さらに店員もスマホを耳にあてて、どこかに電話をかけながら駆け付けてくれたという。


「店員さんの『あ、もしもし警察ですか?』という声が聞こえて、ジャージ中年はさらに委縮していた感じでしたね。圧倒的な体格差のある男性客、そして店員さんが発した『警察』というパワーワード。

『殴られたいのか!?』と息巻いていた男の口数は急激に減り、明らかにうろたえていました。それで、男は精一杯の虚勢だったのか、『……チッ』と舌打ちだけ残して、逃げるようにセダンへ乗り込んで猛スピードで去って行ったんです」

 余談だが、中年ヤンキーが去った後に男性客や店員にお礼を伝えたところ、実は店員のスマホはどこにも繋がっておらず、“警察に電話しているフリ”という機転を利かせてくれていたそうだ。

弱そうな相手にしかイキがれないダサい精神性

 閑静な住宅街で時代錯誤な絶滅危惧種“平成ヤンキー”とエンカウント――最後にツバサさんは当時をこう振り返る。

「もしマッチョなお客さんと店員さんが助けに来てくれなければ、ジャージ中年とまた遭遇するのが怖くて二度とあのコンビニを利用できなかったと思います。それどころかあの道も通れなくなるほどトラウマになっていたかもしれません。あのとき誰も助けに入ってくれなかったらと考えるとゾッとします。

 でも今思い出しても、あのジャージ中年のマッチョさんが現れた瞬間や、店員さんの『警察』という言葉を聞いたときの狼狽っぷりは忘れられませんね。めちゃくちゃ笑えます(笑)。けっきょく自分より弱そうな相手にしかイキがれないダサい人間だったってことでしょうね」

 コンビニ駐車場で先に停まっていた車を気遣ったつもりが、その配慮が不運にも裏目に出てしまったツバサさん。中年ヤンキーの歪んだ自尊心を逆なでしてしまうという、なんとも奇妙な“難癖”エピソードであった。


(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)

【逢ヶ瀬十吾】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは映画・ドラマ・舞台などエンタメ系全般について。美味しい料理店を発掘することが趣味。
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