バイオハザードの主人公に憧れ、バク転を真似たのがすべての始まりだった。教えてくれる人はおらず、動画を見て覚える完全な独学。
現在はスタジオ3店舗を運営しながら、パフォーマンスチーム「TOK¥O TRICKING MOB」を主宰。レッドブルクリエイターとしての活動や、Dリーグ選手への指導も手がける一方で、自ら5年前に立ち上げた大会「極限武術」を主催し、8月22日・23日には有明アリーナで開催を控えている。オリンピック競技化を見据えたスコア制度の導入など、競技としての新しい試みにも積極的だ。
武術とストリート、その狭間で独自のスタイルを築き上げてきた彼に、トリッキングとの出会いから今後の展望まで、じっくりと語ってもらった。
Daisuke Takahashi(以下:D)
「この主人公になりたい」——バイオハザードから始まったトリッキング人生
―まずは直近の活動についてお伺いします。第一線でのパフォーマンスや大会に加え、メディア出演など幅広く活動されていますが、手応えを感じている部分はありますか?
D:最近はレッドブルクリエイターとして色々な企画に参加していて、トリッキングだけにとどまらない方面に露出できているかなという感覚があります。ランニングやフィットネスといった領域にも参加させてもらいながら、トリッキングの選手としてのキャリアや経歴を残し、「こういう人がいるんだ」というのを見せられていると感じますね。
―トリッキングが浸透してきている、という実感が湧く瞬間はありますか?
D:結構ありますね。スタジオを3店舗運営しているのですが、プライベートレッスンの依頼が増えていたり、アーティストの方やDリーグの選手たちから「トリッキングを習いたい」という声がすごく多くなっています。エンターテインメントとしてアクロバットをやるならトリッキングが強い、という認識が本当に広がっていると感じます。
―トリッキングを始めたきっかけを教えてください。
D:始めたきっかけは10歳の頃、「バイオハザード」というゲームが大好きで。
―最初からトリッキングという競技だという認識はあったんですか?
D:最初はパルクールやアクロバットというイメージでした。その後YouTubeで「乱舞」という動画を見つけて、その内容がトリッキングだったんです。「これだ」と思ってやり始めました。
当時はパルクールの方がずっと有名でしたし、自分でもパルクールだと思っていたのですが、パルクールは障害物を登ったりする要素が必須で、「そこはちょっと違うな、蹴りとかやりたいんだよな」という気持ちがありました。
―蹴り技にもトリッキングのルーツがありますよね。
D:そうですね。トリッキングはもともと武術なので、蹴りや武術がベースになっているんです。パルクールは軍のトレーニングにルーツがあるという話もあるので、そのあたりでも二つの競技の違いが生まれているのだと思います。
独学で掴んだ世界の頂点。弟・Reijiと築いた唯一無二のスタイル
―そこからどのように競技にのめり込んでいったのでしょうか?
D:10歳、小学5年生の頃からですね。
練習環境と呼べるようなものはなくて、陸上トラックのそばにある土手の砂場や、五反田にあった児童館のマットを使って練習していました。教えてくれる人はいなかったので、動画を見て覚える完全な独学でした。当時のチーム名は「我流」といって、Tシャツを作って土手を自転車で走り回ったりしていていました(笑)。
―高校卒業後は、大学ではなくすぐにトリッキングの道に進まれたんですね。
D:高校を卒業する時点で「トリッキングで食べていく」と決めていたので、大学には行かず、すぐにバク転教室で働き始めました。当時はトリッキング教室というもの自体がそもそも存在しなかったんです。当時は大阪で大会が開催されるだけで、大阪と関東にそれぞれ同年代のトップ選手が1人ずついる、という状況でした。パルクールで生計を立てている人がいたので「トリッキングでもできるはず」という自信があり、練習と仕事を両立しながら地道に力をつけていきました。
―弟のReijiさんと共に、2016年に世界大会で優勝したというお話がありますが、その時の様子を聞かせてください。
D:アメリカで開催された世界大会でした。
―Reijiさんから受ける影響、あるいは競技上のスタイルの違いについて教えてください。
D:得意な技が似ている部分もあれば、まったく違う部分もあります。同じスタイルだと勝てないので、「自分はこの技をやる」というふうに差別化しながら練習してきました。弟は技をどんどん加算していって総合点が高くなるスタイルですが、僕は短く大きなつなぎを2つか3つ決めるスタイルで。手数で勝負するか、1つの大技で勝負するか、という違いがありますね。ソロで動く時にはそのスタイルの違いが強みになっていると思います。
―オリジナルのトリックもお持ちだとか。
D:「Daisukeサイドフリップ」という、自分の名前をつけたかっただけの技があります(笑)。
Daisuke Takahashi 高梁 大典(@daisuke_takahashi_ttm)がシェアした投稿
「TOK¥O TRICKING MOB」始動の経緯と、パフォーマーとして譲れない軸
―パフォーマンスチーム「TOK¥O TRICKING MOB」はどういった経緯で結成されたのでしょうか?
