現代中国エンターテインメント小説において、読者から絶大な支持を集めている馬伯庸(マー・ボーヨン)による、改変歴史ファンタジイ。舞台となるのは、牛筋皮をゼンマイのように巻いて動力とする飛行機などのテクノロジーが発展するいっぽうで、法力を使う道士も存在する、もうひとつの唐朝の長安だ。
主人公の哪吒(なた)は好奇心旺盛な十歳の少年で、李靖(りせい)大将軍の息子だ。彼はふとしたきっかけで、龍の一体と知りあい、甜筒(キャンディ)と名づける。地下鉄として利用されている龍は、甜筒だけではなく何頭もおり、それぞれに個性を持っている。哪吒と龍たちの交流が、なんとも微笑ましい。溌剌としたジュヴナイルSFの味わいだ。
龍たちはもともと高い空を速く飛翔する生き物だが、いまは地下で奴隷のように使役されている。その実状を知った哪吒は、彼らを解放してやりたいと考える。しかし、当の龍たちは閉ざされた地下で過ごす毎日のなか、自由を求めて人間に抗う覇気を失っているのだ。
もちろん、龍は最初からそうだったわけではない。人間に捉えられたときには抵抗し、恨みのあまりわが身から一片の鱗を引き抜くほどだった。
孽龍対策に関しては、合理的な軍事の専門家である李靖大将軍と、神秘的な技の伝承者である清風(せいふう)道士とのあいだで軋轢があった。哪吒と龍たちの物語と並行して、李靖を出しぬこうと画策する清風の暗躍が進んでいく。それらが入り組み、哪吒は何度となくピンチに追いこまれる。そのあいだに孽龍の襲撃があり、読者はページを閉じる暇がないほどだ。ぐいぐい読ませる。さすが馬伯庸だ。スチームパンクならぬ牛筋皮パンクの意匠や、『封神演義』の流れを汲む志怪小説的なスペクタクルも興を添える。
(牧眞司)