流浪の月』と『汝、星のごとく』で2度の本屋大賞を受けた凪良ゆうさん。2作品とも実写映画化されるなど、彼女のどの作品も巧みな人物造形や心理描写が丁寧な筆致で表現されていて心をつかまれる。

デビュー以来、コンスタントに作品を送り出してきたが、前作からは2年半ぶりである待望の最新刊『多類婚姻譚』が刊行された。本作は、結婚をテーマにした連作短編集だが、この間に心境の変化などがあったのだろうか。また、結婚にまつわる様々な物語を軸とした内容にちなんで、公私共にできうる限り答えていただこう。<インタビュー#3公開:最終回>



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【『これはわたしの話』と感じる部分があるのかも】



 2007年に作家デビューし、様々な賞を受賞。多くの読者から支持を受けているが、何がこれほど読む人の心をつかんでしまうのだろう。





「読者さんひとりひとりが『これはわたしの話』と感じる部分があるのかも。今、生きている人たちと全く無関係な話を私は書いていないので、何かしら読んでくださると刺さる部分があるのだと思います。要は、これは心当たりがあるな、とか、この気持ちわかる、みたいに感じてもらえているのかな、と」





 日ごろから周りを観察して作品のネタを探しているのだろうか。





「無理に探したりはしてないですけれど、ただなんとなく毎日を過ごしていても、心に引っかかってくるものってあるんですね。私はメモを取らないんですが、メモを取っても忘れてしまうものはその程度のもの。日々薄れゆく記憶の中でずっと残り続けているものとか、忘れたと思っても何度も思い出すものは、今、自分がすごく気になっていることなんだろうと思って調べたり、書いてみようかなと思ったりします」





【凪良ゆうインタビュー#3】更年期障害というトンネルを抜けることができた時にはそれを題材にした小説を書きたい
撮影:Haru



 基本的には、その時々に興味のあること、好きなことを書いているという凪良さん。時代性も加味しながら書いているのだろうか。





「つい先日、5年半前に発売された『滅びの前のシャングリラ』という作品が文庫化されました。あれは現代の話ですが、隕石が落ちてきてあと1か月で地球が滅びますという物語です。だから当時は、すごくSFっぽい、アメリカの映画みたいな場面を思い浮かべる人が多かったんです。ただ、私が書いているのはいつでもその作品の中で生きている人の心の話なんです。だから、時代が江戸時代だろうと、はるか先の未来の話だろうと、そういう意味では時代は特に関係ないかもしれません。人の心って、そんなに変わっていないですよね。だって、『万葉集』にしても『百人一首』にしても、意味がわかるとものすごく共感できますから」





【凪良ゆうインタビュー#3】更年期障害というトンネルを抜けることができた時にはそれを題材にした小説を書きたい
撮影:Haru



 今の時代は様々なコンテンツがあふれていて、昔のように当たり前に本を手に取ってもらえなくなってきた。そんな中にあって、凪良さんは20年近く第一線に立ち続けているが、健康面で気をつけていることはあるのだろうか。





「一番気がかりなのは更年期障害が重いことです。50歳になる前から体が重いとか、倦怠感、集中力が落ちるみたいなことがあって、調べてみるとすべて更年期障害の症状に当てはまったんですよね。5編目の『C’est la vie』で、主人公が更年期の症状を改善するためのホルモン療法を受けている場面を書いたんですが、私もホルモン療法を始めて発汗症状がピタッと止まったので、あれは実体験の話ですね。ただ、今も相変わらず症状は続いていて、今作が2年半ぶりになってしまったのも、更年期のせいもあるのかな。

集中力が続かなくて思うように仕事が進まなかった。書くペースがものすごく落ちたのは悔しいですから、この長いトンネルを抜けることができた時には、それを題材にした小説を書きたいと思っています。ただじゃ起きない、全部拾っていきます(笑)」



【凪良ゆうインタビュー#3】更年期障害というトンネルを抜けることができた時にはそれを題材にした小説を書きたい
撮影:Haru





【いくつになっても人生はままならない】



 現在53歳。無趣味なので、自宅での読書や映画鑑賞、料理を作ることで息抜きをしているそうだ。





「年齢的には完全に大人なんですけれど、全然大人になれていなくて、よく失敗するし、恥ずかしいことや苦手なことも年々増える一方です。それに、小説を書いていると、いくつになっても人生はままならないことがわかるばかりで。人生のターニングポイントですか? それは絶対に作家デビューした時です。ボーイズラブのジャンルでデビューしたんです。あと、漫画は好きですね。一番好きな漫画家はよしながふみさんで、彼女の作品は全部読んでいます。初めて読まれる方にお勧めするとしたら、『大奥』と『きのう何食べた?』です。実写版で見ている方が多いと思いますが、原作の漫画も素晴らしいので是非一度読んでみてください」





 それでは、今までの人生で最も辛かったのはいつだったのか。

それをどう乗り越えてきたのだろう。





【凪良ゆうインタビュー#3】更年期障害というトンネルを抜けることができた時にはそれを題材にした小説を書きたい
撮影:Haru



「一番しんどい時のことなんかもう忘れちゃいました。今は書けないことが一番しんどいので焦燥の毎日です。SNSで友達の作家さんの新刊が出たと知ると、私も頑張らなくちゃという焦りもありますし。長く書き続けるためにはモチベーションを保ち続けることなのですが、それが一番難しいんですね。先日、林真理子さんとお話しさせていただいたときに、長く書ける秘訣をうかがったんです。そしたら、『次こそもっといいものが書けるかもしれないという気持ちが自分を駆り立てるんです』とおっしゃっていて、鳥肌が立ちました。林さんのような方でも、まだ高みを目指しているんだと思うと、私ごときがモチベーションだなんだと言っている場合じゃないぞ、って。私は20代の頃から林さんの小説もエッセイも大好きで、林さんの変遷を見てきていますから、なおさら、あのバイタリティはすごい、燃料が切れないんだと思って。本当にあの言葉を聞けたのは、ありがたかったです」





 女性にとって、仕事も、個人で自由になるお金も欠くことができないものだ。けれども、仕事を持ち、年齢を重ねても焦らず、妥協せず、女らしさを磨き、恋もして……、という人生を送るのは至難の業だ。しかし、凪良さんはそんな女性たち、そして男性たちにも、まっすぐに届くテーマや文章で、考えさせてくれたり、背中をそっと押してくれたり、時には叱ってくれる。

別れ際、「更年期に何とか打ち勝ちたいです!」と力強く言い切った凪良さん。今後、どんな作品が生み出されていくのだろう。彼女のこれからの作品を読むのがますます楽しみになってきた。



(了)







取材・構成:大西展子/撮影:Haru





【凪良ゆうインタビュー#3】更年期障害というトンネルを抜けることができた時にはそれを題材にした小説を書きたい
撮影:Haru



凪良ゆう(なぎら・ゆう)

京都市在住。2007年に初著書が刊行され本格的にデビュー。BLジャンルでの代表作に連続TVドラマ化や映画化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年に『神さまのビオトープ』を刊行し高い支持を得る。19年に『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞。同作は22年5月に実写映画が公開された。20年刊行の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。22年刊行の『汝、星のごとく』は第168回直木賞候補、第44回吉川英治文学新人賞候補、2022王様のブランチBOOK大賞、キノベス!2023第1位、第10回高校生直木賞などに選ばれ、翌年、自身2度目となる本屋大賞を受賞。

同書は26年に実写映画化される。23年には『汝、星のごとく』の続編となる『星を編む』を発表。本書『多類婚姻譚』は著者2年半ぶりの文芸新刊となる



 

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