子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【39冊目】「雑誌の『雑誌特集』を読む」をどうぞ。
【39冊目】雑誌の「雑誌特集」を読む
編集者やライター、デザイナーなど、雑誌作りに携わる人間は、基本的に雑誌好きだ。なかにはそうじゃない人もいるかもしれないが、少なくとも私が仕事で付き合いのある範囲では、みんな雑誌が好きである。もちろん、雑誌を買う人も雑誌好きに違いあるまい。
だったら、雑誌で雑誌の特集をやればウケる(=売れる)のでは? と、考えたのかどうか、「雑誌特集」を組む雑誌は結構ある。当連載でも『ダカーポ』(平凡出版→マガジンハウス)の「世紀末的頭脳マラソン 雑誌『完全読破』の記録」(1981年12月5日号)、「雑誌の進化論」(1986年4月5日号)、「雑誌編集者って何だ」(同11月19日号)、『Title』(文藝春秋)の「雑誌チュー毒」(2001年4月号)といった特集を紹介した。特に『Title』は、自分がガッツリ関わった特集でもあり、思い出深い。
上記以外で手元にある雑誌特集をいくつか見てみよう。
まずは、『文藝』(河出書房新社)1998年冬号「Jマガジン ネクスト・シーン」。1988年10月開局のJ-WAVEに端を発し、93年のJリーグ開幕で「Jなんとか」ブームが到来、「J-POP」「Jホラー」「J文学」「Jコミック」などの呼称が生まれた。その流れに乗って「Jマガジン」と題した特集を組んだわけだ。
何をもって「Jマガジン」とするかという定義は特に示されていないが、特集筆頭の「マガジン最前線・各誌編集長インタヴュー」に登場するラインナップを見れば、ニュアンスは何となくわかる。『H』『キューティー』『TOKION』『DICE』などのオシャレ系があるかと思えば、『現代思想』『批評空間』といったお堅い雑誌もあり、『TVブロス』『GON!』『BURST』のようなサブカル・悪趣味系もある。
松尾多一郎×北沢夏音×赤田祐一の鼎談「雑誌狂『少年』のスピリッツ」、湯山玲子×永江朗の対談「ソウルフルな雑誌が読みたい」、ペヨトル工房のミルキィ・イソベへのインタビュー(聞き手:松浦理英子)、香山リカ、斎藤美奈子、三浦俊彦らによる「マガジン・クリティーク」など、その他の記事も読みごたえあり。いささかスノビッシュな匂いが鼻につく部分もあるが、雑誌について語ると、結局(自分も含めて)知識自慢みたいになってしまいがちなので、他山の石としたい。
この特集号が出た1998年は、雑誌が最後の輝きを放った時期だった。雑誌販売額は前年の1997年をピークに坂道を転げ落ちていく。それでもまだ、『編集会議』(宣伝会議)2001年11月号「雑誌偏愛主義!」、『BRUTUS』(マガジンハウス)2003年9月1日号「雑誌好きなもので!」といったポジティブな視点の特集も組まれている。
前者は、そもそも編集者&出版志望者向けの雑誌なので、こういう特集が組まれるのは当然といえば当然。総合月刊誌部数1位の『文藝春秋』と女性誌1位の『non-no』を比較する記事(取材・文:永江朗)に始まり、「ちょっと気になる雑誌の謎15」「伝説の雑誌たち」「コラムランキング」といった定番的企画のほか、みうらじゅん「オレの脳内天国を通り過ぎていった雑誌たち」、ルポ「『路上キヨスク』の黒幕は誰だ」などが並ぶ(完全に忘れていたが、「伝説の雑誌たち」内のインタビューコラムに自分が出ていて驚いた)。
後者は、海外雑誌がメインで個人的にはあまりピンとこなかったものの、「雑誌は、発行部数では語れない。」と銘打ち、日本のマイナー雑誌中心に470誌を集めた綴じ込み付録風のコーナーは圧巻だ。知ってる雑誌もまあまあ多いけど、『温泉』(日本温泉協会)、『鱗光』(新日本教育図書)、『焼肉文化』(焼肉文化社)、『新ハイキング』(新ハイキング社)、『天然ガス』(天然ガス鉱業会)など、グッとくる未知の雑誌もいくつかあった。
しかし、このあたりから雑誌特集のトーンが変わってくる。たとえば『スタジオボイス』(インファス・パブリケーションズ)2004年3月号「雑誌文化伝説'70~'85」は、タイトルからして回顧的。
内容的には『an・an』『ポパイ』『BRUTUS』『月刊プレイボーイ』『ワンダーランド/宝島』『ビックリハウス』といった歴史に残る雑誌を振り返る。大判の誌面に現物の雑誌のビジュアルをたっぷり載せつつ、時代背景も含めて解説。石川次郎、田名網敬一のインタビューは貴重だし、榎本了壱による「70年代:イラストレーション黄金時代MATRIX」「『ビックリハウス』系マトリックス」は目に楽しい。
『ガーリー』(アスペクト)5号(2005年4月10日発行)の特集は「捨てられない雑誌たち!!」。こちらも回顧的スタンスで、〈ここで紹介する雑誌は総勢100名に聞いた何年たとうが、ボロボロになろうが捨てられない雑誌ばかり。愛する“雑誌”による感動の“特集”に「ありがとう」の気持ちを込めて、お贈りします〉と、すっかり骨董品扱いだ。とはいえ、対象読者層が若いだけあって、そうマニアックなものは出てこない。
