●「なんだこいつは!」と本当に思っていました(笑)
7月10日からTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国ロードショーとなる、特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』。池波正太郎原作、松本幸四郎主演の『鬼平犯科帳』シリーズ最新作となる第8弾『本所の銕』と第9弾『密告』を一本化した作品となっている。
その『本所の銕』で“本所の銕”こと長谷川銕三郎(後の長谷川平蔵)役として主演を務めるのが市川染五郎、そして2つの物語の鍵を握る、本所に巣くう悪御家人・横山小平次と盗賊・伏屋の紋蔵を一人二役で演じるのが駒木根葵汰だ。
劇中では、父子である松本幸四郎と染五郎が、時代を超えて“同じ人物”を演じ、一方の駒木根は物語上のもう一組の“父子”を一人で背負う。そんな不思議な縁の中で演じた2人にインタビュー。役作りの裏側から、撮影現場で見えた幸四郎の素顔、そして時代劇に対する思いまで、たっぷりと語ってもらった。
○銕三郎ににじむ“グラデーション”あえて父の真似を
――染五郎さんが演じる銕三郎は、後に“鬼の平蔵”と呼ばれる人物へと成長していく過程にあります。若き日の荒々しさや葛藤を、どのように表現しようと思われましたか?
染五郎:放蕩無頼な日々を過ごしている時代ではあるのですが、本当に情に厚くて、根っからの悪ではない人というイメージがありました。そこから “鬼の平蔵”と呼ばれる平蔵時代につながっていく過程を、きちんとグラデーションで見せることを今回は特に意識しました。
前回出演した『本所・桜屋敷』『血闘』では、銕三郎という人物をしっかり演じきることが目標でしたが、今回は時系列的にも平蔵に近づいていますし、自分自身も年齢を重ねてきたので、より平蔵につながる銕三郎として見ていただけるようにしたいと思いました。ですから今回は意識して、あえて父の真似をしようと思って演じていました。
――具体的にはどのようなところを?
染五郎:父が歩く時に着物の裾をスッと持つシーンがあったのですが、そうすると着物がまとわりつかず歩きやすくて、その仕草を真似しました。体型は父とは違いますが、歩いている時のフォルムを近づけたいと思い、そうした細かいところを意識していました。
――駒木根さんが演じる小平次は、銕三郎に執着する、非常に印象的な“敵役”です。
駒木根:よくも悪くも、記憶に残るキャラクターに仕上げられたと思います。普通に生きていて、ちょっと怪しい匂いがするというバランスはいろいろ考えました。どの時代にもこんな人間はいるんだなと、演じていて感じましたし、逆に、あそこまで非道に振り切れる人間というのも珍しいと思います。しいて挙げる小平次の魅力は、「素晴らしく非道な部分」です。
――お二人で演じる時、そういった対立はどれくらい意識されていたのですか。
駒木根:気持ちよく成敗されたいと思って演じて。嫌なことをやればやるだけ、染五郎さんの心の中にも「ちょっとこいつ嫌だな」と少しでも思ってほしい自分と、思ってほしくない自分がいて、その葛藤はありました。
――それを受けて、染五郎さんは?
染五郎:「なんだこいつは!」と本当に思っていました(笑)。現場ではお話しする時間もあまりなかったですし、駒木根さん自身がどういう方なのかも直接知る機会がなかったので、本当にあのままの方なのではないかと思っていました。
駒木根:僕も本当に嫌だなと思いながら演じていました(笑)
染五郎:実際は柔らかい方で、とても安心しました。
○殺陣は「打つ」感覚で 舞台と映像、見せ方のこだわり
――本作の見どころの一つでもある立ち回りのシーンについて、前作までは銕三郎は木の棒で行っていた殺陣が、今回は刀になったそうですね。
染五郎:そうですね、今回は殺陣もさらに激しく、シーンも多くなりました。
――映像での見せ方について、こだわった部分はありますか?
