米ワシントンDC連邦地裁は11日付の決定で、米金融大手JPモルガン・チェース銀行に凍結されていた約1713万ドル(約27億円)の北朝鮮関連資産を、北朝鮮に拘束され死亡した米大学生オットー・ワームビア氏の両親に支払うよう命じた。単なる損害賠償の執行ではない。
米国が長年にわたり展開してきた「対北金融戦争」が、被害者救済という形で実を結んだ象徴的な事例となった。 ワームビア氏は2016年、観光で訪れた北朝鮮で拘束され、翌2017年に昏睡状態で帰国後死亡した。2018年、連邦地裁は北朝鮮による「人質拘束」「拷問」「超法規的殺害」を認定し、遺族に約5億ドルの損害賠償を命じた。しかし北朝鮮は裁判に応じず、当然ながら賠償金も支払わなかった。 ここで威力を発揮したのが、米国の金融制裁制度だった。 問題となった約1713万ドルは、JPモルガンに保管されていた北朝鮮関連資産である。その由来は、パキスタンの核科学者アブドル・カディール・カーン博士のネットワークに結び付く資金だった。A.Q.カーン・ネットワークは2000年代初頭まで、北朝鮮やイラン、リビアなどへ遠心分離機技術や核関連部品を供給した世界最大級の核拡散組織として知られる。米当局は、このネットワークに関連する資金を大量破壊兵器拡散制裁の対象として凍結してきた。 今回の裁判でハウエル判事は、このネットワークが北朝鮮の「代理人または手先」として機能していたと認定。資金の実質的な所有者は北朝鮮であると判断し、被害者遺族への引き渡しを命じた。これは北朝鮮名義の預金を差し押さえたのではなく、核拡散ネットワークが管理していた資産まで北朝鮮の財産とみなした点に特徴がある。
実は、この資産の存在は数年前から把握されていた。2020年には裁判所命令により、JPモルガンやバンク・オブ・ニューヨーク・メロン、ウェルズ・ファーゴに凍結された約2300万ドルの北朝鮮関連資産に関する情報が遺族へ開示された。当時からJPモルガンが約1750万ドルを保有していることが判明しており、今回の決定は、その資産を実際に差し押さえる最終段階となった。 さらにワームビア家は、2019年に米国が国連制裁違反で押収した北朝鮮貨物船「ワイズ・オネスト」の売却代金や、ニューヨーク州当局が押収した北朝鮮関連資産などについても権利を主張し、一部の配当を受けてきた。遺族は世界各地の北朝鮮資産を追跡しており、東欧の北朝鮮関連事業に対する法的措置も検討してきたという。
編集部おすすめ