日本初の女性首相として一躍もて囃され、女性たちからも支持されていた高市。それも束の間、化けの皮が剥がれてきた。

今や「女性の味方」どころか「女性の敵」である。この虚飾の女性政治家の正体を明らかにしたのが、適菜収の最新刊『高市早苗という病』である。近代の病はどのような形で現れるのか、過去の悪夢はどのような形で繰り返されるのか。時代精神を音楽へと昇華させてきた近田春夫はこの書をどう読んだのか? 絶望的かつ不確実な時代を生きるヒントを新曲『Oi Oi AI-未体験ゾーンへ』に込めたその思いとは? そして大ヒット映画『マイケル』の感想も合わせて聞いた。





 



 



■ルノワールとカンディンスキー

 



近田:適菜さんの新刊『高市早苗という病』、読んだよ。過去の事実関係パラパラ読んでるだけでも、なんかあまりにもイヤなエネルギーに満ちていて、ちょっと疲れちゃいました。政治家であることの以前の問題だね。オレはもうこの人については、いいかなって感じになりました。



適菜:たしかに疲れますね。国民が直視しなければならない問題ですが。



近田:面倒になりそうな話題だよ。ただ、高市の「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけだ」という発言は、これは取りようによっては「オマエ責任取れよ」って言ってるわけだよね。



適菜:なるほど。そういう見方もあるのですね。



近田:あとは、この時腕時計見てたじゃないさ。



適菜:エア腕時計。それで追及する記者から逃げようとしたのではないかと話題になりましたね。



近田:そのふたつはなかなかやるじゃないかって思ったの覚えてます。





適菜:そういえば、近田さん、久々に近田春夫&ハルヲフォンで新曲を出されるんですよね。



近田:うん。『Oi Oi AI-未体験ゾーンへ』という曲。スペシャルゲストにイリア(ジューシィ・フルーツ)が参加。1978年『電撃的東京』以来です。



適菜:48年ぶりか。



近田:AIが急速に進化する今、「難しいもの」「怖いもの」と身構えるのではなく、「まずは遊んでみよう」というメッセージを出したかったんだよね。



適菜:聴きましたよ。すごくストレートなロックですね。とてもいいです。



近田:こうしたサウンドに、このような歌詞を当てることに新しさがあるかなと。



適菜:サウンドも原点回帰のロックのような雰囲気もありました。最初に思い出したのは、初期のストーンズです。



近田:なるほど!それは嬉しい! 今って明るい、前向きな話題ってなかなかないじゃないさ。何かそういう方向性のものを出したいね。適菜さんの『高市早苗という病』も、ついつい下世話な興味で読んじゃうんだけど。彼女のことを考えたり語ったりするのは辛いところがあるよね。



適菜:そうですね。

見るに堪えないというところはありますね。国の将来は暗いです。



近田:でも何にしても適菜さんはなぜ明るいのか。そこは面白いテーマだよ。



適菜:最初から諦めているので、あらためて絶望しないんです。昔、「適菜はこのままでは国が滅びるというが、一体いつ滅びるんだ」という奴がいました。要するに、近代国家として日本がすでに滅びていることに気づいていないわけですね。ところで、近田さんは山田五郎さんとは、一緒の番組でしたよね。



近田:ほんの数回、タモリ倶楽部でご一緒しただけですけど。



適菜:あの番組では出演回はあまりかぶらなかったのですね。私は断片的にしか知らない人でしたが、彼がユーチューブで始めた美術関係の番組は面白かったです。私も結構彼と同じ考えでした。

特別展に行列するより、国立西洋美術館の常設展を見ろといったような話とか。



近田:うん。上野の美術館の話はまったく同意見。何かの展覧会に行くたびにそう思ってたよ!



適菜:近田さんは西洋美術館だとどの絵が好きですか。私のベスト3は、モネの「黄色いアイリス」、ルノワールの「木かげ」、ゴッホの「ばら」です。



近田:そっちなのね。オレは常設展は満遍なく観てる感じだったんだけど特別展だったら、迷うことなくカンディンスキー。絵描きでこの人だけが好きなのかも……文章もいいし! 常設はなんといっても超有名な作品をナマで見ることそのものが興奮するのよ。それはどれだけ解像度の高い写真で見てもわからない生々しさだね。



適菜:本当にそうですね。絵は実物を見ないとわからない。昔、ルノワールの「木かげ」のポスターがほしくて、いろいろ探したのですが、どれもしっくりこない。

結局、実物を見た方が早いという結論に達しました。ゴッホの「ばら」も、実物を見ていると絵の中に入ってしまいます。これは物理的な感覚です。ちなみに、エル・グレコは嫌いです。色使いが気持ち悪い。



近田:オレはエル・グレコは普通に好き.ルノワールはオレには退屈。



適菜:ルノワールの人物画には興味はないけど、風景画はすごいものがあります。



近田:ルノワールの“色味"がオレ的には無難なのかも。あと、昔から銀行のカレンダーにルノワールはよく使われてたでしょ? そこが先入観ていうか、なんか無難なものとして自分のなかで収まってるのかも。



適菜:わかります。銀行のカレンダーにカンディンスキーだったら変ですからね。



近田:で、美術館で初めてナマを観ると、どの画家の作品にも激しさはあって、これは複製では絶対に見えて来ないって思った。



適菜:だから、人間は美術館に行くのでしょうね。音楽もライブに行きますし。



近田:うん。ライブだよね。





 



■映画『マイケル』の芝居に魅了されよ

 



適菜:最近私はハイエナになったんですよ。ハイエナってご存じですか?



