ワインを知らなくても、ワインを楽しむことはできます。でも、知ることでさらに何倍も何十倍も楽しめるようになる。
それがワインという飲み物です。本連載ではワインの基礎から、知っていればワイン通とも会話が弾む知識まで、端的かつ体系立てて解説します。

前回、ワインを選ぶときはまず「ぶどう品種」に注目するとよいとお伝えしました。ところが、フランスワインのラベルには、品種名が記載されていないものも少なくありません。代わりに大きく書かれているのが産地名です。では、そのワインが何の品種から造られているのか、どうやって見分ければいいのでしょうか。

今回は、その代表例として「ボルドー(Bordeaux)」と「ブルゴーニュ(Bourgogne)」の赤ワインを見ていきましょう。

赤ワインを学ぶなら、まずはボルドーとブルゴーニュ

同じ赤ワインといっても、ボルドーワインとブルゴーニュワインは見た目も味わいもまったく異なります。赤ワインを大きく「濃くて重い」ワインと「軽やかで上品」なワインに分類するとしたら、前者の代表格がボルドーワインで、後者の代表格がブルゴーニュワインになるでしょう。どちらも古くからその名を知られてきた、世界屈指の銘醸地です。

ボルドーとブルゴーニュのワインは、世界の赤ワインに大きな影響を与えてきました。もちろん、現在のワインの世界は多様化しており、どちらとも違うスタイルの赤ワインもたくさんあります。
とはいえ今もボルドーワインとブルゴーニュワインが赤ワインの代表的なスタイルであることは間違いありません。

つまり、この二つの産地を知ることで、赤ワインを選ぶときに「これはどっちタイプかな」という視点が持てるようになるのです。
ボルドーワインは“いかり肩”と「シャトー」
“いかり肩”のボトルが目印

ボルドーはフランス南西部に位置するワイン産地です。白ワインやスパークリングワイン、甘口のワインなども生産していますが、赤色を表すのに「ボルドー」という言葉が使われることからもわかるように、赤ワインが飛び抜けて有名です。

ボルドーワインの特徴は、まずボトルの見た目がいかり肩の形状になっていること。伝統的なボルドーの赤ワインは渋味が強く、濃厚なものが多いため、熟成させて味をまろやかにすると本領を発揮すると言われてきました。現在では若いうちからおいしく飲めるボルドーワインも増えましたが、熟成がボルドーワインの大きな魅力であることは今も変わりません。

赤ワインは熟成すると「澱(おり)」と呼ばれる沈殿物が発生します。飲んでも害はありませんが、口当たりが悪いため、なるべくグラスに入らないよう注ぐことになります。ボトルがいかり肩になっていると、ボトルを傾けたときに澱を肩口のところで留めやすく、だからボルドーワインはいかり肩ボトルになったとも言われます。

こうした由来には諸説ありますが、いかり肩はボルドータイプのワインによく使われる形です。ただし、ほかの産地でも広く使われているため、形だけで産地を断定することはできません。
味わいを想像する一つの手がかりとして、ワインショップなどでぜひチェックしてみてください。

複数の品種をブレンドする「シャトー」

続いてボルドーワインの香りや味わいの特徴です。ボルドーでは伝統的に複数の品種をブレンドしてワインを造ります。代表的な品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランなど。これらをどうブレンドして、おいしく仕上げるかがボルドーワインの生産者の腕の見せ所です。

できたばかりのボルドーワインは多くの場合、パワフルで渋味が強く、濃厚な味わいです。年月がたつと、この渋味が穏やかになり、香りの複雑さが増して、とろけるような甘美な香りと味わいになっていきます。若い頃の濃厚さと、熟成による複雑さ。どちらもボルドーワインの大きな魅力です。

ボルドーワインのもう一つの特徴は、生産者の名前に「シャトー」という言葉がついていることです。たとえば、シャトー・マルゴーやシャトー・オーゾンヌのように、多くの生産者が「シャトー・◯◯」を名乗っています。

シャトーとはフランス語で「城館」のこと。
ワインの世界では、ぶどう畑や醸造施設を備えたワイナリーを指す言葉として使われます。ボルドーのワイナリーのなかには、実際に豪華な館を構えているところもあります。

