日本民営鉄道協会が発表した2025年度「駅と電車内の迷惑行為ランキング」(回答総数5,202名)によると、2位には「座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等)」が31.9%で入っています。座席まわりのふるまいは、多くの利用者にとって不満の種になっているようです。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、新幹線車内で実際に起きた乗客トラブルのエピソード。座席をめぐるいざこざ、そして就活生を襲った“まさかの災難”です。
記事の後半では、電車内のマナーについて、利用者の4割超が抱えるある“本音”を、調査データからひもときます。
* * *
①「いいからどけよ。俺、疲れてんだよ」
男性は50代後半ほどで、ネクタイは少し緩み、顔には疲労感と苛立ちがにじんでいる。彼は高橋さんに向かってこう言った。
「そこ、俺の席なんだけど」
突然の発言に驚きつつも、高橋さんは「こちらは自由席ですよ」と穏やかに返答した。
しかし男性は引き下がらず、不機嫌そうにポケットから切符を取り出して見せてきた。確かにチケットには座席番号が記載されていたが、それは指定席であり、しかも隣の号車の番号だった。
「失礼ですが、お手元のチケット、指定席のようですし、ここは自由席ですよ」と高橋さんが説明しても、男性は全く譲らない様子。
「は? いいからどけよ。俺、疲れてんだよ」
語気を強め、高橋さんを睨みつけるような目つきで詰め寄ってくる男性。周囲の乗客たちも異変に気づき、車内はざわついた。
だが、高橋さんは立ち上がることなく、「車掌さんを呼んできてもいいですよ」と冷静に返した。すると近くに座っていた20代くらいの女性が席を立ち、「呼んできますね」と小声で言って通路を歩いていった。
車掌が到着、真実が明らかに
しばらくして車掌が到着し、男性のチケットを確認した。車掌は静かに、しかしはっきりとこう告げた。「お客様、こちらは自由席車両でして、指定いただいたお席はひとつ前の車両でございます」
一瞬で顔が赤くなった男性は、「……ああ、そう」とだけ呟き、周囲の視線を浴びながら無言でその場を離れた。
男性が去った後、乗客の一人が小声で「なんだったんだアイツ……」とつぶやいた。
②就活用のスーツが台無し
もうすぐ目的地に到着するかと思っていたその時、後ろから口を押さえて走ってくる中年男性が現れた。そして、ちょうど林田さんの座っている席付近で、「げふっ!」という嫌な声が漏れた。
男性は嘔吐を我慢しようと手で口を押さえていたため、吐き出す勢いで両サイドに飛び散ってしまった。被害者は林田さんを含めてたくさんいた。
林田さんはスーツの左肩付近にかかってしまった。最悪だ。数日後には別の面接を控えている。「このスーツどうしてくれるんだ」と怒りが込み上げてきた。
男性は流し場で手や口を洗っていた。怒りが頂点に達した林田さんには、その姿が「人の迷惑も考えずにのんきに洗っている」ようにしか見えなかった。
林田さんはすぐに男性につかみかかり、怒鳴りつけたという。
男性は「すみません」と言うものの、それ以上のアクションを取ろうとはしなかった。
クリーニング代を支払うとか、すぐに戻って被害者全員に謝罪するといった申し出もなく、ただ「すみません」と繰り返すばかり。
「こんなボケた男とは話にならない」と思った林田さんは、車掌のところへ向かった。
相手が逆ギレして警察沙汰に
車掌の対応で被害者全員と嘔吐した男性は事務所に通された。すると突然、男性は態度を一変させた。「警察を呼んでください」
「悪いのはおまえだろ!こっちの状況がわからねーのか!」
だが結局、男性の意向は変わらず、警察が呼ばれることになった。
警察が男性から事情聴取を始めると、断片的に会話が漏れてきた。男性は「年下に怒鳴られたのが気に入らない。年下にそこまで言われる筋合いはない」などと話していた。
林田さんは「なんてやつだ」と思いつつも、自分が罪に問われるのではないかという不安も出てきた。
話し合いの末、最終的には男性が謝罪し、被害者それぞれにクリーニング代を支払うことで解決した。しかし、この一件で林田さんの帰宅は深夜になってしまった。翌日には汚れたスーツをクリーニングに出し、何とか次の面接には間に合わせることができたが、林田さんにとっては忘れられない苦い経験となった。
<文/藤山ムツキ>
* * *
■マナーは「変わらない」が最多という現実
同じ日本民営鉄道協会のアンケートで、「駅や電車内でのマナーは以前にくらべて改善されたと思うか」を尋ねたところ、最も多かったのは「変わらない」で39.2%。「やや悪化した」17.2%、「悪化した」25.3%を合わせると、4割超の人が“むしろ悪化している”と感じています。マナーの感じ方は人それぞれ。
疲れているとき、急いでいるとき、気持ちに余裕がないとき――誰にでも“ちょっとした一言”が出そうになる瞬間はあります。それでも、ひと呼吸置けるかどうかで、その後の数時間が大きく変わる。今回のエピソードは、そんな当たり前のことを、あらためて思い出させてくれます。
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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