D:トリッキングで仕事をするならパフォーマンスを持っていないとダメだと思っていたので、地元で一緒にやってきたメンバーや弟を誘って作ったチームです。
人数が違うと技の形や滞空時間が変わってくるので、動きを揃えるのは簡単ではありませんが、体力的にもかなりハードな中で鍛えてきました。
―チームとして見せ方にこだわっているポイントはありますか?
D:ピュアなトリッキングで見せる場面を多くすることを大切にしています。アクロバット系のパフォーマンスグループは数多くありますが、その中でも小細工をせず、ありのままのトリッキングを見せることにこだわっています。そもそもそんなに分かりにくい競技ではないので、飛んで、ひねって、回る、というシンプルな部分を丁寧に見せることを意識していますね。
―SNSでの発信も意識している部分はありますか?
D:下の世代が「仕事してるな、この人たち」と思えるような見え方を意識しています。技の動画やキャリアの記録として発信することで、次に続く選手たちに「これで食べていけるんだ」という背中を見せたい、という思いがあります。
武術とストリートの”間”にある美学。トリッキングというカルチャーの可能性
―音楽やファッションなど様々な仕事につながっていく中で、トリッキングというカルチャーの良さやかっこよさをどう感じていますか?
D:トリッキングという一つの軸を持っておくと、他のジャンルとすごく融合できるんです。ブレイクダンスの中に入れてもいいし、コンテンポラリーやアクションの中に入れてもいい。武術とストリートの間にあるという立ち位置自体がかっこいいなと思っています。
大会でも道着を着て出場する選手もいれば、ガムを噛みながら指輪をつけて出場するような選手もいます。国によっても色合いが違って、韓国では道着で出場する選手や、ブラジルではカポエラを彷彿とさせる装いの選手もいました。
ヨーロッパは武術のルーツが薄いこともあり、比較的ストリート寄りな雰囲気を感じます。一方で日本はやや競技的、アスリート寄りな傾向があると感じていて、そういった多様性もまたトリッキングというカルチャーの良さの一つだと捉えています。
次世代へ伝えたいこと、そして「極限武術」に懸ける想い
―後進の指導で大切にしている軸やマインドはありますか?