ボルドーは昔からワインの輸出などのビジネスを通して経済が潤っており、貴族や商人などの有力者がワイン造りに関わってきました。こうした歴史を背景に、ボルドーでは「シャトー」を名乗るワイナリーが数多くあります。

ボトルの形だけでは判断できませんが、「Château(シャトー)」の表記といかり肩がそろっていれば、まずボルドーワインを思い浮かべてよいでしょう。
ブルゴーニュワインは“なで肩”が目印
ボトルはなだらかな「ブルゴーニュ型」

もう一つの赤ワインの銘醸地が、ブルゴーニュです。フランスの東部に位置する産地で、白ワインも非常に有名です。ブルゴーニュの白ワインについては、またいずれ取り上げることにしましょう。

ブルゴーニュの赤ワインに使われるボトルは、肩がなだらかな“なで肩”の形状をしています。「ブルゴーニュ型」と呼ばれ、ピノ・ノワールのワインによく使われる形です。先ほどのボルドーとは逆に、澱を肩口で留める必要があまりなかったためとも言われますが、由来には諸説あります。

ブルゴーニュ型もボルドー型と同じくほかの産地でも使われているので、なで肩ならすべてブルゴーニュというわけではありません。
ワインのスタイルを想像する一つの手がかりにしてください。

品種は主にピノ・ノワール

複数の品種をブレンドするボルドーワインと違い、ブルゴーニュの赤ワインは基本的に一つの品種だけで造られます(例外もありますが)。

その品種は、なんといってもピノ・ノワールでしょう。数あるワイン用ぶどう品種のなかでも特に人気が高く、栽培が難しいにもかかわらず、世界中でピノ・ノワールのワインが造られています。世界で最も高級なワインの一つとして有名なロマネ・コンティもピノ・ノワールから造られるブルゴーニュのワインです。

ピノ・ノワールの最大の魅力は、その香り。イチゴやラズベリーといった赤い実の果物や、バラのような芳しい花の香りが複雑に混ざり合い、うっとりしてしまうほどの芳香を放ちます。さらに、熟成すると香りは複雑さを増し、なんともいえない妖艶な雰囲気を身にまとうようになります。

ブルゴーニュは小規模生産者が多く、生産量もボルドーに比べると多くありません。そのため、希少価値が高くなりやすく、人気のワインにはとんでもない価格がつくこともあります。余談ですが、高級ワインの価格ランキング上位には、ブルゴーニュワインがずらりと並びます。

ブルゴーニュのワイン造りの発展には、修道院が大きな役割を果たしました。
修道士にとって、ワインを造ることは日々の大切な仕事の一つでした。修道士たちは畑を開墾し、ぶどうを栽培してワインを造り続け、そして気づきます。

「畑によって、ぶどうの出来に差がある」と。

この気づきは、のちに畑ごとに格付けする考え方にもつながっていきました。現在では、最も良い畑を「特級畑(グラン・クリュ)」、次に良い畑を「一級畑(プルミエ・クリュ)」と呼びます。こうした良い畑から造られるワインは非常に高額ですが、多くの場合、それに見合った感動を与えてくれます。
産地名がわかれば、ぶどう品種の見当がつく

今回は、ボルドーとブルゴーニュの基本をご紹介しました。その赤ワインがボルドーなら、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローのブレンド。ブルゴーニュなら、ピノ・ノワール。品種名が書かれていなくても、産地さえわかれば中身の見当はつきます。

もちろん、好きな産地のワインを飲むのが一番ですが、「多すぎて何を飲めばいいかわからない」という場合は、まずは有名なこれらの産地から始めてみるといいでしょう。特に、ワインを体系立てて知っていきたい、大枠をつかみたいという人におすすめです。


そして、ボルドーとブルゴーニュの違いがわかったら、次はいよいよ世界のワイン産地を巡っていきましょう!  次回はワインの世界を大きく二分する「新世界」と「旧世界」について解説します。

山田井ユウキ/ワインエキスパート ワインも含め興味のおもむくまま多ジャンルで執筆するフリーライター。ワインの物語を伝える“ワインストーリーテラー”として活動中。著書に『ワインの半分は物語でできている。』など。[有資格]ワインエキスパート/WSET Level3/ドイツワインケナー/第8回J.S.A.ブラインドテイスティングコンテスト・ファイナリスト この著者の記事一覧はこちら
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