■いつごろ帰ろうかと連絡をしてみると
「うちは夫の実家が北海道、私は関西なんです。夏は北海道、お正月は関西と決めて帰省していたんですが、息子が中学受験をするので、今年は私の実家へ2泊くらいにしようかと夫と話し合っていました」
アイコさん(43歳)は、新幹線なら飛行機より予約は遅くていいだろうし、2泊だったら親も気楽に泊めてくれるだろうと思っていた。7月に入ってから、「お盆に帰るから」と親に連絡をすると、「今年は来なくていいから」とあっさり言われた。
「遠慮しているんだろうと思っていました。息子の受験もあるし、帰省するにもお金がかかる。私は派遣社員だし、夫は中小企業でボーナスも少ないんだと、その前に電話で愚痴ったばかりだったので」
だから「大丈夫、帰省くらいできるから」と明るく言うと、母は声を落とした。
「この家、売ろうと思うのよって。ビックリしました。『いろいろ考えたけど、私たちがいなくなったら、空き家になっちゃうでしょう。掃除も大変だし、一戸建ては災害にも弱いし。今から不動産屋さんが来るの。じゃあね』って。
あとで再度、電話をして、そんな大事なことをどうして相談してくれないのと言ったら、どうしてあなたに相談する必要があるのと逆に言われました。『財産なんてないからね、何も期待しないでね』と」
■思い出がつまった家を売るなんて……
アイコさんはあわてて遠方に住む兄に連絡をとった。ふだんは疎遠だが、親に関わることでもあるのだからと話してみると、「お父さんとお母さんの好きにすればいいんじゃないの」という答え。
「私は自分が育った家が大好きでした。親も、あの家には思い入れをもっていると信じていた。家族の思い出がつまった家をそんな簡単に売るなんて……」
何度も母に電話をしたが、「もう、いいじゃない。思い出の品はとっておくから。あなた、一度来て、ほしいものを持って帰ったら?」と言われた。
「それを夫に言ったら、『お父さんたちだって、これからのことを考えたんだろ。まだ70代なんだから、もっと便利で気楽な暮らしをしたいんじゃないかな』と納得している。あの家に思い入れをもっていたのは私だけ。愕然としましたね」
母からは「10月には引っ越すから」と連絡があった。
■「来るならホテルに泊まってね」
帰省を伝えたら、親に「来るならホテルに泊まってね」と言われたと話すのは、メイさん(40歳)だ。夫との間に、9歳と5歳の子がいる。昨年は帰省時に、あんなに喜んでくれたのにといぶかしく思っていると、電話で母が言った。
「『孫へのプレゼントだのお盆玉だの、あなたたちの食費や布団の準備など、もう金銭的にも体力的にもきついのよ。今年は暑いし。ふだんからテレビ電話で話しているから、そんなに寂しくもないの。お父さんも私も趣味の会で忙しいから』と妙に淡々としていました。確かに『年金ってたいしてもらえないのね』と母がつぶやいていたこともあったけど、それほど生活に困っているとも思えなくて」
ただ、母の妹にあたる叔母と連絡をとってみると、「今年の春だったか、家が雨漏りして大変で、直すのに相当かかったみたいよ」とのことだった。娘に心配させまいと、母はそういうことはいっさい、知らせてこなかったのだ。そういえば実家は築50年を超えている。
「うちも決して余裕がある生活ではないから、言われたら困っただろうけど、でも何も言わずに帰ってくるなというのもちょっと水くさいですよね」
■帰省するだけが親孝行ではない
結局、夫とも相談して今年は帰省をとりやめることにした。その代わり、涼しくなったら、両親を自宅と実家の中間地点あたりの温泉地に一泊でもいいから招待したらどうかなと夫は言ってくれた。
「帰省するだけが親孝行というわけではないと初めて気付きました。確かに私は実家だったら、子どもの面倒まで母に甘えっぱなしだった。父は70代半ば、母も70代になって体力的にもきつかったんでしょう。これからは夏冬の帰省という形ではなく、もう少し親の実態を考慮した上で何かできればと思っています」
代わりに近場の家族旅行を計画、子どもたちは長い時間、列車に揺られるストレスもなく海やプールを楽しんでいたという。









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