ユダヤ勢に喰われていた日本企業。『ユダヤの商法』爆売れの裏に...の画像はこちら >>



累計120万部!藤田田の『ユダヤの商法』(ベストセラーズ)はなぜ日本人にウケたのか?元日経新聞記者でPHP理念経営研究センター首席研究員の川上恒雄氏が著書『「ビジネス書」と日本人』(PHP研究所、2012年)で、そのコンテキスト=文脈を解きほぐす。同書より特別配信の第3弾では、『ユダヤの商法』初版時の社会状況について。

半世紀前、日本企業はまさしくユダヤ企業との対決を迫られていたのだ。



※記述は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります





■ユダヤ系商人の脅威が現実に



 1972年の『ユダヤの商法』のベストセラーの背景として、1970年におけるイザヤ・ベンダサン(山本七平)の『日本人とユダヤ人』(山本書店、のちに角川文庫)の大ヒットを指摘する議論が散見される。しかし、話はそれほど単純ではない。そもそも『日本人とユダヤ人』は、ユダヤ人との対比からみた日本人論であり、ユダヤ人のビジネスについて言及はしているものの、そこに焦点を当てているわけではない。経済の国際化が進むとともに、とくにユダヤ系アメリカ人と商取引で接触する日本人が増えたことも、考慮に入れる必要があるのだ。



 もともと一般の日本人にとって、ユダヤ人は遠い存在だった。戦前から、その強力な金融支配力と秘密結社などの人的ネットワークによって世界を動かしているとする「ユダヤ陰謀説」や、日本人とユダヤ(猶太)人の祖先は共通であるという「日猶同祖論」といった、キワモノ的な話題では盛り上がっていたが、現実にユダヤ人によって日本人の生活が脅かされたという経験がない。それどころか、戦後の高度成長期には、『アンネの日記』を読んで涙を流し、ユダヤ人に対してポジティブなイメージを抱く日本人も多かったはずである。ところが、国内産業育成のために閉じていた日本経済が徐々に外国に開かれるにつれ、噂や書物のうえではない現実のユダヤ人が、にわかに身近な存在として現れたのである。



『ユダヤの商法』によると、なにしろ「貿易商として、欧米で商売をしようとすれば、好むと好まざるとにかかわらず、ユダヤ人を窓口とする以外にない」(22ページ)うえに、「ガメツさを看板にする大阪商法ですら、ユダヤ商法の前ではおよそ『商法』とは言えない幼稚なものでしかない」(95ページ)。



 これは藤田田の妄言ではない。現実にユダヤ商人にまんまとしてやられる日本企業が出てきており、最首公司(当時『東京新聞』記者)が1969年にすでに、『脅威のユダヤ商法――日本企業を喰う猛烈な戦略』(徳間書店)という新書(「トクマ・ビジネス」)を出版している。

それにも『ユダヤの商法』と同じく、「好きとか嫌いとかとは無関係に、日本経済はいまやユダヤ商法との対決をせまられている」(196ページ)と書いてある。



 また、1971年4月29日付『朝日新聞』(朝刊)は、次のように指摘している。



> 輸入、仲買、卸売など流通、サービスの面に大きな比重を占めるユダヤ系米人は、製造、輸出を引受けた日本と利害が一致してがっちり握手した形だという。ニューヨークの広告業界筋によると、米国に流入する日本製品のうち仲買業者を必要とするものの九九%までが精力的なユダヤ系商人の手によってさばかれる。米国内で日本への観光などを扱う交通・旅行社の七割はユダヤ系。日本とユダヤの頭文字をとってJJ時代、というのだそうだ。



「JJ時代」というと、日ユの両商人がいかにも仲よく取引を行っていたような気にさせられるが、現実は、国際貿易で百戦錬磨のユダヤ系商人に、日本企業はたじたじだったようである。ソニー創業者の盛田昭夫は『学歴無用論』(文藝春秋、1966年)において、自身のアメリカでのビジネスについてこんなことを述べている。





ユダヤ勢に喰われていた日本企業。『ユダヤの商法』爆売れの裏にあった読者の危機感【川上恒雄】
ソニー創業者・盛田昭夫



日本に来るバイヤーの中には一流商社ではなく、食いつぶしたような、一攫千金を夢みるブローカーも多くある。これをバイヤー様々で歓待していると、叩かれ放題に叩かれて、いい加減な契約にひっかかる。バイヤーが帰ったあと、生産設備を整え、手ぐすね引いて待てど暮らせどオーダーが来ない。来ない道理だ。

そういう連中は販売組織など持ってはいないからである。彼等は持ち帰った商品を流してボロ儲けするが、宣伝が行われないから、正しい販売形態は生れてこない。(中略)
> 日本人は島国で温存されているからか、世界の商売の激しさ鋭さに比べて、あまりにもお坊ちゃんなのである。(『学歴無用論』朝日文庫版、159~160ページ)



 ここで盛田が述べていることは、アメリカ人バイヤーの中には、日本企業に対し大量発注するとみせかけて、最初に少量だけを安く買い取り、それを高く売って利ざやを稼ぎ、以降の取引をしない者がいるということである。この文章には、ユダヤのユの字も見当たらないが、実はそのすぐあとに、ユダヤ人バイヤーがソニーのトランジスタラジオを、工場の設備を増強せねばならないほど大量に買うそぶりをみせたのに対し、盛田がその話に安易に乗らなかったエピソードを紹介している。その盛田ですら、アメリカでビジネスを始めたころは、ユダヤ系商人に相当てこずったのだろうか。



 このように、国際ビジネスの現場ではまだまだ「お坊ちゃん」だった日本人は、どうして藤田田が外国のユダヤ人に「銀座のユダヤ人」とよばれるほど、ユダヤ系商人とビジネスをうまくやっていけるのか、知りたかったのだと思われる。一見してキワモノかトンデモにみられかねない『ユダヤの商法』も、売れるには、それなりの理由があったのだ。





文:川上恒雄



《『「ビジネス書」と日本人』より構成。第4回に続く》



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