染五郎:舞台で演じていると、声の出し方や表情の付け方、動きも、映像よりオーバーにやらないと伝わらない部分があり、それを映像のお芝居に落とし込むのは毎回とても難しいところです。アップなのか引きなのか、どれくらいの距離で撮られているのか、監督がどんな意図でどう見せたいのか、その都度汲み取りながら、役者としてどのように見せるのが正しいか考えていました。
――立ち回りで、阿佐辰美さん演じる剣友の岸井左馬之助との連携について話し合われたことはありますか?
染五郎:最後の殺陣は左馬之助と一緒でしたが、自分たちより強い相手と戦っていることを常に意識していました。相手によって銕三郎の力の入り方も変わってくるので、同じ殺陣でもその時々の心情が武器になるように。左馬之助が加わることでパワーアップする安心感と、2人で作る緊張感を、お芝居をしながら作っていきました。
――駒木根さんは立ち回りの場面はどんな意識で?
駒木根:僕はただ見ているだけのお芝居だったので、みなさんが一生懸命立ち回りされているのを見ながら、「いい汗かいているなあ」と、少し羨ましくも思っていました(笑)
●「あ、未来の自分だ」という不思議な感覚
――幸四郎さんは『本所の銕』をご覧になって、染五郎さんの成長に「熱い涙がこぼれた」とコメントされていましたね。
染五郎:本当かな、という感じですが(笑)。同じ人物を演じるわけですから、必然的に共演はないのですが、だからこそ、文字通り一心同体となってやっているのだなという感覚はありました。共演はなくても、平蔵の姿をしている父と、銕三郎の扮装をしている自分とが、意図せず会う日があり、「あ、未来の自分だ」というような不思議な感じでした(笑)。
『本所の銕』の終わり方も、こうして『密告』へつながっていくんだとゾクゾクしましたし、銕三郎時代にフォーカスすることで、今までのシリーズでは見えてこなかった深いところまで見えてくる。新しい『鬼平』がまた生まれたなという感覚がありました。
――平蔵と銕三郎は父子で同一人物を演じていて、一方で小平次と紋蔵は同じ方が“父子”を演じるという、不思議な構造になっていますね。
駒木根:同じ人物を違う方が演じるのを目の前で体感させてもらえたのは、とても贅沢だったなと思います。父子だからこそ、ビシビシ伝わってくる強いオーラがあり、説得力も感じました。純粋に、楽しかったです。
―― 一方、駒木根さんが演じた役柄については、幸四郎さんから「血の滲むような生き様に引き込まれた」というコメントもありました。
駒木根:本当にうれしい言葉でした。この役も作品も、とてもやりがいを感じて自分なりに一生懸命演じたので、このようなコメントをいただけて感無量です。撮影前は、幸四郎さんは厳しくて怖い方なのかなと勝手に思っていたのですが、現場ではすごくおどけていらっしゃいました(笑)
染五郎:すみません(苦笑)
駒木根:いえいえ(笑)。逆に「あ、こんなにおどける感じでいらっしゃるんだ」と思って、緊張がほどけました。ただ、スタートがかかるとスイッチがガッと変わって、全然同じ方に感じませんでした。
染五郎:そうですかね。
駒木根:実は、『本所の銕』と『密告』の中に、似たようなシチュエーションがあるんです。紋蔵として、幸四郎さん演じる平蔵の寸止めで気絶するシーンと、小平次として、染五郎さん演じる銕三郎に小判を手で払われるシーンがあるのですが、幸四郎さんはずっと僕のおでこに刀を当てて遊んでいて(笑)。一方、染五郎さんはずっと「大丈夫かな…」と、真面目に段取りを確認されていて。お二人が全く違うのが、面白かったです。
○役者の家に生まれたからやっているという感覚は全くない
――『鬼平犯科帳』という作品は、お二人にとって役者としてどんな意味を持つ作品になっていますか?
