我々の日常の中に当たり前のようにある草や木、花といったさまざまな植物たち。しかし、そんな当たり前の存在には多くの謎が隠されており、その謎を解き明かしていくのが「植物学」というものだ。

今回紹介する『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP研究所)では、一見難しそうな「植物学」を易しく解説してくれている。

 本書を著したのは、静岡大学農学部教授の稲垣栄洋氏。雑草学を専門とする植物学者である著者は、これまでにも植物についてはもちろん、植物と密接な関係にある生き物関連の執筆や講演をおこなってきた。無味乾燥で面白みに欠ける学術的な話を面白く、分かりやすく伝えるのはお手の物だ。

 著者は一般読者の興味を引くため、植物にまつわる不思議・雑学を身近なエピソードに関連づけて紹介している。たとえば「花占い」からわかる、花びらの秘密について。

 花占いは、花びらを「好き、嫌い、好き」と交互に唱えながら1枚ずつちぎり、最後の1枚で片思いの相手が自分をどう思っているのか占うというもの。いささかロマンには欠けるが、植物学に触れると花占いの必勝法がわかる。

「じつは花の種類によって、花びらの枚数は初めから決まっているのです」(本書より)

 花占いでコスモスは使うべきではないといわれるが、これはコスモスの花びらが偶数の8枚であるため。花占いは「スキ」から始めるのが一般的だが、その場合、花びらの数が偶数だと何度やっても「キライ」で終わってしまう。もしコスモスで花占いをするなら、「キライ」から始めるといいそうだ。

 ちなみに花占いの定番であるマーガレットの花びらは、本書によると21枚と奇数になっていて、基本的に「スキ」で終わる。

花占いで人気になるのも当然だろう。

「ただし、花びらの多い花の場合は、栄養条件等によって、花びらの枚数が変わることがあります。マーガレットやガーベラで花占いが『キライ』になってしまったとしたら、よほど脈がないということなのかも知れません」(本書より)

 続いては、植物の進化がとある種の衰退に関わっていたというスケールの大きな話を紹介しよう。先に押さえておきたいのが、種子を作る種子植物にはマツなどに代表される「裸子植物」と、きれいな花を咲かせる「被子植物」とがあるということ。2つの違いは、「胚珠が剥き出しになっているか、子房に包まれて剥き出しになっていないか」だ。

 裸子植物に比べて、種子のもとである胚珠が子房に守られている被子植物は、安全かつ素早い受精が可能。受精が早く進むということは、それだけ早く世代を更新できる。つまり、進化のスピードが速まるのだ。

 この進化スピードについていけずに衰退したのが恐竜だ。とくに注目すべきは、草食恐竜の代表格であるトリケラトプスだろう。トリケラトプスは被子植物の進化に合わせて適応したが、それでも最後には被子植物の進化スピードに振り落とされた。

「被子植物は世代更新をしながら、さまざまな進化を遂げていきました。

そして、食害を防ぐためにアルカロイドという毒成分を身につけたのです。トリケラトプスなどの恐竜はそれらの物質を消化できずに中毒死を起こしたのではないかと推察されています」(本書より)

 実際に、白亜紀末期の恐竜の化石を見ると、中毒を思わせる深刻な生理障害の痕跡が見られるという。恐竜絶滅の直接的な原因は小惑星の衝突だといわれているが、それ以前から恐竜はゆっくりと衰退の道を歩んでいたようだ。

 植物が持つ毒によって衰退したとされる恐竜がいる一方で、植物が持つ毒を嗜好品として取り入れたのが人間である。日常の中で「コーヒー」「紅茶」「ココア」という世界三大飲料を好んで飲む人は多い。紅茶を筆頭とするお茶類はすべて「チャノキ」という植物の葉を原料としており、コーヒーはアカネ科のコーヒーノキの種子、ココアはアオギリ科のカカオの種子が原料だ。

 世界三大飲料の共通点は、原料となる植物にカフェインが含まれていること。もともとカフェインは植物が昆虫や動物から食べられないように作り出す毒性物質だが、この毒性が日々仕事に追われる現代人にはプラスに作用する。

「カフェインは、人間の神経の鎮静作用を妨げるという毒性があります。そのため、人間の神経は覚醒や興奮を起こして体が活性化されるのです。
さらに、毒性物質であるカフェインを感じた人間の体は、毒に対抗するために生きるためのさまざまな機能を活性化させます。こうして、カフェインを摂ることで、人間は心身ともに元気になるのです」(本書より)

 本書では他にも、紅葉の仕組みやバナナに種がない理由など、植物に関する興味深いトピックスが多数取り上げられている。

読めば、とくに意識もしていなかった周囲の植物たちが興味深い存在に思えてくるはずだ。本書を手に取り、植物の神秘に触れてみてはいかがだろうか。

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