「人に好かれてから、噺を聞いてもらう」
国民的大喜利番組に出演している桂宮治さんが高座で実践するのは、笑いの技術だけではない。

客席の表情や空気を読み、セリフや間、噺の長さまで瞬時に変えていく。


その原点は、人見知りで人に嫌われないよう、相手の気持ちを考え続けてきた人との向き合い方にある。

職場などで人間関係に疲れがちな社会人にこそ響く、桂宮治さん流の「相手を見る力」とは――。
※本記事は、『噺家 人嫌い』(扶桑社)より一部抜粋・再構成してお届けします。

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お客さまの心をいかにつかむか

ともかく、僕が昔やっていたワゴンDJの仕事と同じで、信じてもらってから売るのがポイント。

自分のことを楽しい人だと、もっと言えば好きになってもらってから噺を聞いてもらうようにしています。

少し前までは、「これくらいの会場でこれくらいの人数ならもっと笑いが起きてもいいのに」「クスクスはあるけど、笑いがドーンとこないのはなんでだろう?」と試行錯誤の連続でした。

それで焦って冷や汗が出てきて、顔がこわばったりしたものです。お客さまはそれを敏感に感じ取って、引いてしまう。

演者の雰囲気とか状況を無意識に察知するんですね。

人見知りだからこそわかる、心の扉を開く「押して、引いて、また触る」

そうならないように、一つずつお客さまの反応をしっかりと確認しながら、どうやったらみなさんがこっちに入ってきてくれるかなと、あちこち叩いてみたり、押してみたり、引いてみたりする。

これは、ワゴンDJ時代に培った引き出しでもあります。

この人は帰りたいのか、化粧品なんて買いたくないのか、僕のことを信用してないのか。それらを察知するアンテナを張りながら進めるわけです。

もちろん反応がまったくないときもあります。


さわってもさわっても、変わってくれない。でも、そんなときは別の引き出しを使ってさわる。

それを繰り返していけば、必ず「なんか触れたな」という感覚がきます。「いけたかな。大丈夫、大丈夫ね」みたいな感じです。

人に好かれようと頑張る前に。落語家・桂宮治が「嫌われたくない」から学んだ相手を見る力
『噺家 人嫌い』(扶桑社)


「あ、なんか違うな」と気づいたら修正。客席とつくる“一度きりの高座”

人に好かれようと頑張る前に。落語家・桂宮治が「嫌われたくない」から学んだ相手を見る力
本編に入って、登場人物になりきってセリフをしゃべり始め、お客さまがあまりついてきてないと感じたら、もっとわかりやすく言ったほうがいいのかな、早口すぎるかな、もっと間を取って遊びを入れたほうがいいのかな、と探っていきます。

登場人物同士の掛け合いとお客さまとの三角関係の中にある空気を感じながら高座をつくっていくんです。

一方で、もう一人の自分がそれを俯瞰して見ています。

僕は八っつあんの中に入っている。熊さんの中にも入っている。お客さまがいて、物語を進める僕がいて、その間で演じる登場人物がいて、それをフワッと冷静に全体的に見ている、もう一人の僕がいる。


同時進行でいろんなところを見ていて、「あ、なんか違うな」と気づいたら修正する。

だから、一つひとつの高座に違いがある。

お客さまも違えば、その日の自分の体調も違う。すると、八っつあん、熊さんのセリフも動きも変わってくる。

八っつあんは何を考えてこのセリフを吐いているのか、そのセリフを聞いた熊さんは何を感じたのか、それを横で眺めているご隠居にはどのように聞こえて、次にどんなセリフを吐くのか? 

そのセリフを聞いたお客さまの表情を見ながら、次はこんな展開になったら驚くだろうな……。そんなことを考えながら話しています。

桂宮治を支える「人の気持ちを考え続けた」経験

よく「登場人物が独り歩きする」という噺家もいますが、僕の中では自分がある程度は登場人物を支配しているイメージです。

その場その場でお客さまの反応を見てセリフや動きを加えたり、減らしたり。ここは今日のお客さまには長すぎるから途中をショートカットしようとか、もっと膨らませたら面白くなるだろうなとか調整してみます。

口慣れている噺などは、十分から三十分以上と調整しながらできます。

こんなふうにできるのも、子どものころから人見知りで、人に嫌われないように、いま目の前にいる人たちがそれぞれ何を考え、どう感じているかを突き詰め続けてきたからかもしれませんね。

写真/武藤奈緒美

【桂宮治】
1976年、東京都生まれ。
落語家。
自身の結婚式当日に勤務していた会社を辞めると宣言し、桂伸治に弟子入り。2008年に楽屋入り。2012年、二ツ目に昇進し、「NHK 新人演芸大賞」を受賞。2021年2月、真打ちに昇進。落語芸術協会では、会長の春風亭昇太以来、29年ぶりの5人抜きでの真打ちとなった。都内や全国での落語会にも精力的に出演している。また、2022年1月からは『笑点』のメンバーに。『情熱大陸』などメディアへの出演も多数。『笑点』(日本テレビ)、『笑点特大号』(BS 日テレ)、『桂宮治 これが宮治でございます』(TBS ラジオ)にレギュラー出演中。産経新聞「人生相談 あすへのヒント」回答者として活躍中。著書に『噺家 人嫌い』(扶桑社)。

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