近田:ハイエナ?



適菜:デパートやスーパーマーケットが閉まる直前に行って、安くなっている刺身とかを狙う人たちです。



近田:あ。そっちね。悟りじゃん! わかるわかる.ハイエナっていうんだぁ! オレも夕方6時頃狙って行くことあるもん。



適菜:一昔前に、「安くなっている商品を買うな」みたいな自己啓発本を見かけたことがあります。アホかと。わずか数秒の差で半額になったりするのですから、それを狙うのは当然です。それに結構知的なゲームでもあります。



近田:品物を見る目と反射神経、両方いるからね.うまく行くと気分いいよ!



適菜:たとえば、夕食代1万円分の食料品を半額で買うと、年間180万円が浮きます。生涯で計算すると大きいですよ。都内にマンションが買える。



近田:そういう意味では何でもコンビニでは買わないってのもあるよね。



適菜:コンビニは高いですね。ハイエナは武田信玄の風林火山にも近いです。元は孫子ですが。その疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如しと。獲物に目をつけておいて、いざとなったら躊躇せずに接近する。私は最初はひるんでいたのですが、コツをつかみました。昨日はカットされた梨に半額シールが貼られた瞬間にババア二人が手を伸ばし、牽制しあったところを、漁夫の利で私が2ケース、つかみとりました。



近田:その光景を想像すると嬉しくなるね!



適菜:狩りと同じです。それで収穫物を消費する。そうすると、別に絶望しなくてもよくなります。釣りにも似てますね。マイケル・オークショットという人が、釣り師は、釣れなくてもそこに楽しみを見出すことができるということを言っています。



近田:釣りとか狩りってタダで食べ物が手に入る、買わないってことに喜びがあるよね。だから、そこらへんに生えてる桜のサクランボとか桑の実とか、とって食べるのって美味しくなくても嬉しい.それも同じ心理かも。



適菜:そうですね。家庭菜園とかも始めたいです。ベランダにパクチーを植えたり。



近田:適菜さんは最近は何をやっているの?



適菜:ユーチューバーになりました。それと、読者からの要望で、「適菜収ファンクラブ」というのができたんですよ。



近田:おお! ファンクラブ! それは素晴らしい‼️



適菜:このファンクラブ、メリットはゼロなんですよ。募集ページにも、「会員特典は一切ございません」「会員向けページもありません」「個別の対応もしません。月額931円」とあるだけで。ツイッターやフェイスブックで、「適菜収ファンクラブ会員」と名乗れるだけです。



近田:会員はどのような層の方たちなんでしょね? どんな人たちか知りたいっす。



適菜:もの好きな人たちなのでしょうね。酔狂。そういうことを言ってはダメですね。ファンに対して。近田さんの近況は?



近田:映画『マイケル』は結構楽しめました!  マイケルの実の甥にあたるジャファー・ジャクソンが主演の。今回のはドキュメントじゃなくて芝居なので、そこが面白いの。



適菜:マイケルはいつの時代のものがお好きですか?



近田:僕は基本、ジャクソン5以来、音楽的に琴線に触れるものがなくて。モータウン系の音よりスタックス、アトランティック系の方が子供の頃から好きだったのよ。社会現象としてはソロになってからの方が興味あるけど。



適菜:私もまったく同じです。



近田:おお! 嬉しい。



適菜:にわか系のブラックミュージックファンは、モータウンのマイケルを過大評価している気がします。でも、その後のほうが圧倒的にすごいですよね。ギャンブル&ハフ、クインシー・ジョーンズ時代もそうですが。



近田:そうだよね。適菜さんモータウンじゃないよね。モータウンだとオレは、ベーシストのジェームス・ジェマーソンはものすごく好き。ことにスティービー・ワンダーの「for once in my life」のプレイ!



適菜:ジェマーソンのベースラインで私が最初に浮かぶのは「What's Going On」でしょうか。Amazonプライムビデオにファンク・ブラザーズのドキュメンタリーがあって、あれも面白かったです。



近田:なるほど。あと、「I was made to love her」これもスティービーだけど。



適菜:私もモータウン時代のスティービーはよく聞きました。もちろん圧倒的にすごいのは、その後ですが。



近田:そこはオレとは逆だね。スティービーは自分で詞曲から演奏から全部やるようになってからつまんなくなった気はする。



適菜:一枚あげるとしたら、私は『Innervisions』です。そのあとの『First Finale』、『Key of Life』あたりが音作りとしても絶頂だったような気がします。単純に曲としてすごいものが多い。



近田:なるほど。それはわからないわけではないけど、ちょっとアーティスト的になりすぎで.少し面倒くさい。そのあたりの素晴らしさは全然否定しないけど!



適菜:モータウン時代だと、『For Once in My Life』のアルバムはよく聴きました。ジェマーソン、指1本でベースを弾いているんですよね。



近田:そうなのよ。2本かと思ってたから驚いた! その後、70年代になるとコモドアーズやクール&ザ・ギャングそれからMFSBなんかのディスコが僕の中では主流になっちゃって.そこからサルソウル。



適菜:サルソウルだと、どんなのがあるのでしょうか。



近田:Loleatta Hollowayの作品が全部いいよ。Dan Hartmanが書いている曲もあるし。



適菜:ありがとうございます。こういうものを聴いて、生きていくしかないですね。



 



 



文:近田春夫×適菜収

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