20代で介護離職を経験し、これまで1500人以上のキャリア相談を担当した佐野創太さん。〝セルフ搾取〟的な働き方から抜け出し、自分らしく長く働く方法を指南した著書『70%で働く』(日経BP)が話題だ。
■人は常に120%では頑張れない
会社員時代に120%の力で働いていた頃と今の70%の力で働く生活は全く違い、自分らしい暮らしは心身ともに健康でいられることだと身をもって知ったという。やはり人は常に120%で頑張らされては続かないし、自分で出力を選びたい生き物なのだ。
「まさに私は両極端の生活を知っているからこそ自分に合った生活タイルを見つけたんです。特に120%の力で働いている人は真面目で、そんな働き方をしている感覚すらなかったりします。そういう人たちが最初から70%を目指そうとすると『中途半端だな』と自分を責めてしまうので、逆に今の120%の反対側にある別の120%が何なのかを考えてほしい。
具体的に言うと、例えば、子育てをしたいのであれば一度子育てに振り切ったらいいんです。男性の育休なら『半年は取れ!』と私は言いたいけれど、『1週間も無理』という人も多いので、そういう人は3日間フルワンオペ育児・家事をやったらいいんです。
育児や家事をイベント的にやるのであればほんと楽しいですけど、毎日の義務になった瞬間ほんと大変になります。出産したということは想定外の出来事に遭遇し大変な負担を身体に強いたようなものなので奥様を1回休ませなきゃいけないんですよ。だから、一度誰も頼れない環境でフルワンオペ育児と家事をやってみてください。名前のない家事・育児に気づけますよ。
赤ちゃんにミルクを飲ませるにしても、『はい、ミルク』じゃない。適温に温めてかき混ぜ、子供にとっては特定の会社の粉ミルク以外受け付けないこともあるからその辺も考慮してとか、いろいろあってのミルクなんです。そうすると、自分はどこまでだったら当事者意識をもってやれるのかという振り切り幅がわかるんですね。自分は仕事を120%の力で振り切っていたけど、90%にして残りを育児と家事に当てようとか、自分だけのちょうどいい点が見つかります」
70%で働く』(日経BP)" />「自分にとってちょうどいい答え」は、どんな時も過剰と過剰の間で見つけられる。だから、既婚男性は、一度仕事ではなくて育児に120%振り切ったほうがいいと佐野さんは力説した。では、独身男性はどうしたらいいのだろう。
「ある相談者さんは、週3回は映画館で映画を見たいというので、1週間でも2週間でもそれを実行してみようという結論になりました。結果は、週3で見に行ったら疲れたそうで、今は月1ネットフリックスで映画を楽しんでいると。基本天秤で考えると趣味を犠牲にして生活がかかっている仕事を取るしかないし、『二兎追う者は一兎をも得ず』で両方得られなくなってしまいます。でも、それは両方一緒に取ろうとするからどちらにも届かないわけで、逆に週3映画館に行く、と振り切ってしまえば、ちょうどいい点が見つけられるんです」
また、カレンダーアプリでも手帳でもいいから、1か月の予定を「仕事」「誰かとの用事」「自分ひとりの時間」と色分けすることで可視化していくのはすごく大事だと佐野さんは言う。そして、特に忙しい一日には稲妻マークを付け、あとでちょっとしたご褒美タイムを設けるのも有効だと付け加えた。
「プレゼン会議だとか、役員会議に出席するときは胃が痛いわけです。そんな時は、会議後に大好きなプリンとか、ケーキをちょっとしたご褒美として食べて一息つくといいですよ。これだけのことかと思うかもしれませんが、小さなところから時間の主導権を取り戻していく。そうすると、転職だったり独立だったりといった、大きな主導権を取りたい時に思い切った決断ができる勇気が持てます」
■働き方の満足度をどう測るか?
