原題は「The Rule of Jenny Pen」。これを「ジェニー・ペンはご機嫌ななめ」という邦題にした。
ニュージーランドで裁判官を務めてきたステファン(ジェフリー・ラッシュ)は職務中に脳卒中で倒れてしまう。車椅子生活を余儀なくされた彼は郊外のケアハウスに入居。元ラグビー選手のトニー・(ジョージ・ハナレ)との相部屋に押し込められ、入居者を子ども扱いする職員に不満を抱いていた。
最大の脅威はここで長らく暮らすデイヴ(ジョン・リスゴー)の存在だった。デイブはこの施設の元職員で、表向きは優良な入居者。だが「ジェニー・ペン」と名付けた指人形を使って他の入居者たちに陰湿ないじめや虐待を行い、自らの支配下に置く施設の陰の主だった。入居者たちはデイブが行う悪事の数々を知っているが、報復を恐れ、事実を口にしようとしない。そうした中、デイブはステファンを次の標的にするのだった……。
場所はケアハウスという閉鎖空間。1人の狂気じみた老年男が密かに犯罪行為を行い、他の入居者は彼の報復を恐れて抗議も通報もできない。だからデイブは職員の目を盗んでやりたい放題を繰り返し、犠牲者まで生み出す。
彼は善良な老人を装うことで職員たちの疑惑の目を巧みに避ける。ゆえに職員は誰も彼の悪魔性を疑わない。かくしてたった1人の極悪人が大勢を沈黙させ、心理的、肉体的に制圧するわけだ。劇中で繰り返される「獅子がいなくなればハイエナが支配する」というセリフがこの映画の危うさを物語っている。
マジョリティーがマイノリティーに従属。これが人間の弱さ
こうしたことはなにもケアハウスだけのことではない。我々の社会生活も同じ。地域や職場にわずかなならず者が混入することで平穏が侵される。
暴対法が施行される前の日本では数人のヤクザ組織が進出することで大勢の住民が恐怖を覚える状況を生んでいた。人々はヤクザに反感を覚えながらも、怖くて彼らに逆らえない。中には我が身かわいさのあまり、ヤクザに取り入ろうとする者も現れる。マジョリティーがマイノリティーに従属。
メガホンを取ったジェームズ・アッシュクロフト監督はこう語っている。
「最も予想外の場所で横行する専制について描いています。専制者は好都合な環境を与えられれば雑草のように急速に成長し、その行動は往々にして密室で、閉ざされた扉の向こうで、詮索の目を逃れた隅で起こります。その意図は陰険です」
ジョン・リスゴーの演技はさすがに秀逸。指人形のジェニー・ペンを操り、デイブのいびつな権力欲を表現した。役柄の狂気が乗り移ったかのようだ。リスゴーは今年10月で81歳。長年磨いてきた演技力を本作で存分に発揮した。(文=森田健司)
(新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中/配給=エデン)

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