例えば、多忙なビジネスパーソンの朝。急な予定変更で会議がキャンセルになった。
AIエージェントは自動でスケジュールを変更し、空いた時間に行うべき優先タスクをねじ込む。資料作成やデータ分析では、単に目的を伝えるだけ。エージェント自ら表計算ソフトを開いてデータを整理し、デザインツールを立ち上げ、プレゼンテーションのドラフトを自動生成する。途中でミスに気づけば自ら修正まで行う。そんな世界が当たり前になってきた。6月2日から5日にかけ台北で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2026は、まさにAI見本市の様相を呈していた。開幕を翌日に控えた1日、NVIDIAのジェンスン・ファンCEOとQualcommのクリスティアーノ・アモンCEOが基調講演を行った。ハードウェアからAIをドライブする二人の目には、AIの進む先はどう見えているのだろうか。
 両者のプレゼンテーションで全く共通していたのは「今年はエージェンティックAIが爆発する時代の転換点」という点だ。ファンCEOは「今日、エージェンティックAI、つまり『有用なAI』が到来したと断言する」と力強く宣言。「AIは単なるチャットボットから、短期記憶と長期記憶を持ち、推論し、計画を立て、自らツールを使いこなす『労働力』へと進化した」と話す。特に、ソフトウェアエンジニアの生産性が劇的に向上している点を例に挙げ「AIはすでに巨大な経済価値を生み出す『GDPジェネレーター』になっている」とも話した。
さすが、データセンター向けの巨大な計算資源で世界を席巻するNVIDIAのCEOらしいコメントだ。
 QualcommのアモンCEOも奇しくも「今年はエージェントの年だ」と明言。ファンCEOと同じく「過去のAIは単発の質問に答えるだけのもの。対する現在のエージェントは、複数のステップを自律的に処理し、その過程で人間の何百倍ものスピードで演算を実行するものだ。トークン消費も伴うが……」とした。人間がシステムを操作する時代は終わり、エージェントが人間の代わりにシステムを操作し、膨大な情報処理をバックグラウンドで行う世界は「すでに始まっている」という点で、二人の見方は完全に一致していた。
 AIのこれからに対する、両者のニュアンスは若干異なる点もあった。NVIDIAのアプローチは、桁外れの計算能力をインフラとして提供し、あらゆる処理を力技でねじ伏せようとするものだ。ファンCEOは「エージェントの推論プロセスには膨大な計算資源が必要だ」とし、推論特化型のAIサーバー「Vera Rubin」や新CPU「Vera」の圧倒的な性能が貢献するとアピールした。「そのうち、あなたの家にAIスーパーコンピューターがやってくるだろう。常にあなたのためにあらゆることを行う存在だ」と話す。各家庭にホームシアターを置くような感覚でAIマシンが置かれる未来像を示した。
クラウドから家庭内の専用サーバーまで、強力なパワーでエージェントを24時間稼働させ続ける環境を目指す、それがNVIDIAの狙いだ。
 一方、Qualcommのアプローチは、スマートフォンを起点に「エッジ(端末側)コンピューティング」の極致を目指すものだ。アモンCEOは「クラウドとエッジで実行すべき処理を分散させる」と語り、すべての処理をクラウドに依存するのではなく、端末側でも高度な処理を行うことの重要性を説く。例えば、スマートグラスなどで「自分が見ているものをAIに見せる」場合や、車の自動運転などにおいては、通信の遅延が大きな問題になる。そこはエッジ側の仕事、というわけだ。個人のプライバシーに関わるデータをすべてクラウドに送信するリスクも回避できる。Qualcommは、端末の消費電力を極限まで抑えながら、分散処理によってAIを身近なデバイスに溶け込ませようとしている。
 今回のCOMPUTEX TAIPEIでは、NVIDIAがPC用のAI CPU(SoC)「RTX Spark」を新たに発表したことでも話題を呼んだ。スマートフォンの技術を背景に、PC用のAI CPUについては、QualcommのSnapdragonが先行していた。ここに、画像処理や重いAIの演算で絶対的なブランドと実績を持つNVIDIAが、正面から参入してきたわけだ。ファンCEOは「MicrosoftとNVIDIAはPCを再発明する。これが新しいPCの標準になる」と強い自信を見せた。
NVIDIAがPCのCPU市場にも本格参入した理由はシンプル。ユーザーの手元で専属のエージェントを24時間稼働させる時代に備えるためだ。常時稼働型のAIを、クラウド経由で利用していては利用料の問題がつきまとう。コストを気にせず使いまくるためには、RTX Sparkを搭載したAI PCが必要になるだろう、というわけだ。
 これによって、PC用のCPUは、Intel、AMD、Qualcommに続いてNVIDIAも加わることになった。あるハードウェアメーカーの広報担当者は「RTX Spark用のマザーボードも新たに起こす必要がある」と話す。メモリーやストレージの価格上昇にさらされて苦しむ中「さらなる生産コストの上昇要因ともなりかねない」と、複雑な胸の内を明かした。
 アモンCEOは「スマートフォン、PC、スマートグラス、あるいは自動車。シームレスに自分専用のエージェントと対話し、作業を引き継ぐことができるようになる」と話す。「もはや私たちは、デバイスの操作方法を覚える必要すらなくなる。デバイス側が私たちの行動様式や好みを学習し、先回りして動くようになる」とも。エージェントがかいがいしく働いてくれる一方、楽になった分、我々は何に時間を使えばいいのだろうか。
これまで1日10個作るのが精いっぱいだった饅頭職人。ある日、2つのうち1つだけ「謎の力」を選べることになった。味はちょっと落ちるが1日1000個の饅頭を作れるようになるか、めちゃめちゃうまい饅頭を1日15個作れるようになるか。私は断然うまい饅頭のほうがいいと思う。(BCN・道越一郎)
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