D:チャレンジすることを何より大切にしています。日本は基礎を重視する国だと思いますが、発展の姿を見せないまま基礎だけを練習させても、何のための基礎か分からなくなってしまう。その先に何があるのかを見せながら、チャレンジと基礎の両方を大事に教えています。技術面だけでなく、楽しんでやってもらうことも大切にしていて、生徒同士が互いを盛り上げ合うカルチャーづくりを心がけています。
―Daisukeさんが主催する大会「極限武術」について教えてください。
D:今年で5年目になります。都内でトリッキングの大会を開催すること自体が簡単ではなく、これまで3年連続で八王子の会場を使ってきましたが、少し都心から離れているという課題もありました。元々はオリンピックにつなげたいという思いで始めた大会なので、来場した方に「すごい大会だった」と思ってもらえるものにしたいという気持ちで取り組んでいます。
メインとなるバトルの魅力は、選手それぞれのスタイルの違いが色濃く出るところにあります。
バトル以外にも体験ブースなどを設けていて、トリッキングというフィルターを通して、それぞれが自分に合った道を見つけてもらえればという思いを込めています。競技として突き詰めるのも良いし、パフォーマンスとしてエンタメの世界で生きていくのも良い。トリッキングを通じて何かを得てもらえたら、というのが毎年の願いです。
―スコア制度の導入など、競技面での新しい取り組みについて聞かせてください。
D:オリンピックを見据えた大会である以上、明確なスコアが出る仕組みが必要だと考えました。従来は「右か左か」という判定が中心でしたが、スコア制にすることで、1本目の出来が2本目、3本目にも合計点として反映される、よりスポーツらしい競技性を持たせることができています。
また、靴を履いて出場する部門も新設しました。トリッキングは「床がないとできない」という前提を超えて、単独のカテゴリーとして一人歩きできるようにしたいという試みです。安全面の配慮から技には一定の制限を設けつつ、クリエイティビティやスタイルで加点していく仕組みにしています。パフォーマンスとして持ち運びやすいコンテンツになるという点でも、選手たちが今後仕事にしていく上で重要な要素になると考えています。
プレイヤーとしての目標——「トリッキングだけで武道館を埋めたい」
―今後のトリッキングの競技化や、日本のシーンについて描いている未来はありますか?
D:ストリートスポーツとしてのカルチャーは自然に育っていくと思っています。競技人口が増えれば、何十年か先にオリンピックというのも十分にあり得る話です。僕個人がどうこうというより、そこに少しでも貢献できる動きを続けていきたい。ストリートシーンと競技としてのシーンの両方が、綺麗に育っていくといいなと思いながら活動しています。
―Daisukeさん自身のプレイヤーとしての直近の目標は何ですか?
D:直近ではアメリカのプロ団体の大会でチャンピオンになりたいという思いがありますが、そこまで強く固執しているわけではありません。個人的な目標としては、トリッキングの選手だけで武道館を埋めれるようなものを作っていきたいですね。決して遠い未来の話ではなく、2、3年くらいのスパンで実現できると思って取り組んでいます。
―最後に、この記事を読んでいる読者や「極限武術」に興味を持っている方へメッセージをお願いします。
D:僕自身、他のカルチャーの大会にも足を運んできましたが、本気でオーガナイズされた大会を生で見ることで得られるものは、映像や情報だけでは得られないものだと感じています。この記事を読んで実際に会場に足を運ぶというのは一つのハードルかもしれませんが、それを超えて来場した時には、必ず食らわせるような大会になっていると思います。時間があって興味があれば、ぜひ会場に来てください。
「極限武術」イベント概要
日時:2026年8月22日(土)・23日(日)
場所:八王子エスフォルタアリーナ メインアリーナ(東京都八王子市狭間町1453-1)
内容:トリッキングを中心とした、武術・アクロバット・ストリートカルチャー・パフォーマンスを融合した2Daysイベント
【実施予定コンテンツ】
・Hero Cup
・Kids Battle Under15
・Female Open
・Open Rizing Battle
・Asia Tournament Battle
・Kick Hop
・スタジオ対抗チームバトル
・2on2 Battle
・バスケ3on3
・Daisuke ワークショップ
・キッズルーム
・フォトスペース
・Jam MVP部門
・各決勝前パフォーマンス
Daisuke Takahashiプロフィール
トリッキング選手、スタジオ経営者、パフォーマンスチーム「TOK¥O TRICKING MOB」主宰。10歳でトリッキングを始め、独学で競技を磨く。2016年、弟・Reijiとのシンクロパフォーマンスで世界大会優勝。現在は都内でスタジオを3店舗展開しながら、レッドブルクリエイターとしても活動。2022年より、トリッキングの祭典「極限武術」を主催しており、2026年大会は8月22日・23日に有明アリーナにて開催予定。
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