2~3年後にはAIに代わってしまい事務作業などはなくなっているだろうし、中レベルの知的労働はほぼAIが取って代わってくると予想する佐野さん。だから、人の働き方も2~3年ごとに変わらざるを得ない時代になるとも。
「私も本当は120%の力で働きたいタイプなんです。だから、仕事に120%注ぐ父のような生き方や働き方を見ていると美しいなと思います。
こんな時代だからこそ、働き方の満足度を「体感年収」で測るという考え方もある。つまり、給与の金額だけではなく、人間関係や成長機会、働き方の自由度など自分にとって価値のあるものすべて合わせた年収のことを「体感年収」であるのだという。
「わかりやすく言えば、年収2千万の人でも仕事と上司のプレッシャーがあまりにもキツいから体感年収はマイナス5千万円ぐらいだったりするわけです。額面に現れないプラスとマイナスがあると私は思っていて、例えば、手取り月20万円の人でも、人間関係は結構いいね、プラス月10万、リモートワークできるな、月5万、仕事での経験値が上がるな、月5万と計算していくと、手取りと合わせて月40万円、年換算で倍の480万円の年収となります。あくまで自分が『これがあると嬉しい』と感じる価値をお金に換算したものですけどね」
こんな働き方や暮らしができたらいいなという思いは誰しも持っているが、現実とのギャップがあって理想にはなかなか近づけそうもないと悩んでいる人たちにアドバイスを。
「何事もひとっ飛びにはいかないです。私が一番辛かったときは極端に考えてしまう傾向があって、人間として生きるのは無理だと思ったので、人間の本ではなく植物の本を読んで参考にしました。中でも雑草の戦略が書かれている部分はすごく面白かった。雑草って伸びると人に切られるじゃないですか。
だから、伸びるのをやめるんです、ある程度以上伸びると切られて死んでしまうから。『出る杭は打たれるなら出なきゃいい』と。人間が言うとカッコ悪いとか思われるけど、雑草はそれを平気でやるんです。素晴らしい! 人間の生き方や働き方が合わない人は雑草でいいじゃないか、と思いました。あと介護と育児で悩んでいた時は、女性が書いている本しか参考にならなかったです。例えば、会社を経営しながら子育ても頑張ってますという女性の本や、そのどっちかを捨てて今は子供のほうに振り切っていますという本を読んで救われました」
■保育園に登録する電話番号はお父さんの携帯番号に!
父親とは母が体調を崩して会社を退職した時からよく話すようになったが、その時に父親がポロッと言ったことで気づかされたことがある。
「子育てをあまりしてこなかった父なので『お前たちが急に成長したのを感じたが、いつ成長したかわからなかった』と言ったんです。その時にこの人が失ったものはまさにこれなんだろうなとわかったし、母が何も話さなくなった期間も失ったものなんだなと思えば、そういう姿を私に見せてくれたことがありがたかった。父は父で最高の景色と最悪の景色を見ているんだなと思いましたね」
これからも父親がどう生きていくのかを憧れたり教科書にしたりして、『退職学®研究家』として、AIコンサルタントとして、そして様々な人たちのキャリア相談にもこたえていきたいという。
「たぶん向いていると思うので続けていくと思います。今日話した内容も私と同世代の読者には自分と重ねられる部分もあると思うので、各人が自分の問題として考えてくれるだろうと思います。ただ、平日の昼の時間帯に私がここで取材を受けられるのも妻が自分の時間を調整して息子を保育園に送ってくれたからなんですね。
なのに保育園は、共働きがこんなに増えているのに子供が熱を出したときに何故お迎えに行くのは女性なのかが不思議です。『僕は今日外せないから』『私もだから』と言い合いになっても結局お迎えは女性になってしまいます。だから、男性のみなさんは保育園に登録する電話番号はお父さんの携帯番号にしておくようにお願いしたい。そしたら男性も仕事の対極にある子育てに振り切れて、ちょうどいい暮らし方を見つけられる。女性も子育ての対極にある仕事に振り切れて、ちょうどいい働き方を見つけられる。70%の生き方は必ずひとりひとりに見つけられることを待っています。70%は手抜きでもずるでもありません。極端な頑張り方に飛び付かずに、両極端に振り子のように振って自分のちょうどいい70%を見つける働き方です。『もっと頑張る』しかなかった働き方からはもう卒業です」
(了)
取材・構成:大西展子/撮影:高山浩数
佐野創太
1988年静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学部卒業後、大手総合人材系企業に就職。その後、シンクタンクに転職するも、1か月で退職。前職に契約社員として出戻るが、母親の介護のため退職を余儀なくされる。
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