『ユリイカ』(青土社)2005年8月号「雑誌の黄金時代 紙上で見た夢」は、主に80年代の雑誌シーンを振り返る。町山広美、松田洋子、安田謙一、仲俣暁生、近藤正高らの寄稿は面白いし、四方田犬彦×坪内祐三の対談「雑文家渡世」はウンチク満載で「へぇ~」と思う。
あげくの果ては『WWD FOR JAPAN』(INFASパブリケーションズ)2008年春夏号「雑誌に未来はあるのか?」なんて特集が出たかと思ったら、『Pen』(CCCメディアハウス)2014年12月1日号は「もうすぐ絶滅するという、紙の雑誌について。」と露骨にネガティブなタイトルを掲げた。
どうにもお先真っ暗な感じである。が、そう言ってる本人が紙の雑誌なんだから、実際にはむしろ逆説的意味合いが強い。『WWD』の場合、「雑誌に未来はあるのか?」と大書された特集扉をめくると、いきなり「雑誌の世界にはまだ可能性がある。」との見出し。リード文には〈雑誌不況が長引いている。というより、今の環境を考えれば、それはもはや慢性化したもので、改めて、その原因を云々するのも虚しい。(中略)しかし、そうした状況下でも、元気な雑誌がないわけではない。その数少ない雑誌の編集長と好調な雑誌系出版社トップの声を追いながら、かすかに見える光明の糸口を探った〉と綴られている。
そこで取り上げるのは『CanCam』『VERY』『InRed』『S Cawaii!』『Begin』『men's egg』『MEN'S KNUCKLE』『小悪魔ageha』など。なるほど、当時勢いのあった雑誌である。でも、後ろの3誌は休刊しちゃったよな……と思って調べたら、なんと『men's egg』と『小悪魔ageha』はそれぞれ2025年、2021年に復活していた。
「もうすぐ絶滅するという、紙の雑誌について。」と題した『Pen』のほうも、特集扉で〈紙に印刷されて書店に並ぶ雑誌は、やはり老兵のように消え去るのか? 否――紙だからこそ伝えられる大切なものがあるということを、この特集で証明します〉と宣言する。
特集トップは「若手編集者が語る。『だから雑誌は面白い!』」。『小説新潮』『サイゾー』『DIME』『ディスカバー・ジャパン』『FRaU』『週刊文春』といった雑誌の編集者が自身の履歴と担当雑誌について語る。続く「目利きが誘う、広くて深い雑誌の世界。」では、表紙にも登場した壇蜜、博報堂ケトルのクリエイティブ・ディレクター・嶋浩一郎、多くの雑誌の表紙を飾った広末涼子、写真家のハービー・山口、ミュージシャンの小宮山雄飛、コラムニストの泉麻人らが雑誌遍歴を振り返り、好きな雑誌、影響を受けた雑誌を紹介。ちなみに、壇蜜が挙げたのは『猫の手帖』『モノ・マガジン』『SPA!』だった(壇蜜のグラビアデビューは『SPA!』である)。
「古今東西、雑誌が時代をつくってきた。」では、1655年にフランスで創刊された世界初の月刊学術誌『Journal des Savants』から2015年の『T JAPAN』(朝日新聞社/集英社)創刊までの雑誌の歴史を、16ページにわたり年表形式で展開する。単に創刊誌を並べただけでなく、『文藝春秋』1974年11月号掲載の立花隆「田中角栄研究」や『an・an』1989年4月14日号のSEX特集など、話題を呼んだ記事にも言及。〈「ヴァンサンカン」に、“スーパー読者”として叶姉妹が登場〉(1997年)、〈「週刊ザテレビジョン」(角川マガジンズ→現・KADOKAWA)で、長渕剛が初めてレモンを持って登場〉(2013年)といったどうでもいいネタも随所に挿入されており、資料的価値も高い労作だ。
ほかにも、『+DESIGNING』(毎日コミュニケーションズ)2007年9月号「雑誌。」、『TITLE』(文藝春秋)2008年2月号「雑誌は挑発する!」、『ケトル』(太田出版)2012年10月号「雑誌が大好き!」、『kotoba』(集英社)2016年秋号「雑誌を哲学する。」などの特集がある。やはり雑誌編集者は雑誌好きなのだ。
とはいうものの、ここ10年ほどは雑誌特集を見た記憶がない。私自身、コロナ禍以降書店に行く頻度が激減しているため見逃しもあるかもしれないが、何しろ雑誌市場の縮小はとどまるところを知らず、2024年の販売額はピークだった1997年の1兆5644億円から約4分の1の4119億円にまで落ち込んでいる。これではさすがに雑誌特集も組みづらい。
一方で、「文学フリマ」などインディーズ雑誌の世界は盛況だ。地方の高校生がZINE作りに挑むマンガ『RIOT』(塚田ゆうた)も話題を呼ぶ。音楽の世界でも、一度は終わったメディアと思われたアナログレコードやカセットテープの人気が再燃するような動きもある。
だからといって、雑誌市場が劇的なV字回復を遂げることはないだろう。それでも、紙の雑誌がなくなることはないと思う。物理的に存在する安心感、パラパラめくることで得られる一覧性と偶然性、電源やデバイスがなくても読める手軽さは何物にも代えがたい。その分、保管場所に困るという欠点は如何ともしがたいのであるが、そうやって溜め込んでいたからこそ、こんな連載もできたわけだ。
2024年11月からスタートした当連載も、今回が最終回。
文:新保信長
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