2026年7月24日に公開された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は、公開初日から多くの人が映画館に足を運び、満員となる上映回も多数出るなど、大きな盛り上がりを見せています。

興行収入も早々に100億円を突破し、記事執筆時点には139億円に到達。
『風立ちぬ』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』などの興行収入を上回り、日本の歴代興行収入23位を記録しています。

SNSには原作漫画の画像を添えた感想の投稿も
今回の大ヒットの背景には、もちろん『ちいかわ』という作品そのものの人気がありますが、映画版が原作の世界観を大切にして丁寧に作られていることも、大きな要因の1つではないでしょうか。

そして、映画を鑑賞した人の感想が、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSに数多く投稿されていることも影響しているでしょう。

「面白かった!」「原作のあの場面が映画ではこうなっていた!」「このシーンが最高だった!」など、肯定的な感想も多く見受けられます。こうしたSNS上の口コミも、さらなる映画のヒットにつながっているのかもしれません。

SNSの投稿には、原作漫画の一場面の画像を添えて感想を書いているものも多く見受けられます。そこで、弁理士の筆者としては1つ気になる点があります。映画の感想をSNSに投稿する際、原作漫画の画像を一緒に掲載しても、著作権法上問題はないのでしょうか?

肯定的な感想が多いため、ひどい画像の使われ方は筆者の見る限りほとんど見受けられませんが、著作権法という観点で問題のあるものも一定数見受けられます。

では、どういった画像の使い方ならOKで、問題になるのはどのような場合なのでしょうか。

■参考となる、創価学会批判をめぐる裁判
まず、漫画などの画像をXに投稿する場合、著作権法上の大きなポイントになるのが「引用」です。著作権法では、一定の条件を満たす場合には、他人の著作物を「引用」して利用することが認められています。

簡単にいうと、「自分の文章を書いたり意見を述べたりするために、その説明や批評などに必要な範囲で、他人の著作物を利用する」というイメージです。


例えば、「この漫画のこの場面が非常によかった。その理由は○○だからだ」と自分の感想や批評を述べ、その内容を説明するために、実際の漫画の該当場面を掲載する、といったケースが考えられます。

ただし、単に「自分の文章+他人の画像」とすれば、全てが引用として認められるわけではありません。その画像を利用することが、投稿している文章や批評との関係で必要といえるのか、投稿全体として自分の文章などが中心となっているのか、といった点が問題になります。

このSNS上の画像利用について、近年注目される裁判例があります。

創価学会が発行する聖教新聞の写真画像を利用しXにて創価学会を「選挙学会」「宗教団体ではなく政治団体」などと批判したケースについて、写真画像の利用が著作権法上の「引用」に当たるかどうかが争われた事件です(知財高裁2025年7月31日判決)。

この事件で重要なのは、投稿者が写真そのものを批評していたわけではなかったという点です。

それにもかかわらず、裁判所は、その写真が掲載されていた新聞記事が報道していた「出来事」と投稿者の批評との間に関連性があることなどを踏まえ、写真の利用について正当な引用に当たると判断しました。

さらに、著作者名や作品名などの表示が十分ではなかったとしても、投稿全体や前後の投稿などから、その写真などの出所が容易に分かる場合には、引用として認められ得ると判断しています。

この判決は、SNSにおける著作物の「引用」を考える上で、非常に参考になるものです。

■『映画ちいかわ』の感想に原作画像を載せる場合は?
では、この裁判例の考え方を、『映画ちいかわ』の感想をXに投稿するケースに当てはめてみましょう。

ポイントになるのは、「なぜ映画の感想を述べるために、原作漫画の画像を使う必要があるのか?」という点です。


例えば、次のような投稿を考えてみます。

===
映画『ちいかわ』を見ました。原作ではこの場面は○○という描き方でしたが、映画では△△という演出に変更されていて、とても面白かったです。<原作の該当場面の画像>
===

この場合、「原作ではこう描かれていた。それが映画ではこう変わっていた」という原作と映画の比較・批評をするために、原作画像を利用していると考えることができます。そのため、引用として認められる可能性は比較的高いと考えられます。

もう1つ例を挙げてみましょう。

===
映画『ちいかわ』を見てきました。原作ではこの場面のちいかわの表情が非常に控えめなのに対し、映画では表情の変化がかなり強調されていました。この違いによって、映画版の方が○○という感情が伝わりやすくなっていたと思います。<原作の該当場面の画像>
===

この場合も、原作画像が「原作と映画の表現の違い」を説明・批評するために使われています。つまり、文章と画像との間に具体的な関連性があり、画像を利用する必要性も説明しやすいケースです。


これらのような場合は引用として認められやすく、著作権法的に問題にはならない可能性が高いです。

では、どういった画像の使い方だと問題となるのでしょうか。

■問題となりやすい場合
「引用」として認められにくくなると考えられるのは、例えば、次のような投稿です。

===
映画『ちいかわ』を見てきた!面白かった!
<原作のちいかわ画像>
===

この投稿では、映画についての感想は書かれていますが、掲載した原作画像について具体的な説明や批評がされていません。「なぜこの画像を使う必要があるのか?」という関係性も分かりにくいでしょう。

そのため、原作画像が「引用」として必要な範囲で利用されたものなのか問題となる可能性があります。

また、次のようなケースも注意が必要です。

===
映画『ちいかわ』を見てきた! ○○という場面が原作よりもさらに迫力があるように感じた<上記の場面とは関係のない原作のちいかわ画像>
===

この場合も、文章と掲載画像との間に具体的な関連性がありません。

映画の感想を書くこと自体に、その画像を利用する必要性があるのかも説明しにくいため、引用として認められにくくなると考えられます。

■画像を載せれば全て引用として認められるわけではない
つまり重要なのは、その画像が「映画の感想など自分の文章を書くために、なぜ必要なのか」という点です。

なお、著作権法上の「引用」に該当するかどうかは、文章と画像との関係、画像を利用する必要性、利用されている画像の分量、投稿全体の構成など、具体的な事情を踏まえて判断されます。

また、SNSは一般的な論文や新聞記事とは異なり、文字数が限られるサービスでもあります。
そのため、SNSにおける「引用」をどのように考えるのかについては、今後も裁判例の蓄積によって考え方がさらに具体化していく可能性があります。

■映画の感想をSNSに投稿するときに気を付けたいこと
今回の記事をまとめると、映画の感想をXなどに投稿する際、原作漫画の画像を利用するのであれば、

1:自分自身の感想・意見・批評を中心にする
2:その感想・批評と掲載する原作画像との間に具体的な関連性を持たせる
3:「なぜ、この原作画像を使う必要があるのか」を説明できるようにする
4:原作画像を必要以上に掲載しない

といった点を意識することが重要です。

▼藤枝 秀幸プロフィール大手IT企業などでSEとしてシステム開発などに従事した後、2009年に「藤枝知財法務事務所」を開業。以降、IT分野やエンタメ分野を中心に契約書業務や知的財産業務を行う。メディアや企業のコンテンツ監修なども手がけている。All About 弁理士ガイド。
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