経済的にも思想的にも文化・学術・教育の環境においても、日本の没落は止まらない。倉田タカシの新作長篇『タフな狩り』は、その延長線上にある近未来ディストピアを舞台とした、アクションSFだ。

 物語が幕を開けるのは、2061年の茨城県。主人公の谷は〈工場〉に暮らす二十代半ばの男だ。〈工場〉とは、海外資本が経営する作業施設で、ひとつの県につき三から十ほどあるが、相互の交流はほぼなく、それぞれで言語すら違う閉鎖的な環境だ。排外主義が染みついており、たとえば谷はこの土地で生まれたのではなく、子どものころに家族とともに移住してきたので、何年ここで生活していてもずっと余所者扱いだ。

 さかのぼれば三十年ほど前、国が旗を振って、温暖化を食いとめるとの大義名分で培養食品が普及。その利権は海外へ売り飛ばされ、日本の農業や畜産は壊滅した。食糧自給率は極端に低下し、通貨価値も下落してしまう。ひとびとは大都市を離れ、縁のある地方の〈工場〉へ移住するよう奨励(という名目の強制)された。それに追い打ちをかけたのが、大地震の発生と、それに起因する原発事故だった。谷の家族も、そうやって茨城へ流れついたのである。いまや日本人の九割が〈工場〉の住民だという。

 希望もなく、搾取されるだけの労働の日々。

谷にとっての癒やしは、動物キャラクターが優しい言葉で語りかけてくれるアプリ「カピバラさん」だけだった。

 やがて、ある事件をきっかけに〈工場〉に居場所をなくした谷は、茨城を離れ、クラウドソーシング企業リソースフォースと案件ごとに契約を交わすフリーランスとなる。仕事は胡散臭いものが多く、報酬は高いが、失敗すれば膨大な違約金を請求されかねない。

 いま、谷は静岡県でレジャー施設〈ヨコイカントリーパーク〉から逃走した獣を追っている。獣は、全身に培養組織の筋肉と毛皮をまとった四足機械で、パークでは狩りの対象とされていたという。しかし、追跡をつづけるなか、獣はクライアントから説明されていたような生半可な存在ではなく、狡猾で剣呑な敵であることがわかってくる。

 谷とともに追跡チームを組むのは、やはりフリーランスの三人。いずれも訳ありでこんな仕事をしている。

 まず、五十二歳の小布施という男。チーム最年長だが軽薄なしゃべり方をする。九歳の娘の治療費を稼がなければならないという。

 二人目は、スミスと名乗っているが外見は日本人、三十六歳の女。

かつて〈ヨコイカントリーパーク〉でアシスト業務に携わっていたことがあり、ある程度は獣のことも知っている(しかし、いま追跡しているのは彼女が知っていた獣とは違う)。

 三人目は、田中と名乗る女である。これも仮名で、小布施が調べたところによれば、二十年ほど前は中崎という名前でミサダ総合研究所の主任研究員をしていたそうだ。ミサダ総研というのがのちのち重要な意味を持ってくるのだが、チームが顔合わせした時点では、「あの企業で地位を得ていた人物がどうして......」というくらいのニュアンスだ。小布施やスミスはミサダ総研に対して含むところ(おそらく日本の没落と関連して)があるらしいが、若い谷はピンとこない。

 谷たち四人の狩り(獣の追跡)は、静岡県の山中から川崎市武蔵小杉、さらには〈港湾〉地区へと場所を変えながらつづき、獣の正体だけではなく、その背後に潜む陰謀へと深く入りこんでいく。ロケーションが移動するたび、ディストピア日本の歪んだ様相がつぎつぎとあらわになる。荒廃した景観とジャンクなテクノロジーとがパッチワークになった世界観は、倉田タカシ流のサイバーパンク。あるいは、椎名誠『武装島田倉庫』を、いっそう陰鬱な色調へと振り切った感じだ。

(牧眞司)

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