染五郎:私の場合、曾祖父に当たる初代松本白鸚をイメージして池波正太郎先生が書いた作品が、『鬼平犯科帳』なんです。曾祖父、大叔父の(二代目中村)吉右衛門、そして父と受け継がれてきた作品ですから、本当に不思議なつながりを感じます。時代は今とは違いますし、価値観の違いもありますが、平蔵自身も“鬼の平蔵”と恐れられる人物でありながら、人間らしいところもとてもある。そうした普遍的な人間を描いている作品だというところが素敵だなと思いますし、今も愛されている理由なのだろうなと感じます。
駒木根:もともと歴史のある作品だというのは知っていたのですが、こうして家族のつながりを感じる作品ですし、僕自身、時代劇に出演する機会が少しずつ増えてきて、その時代を生きるということに興味が出てきている中で、2つの役を演じさせてもらえたのはなかなかない機会だったと思っています。このタイミングで自分が演じることができたのも何かの運命だったのかなと。
染五郎さんと幸四郎さんが同じ役を演じられているのを間近で体験させていただけたのも、今後経験したくてもできないことだったと思うので、すべて含めて非常に素晴らしい経験になりました。先日行われた『鬼平犯科帳祭』(ファンミーティング)の舞台挨拶でも、初めて僕を知ってくれた方も多くて、実際にその後、お手紙を頂いたりもしましたし、自分で演じていても今回の二役はすごく勉強になったので、これからも大切にしていきたいです。
――駒木根さん演じる紋蔵という役柄を通して、非道さの中に“母への愛”も強く感じたのですが、お二人自身が家族愛を感じた瞬間のエピソードはありますか?
駒木根:母親がイベントごとによく来てくれるのですが、息子としては少し照れもあり恥ずかしさもあります。でも、いざ来なくなったら、それはそれできっと寂しいんだろうなと。地元が茨城で時間をかけて来てくれているので、まだ少し恥ずかしいですが、“母の愛”として受け止めていこうと思っています。
――染五郎さんは?
染五郎:自分が役者をやっているのは、役者の家に生まれたからやっているという感覚は全くなく、芝居が好きだから続けているだけなんです。それを好きにさせてくれたのは祖父や父なので、一生をかけて突き詰めていこうと思えるくらい、芝居というものを好きにさせてくれたことには、感謝しかないですね。
○時代劇は“イチから作れるファンタジー”
――時代劇は、お二人と同世代の方にはあまりなじみがないかもしれませんが、出演されて感じた時代劇の魅力と、本作で楽しんでほしいポイントを教えてください。
染五郎:これは父が言っていたことなのですが、江戸時代をリアルタイムで知っている人というのは、今はもういないわけで…。史実に忠実に描くことも大事ですが、時代劇はその時代をイチから作ることができる、ファンタジーのようなものだと思います。人間ドラマを描きつつ、エンターテインメントとして殺陣の迫力だけを見るのも価値がある。それを、古臭さを感じさせることなく、新しい時代劇として体現しているのが『鬼平犯科帳』シリーズだと思います。
駒木根:僕が個人的に時代劇で好きなのは、当時の方の熱さや必死さの部分なんです。現代は何をやってもどうにか生きていけるけれど、江戸時代は明日をつかむのに必死だったと思うので、瀬戸際で自分は何を選択するのか、ということを今と比べながら演じるのが好きなんです。その時代を知ることで、今の自分の悩みが少し和らいだり、消化できたりすることもあるのかなとも思っています。『鬼平犯科帳』シリーズはどのエピソードにも人間ドラマがありながら、1話完結型で見やすいので、今の時代でムズムズしている人たちに、ぜひ壁を作らずに見てもらえたらうれしいですね。
ヘアメイク(市川染五郎):川又由紀
スタイリスト(市川染五郎):中西ナオ
ヘアメイク(駒木根葵汰):吉村健
スタイリスト(駒木根葵汰):杉山凌
衣装(駒木根葵汰)/ジャケット・インナー・パンツ・スニーカー:ZEGNA
渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら

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