古い話だが、1989年まで6月の歌舞伎座は「萬屋錦之介特別興行」と銘打たれて、「歌舞伎」とはされなかったが、彼の親戚の歌舞伎役者も出演していた。今月の歌舞伎座は、その「錦之介特別興行」が復活したかのような座組となり、錦之介の甥たちとその子・孫が勢揃いした。
昼の部では中村時蔵の古典大役シリーズで、「金閣寺」の雪姫に、歌舞伎座では初めて挑む。この世代の女形は競争が激しいが、立て続けに大役を得て、一歩抜け出したか。
圧巻なのは夜の部での、鶴屋南北作「盟三五大切」。8年ぶりの上演で、間があいたのは、勘三郎や三津五郎が亡くなり、やれる役者がいなくなったからだろうが、その次の世代が、この役を掴んだ。
主人公の源五兵衛と三五郎を、尾上松也と中村勘九郎が日替わりで交代しているが、松也の源五兵衛の日を見た。
主役ならずとも役者が花道を引っ込むときは拍手が湧き起こるものだが、大量殺人をした後に松也が引っ込む時、客席は静まりかえっていた。こんなことはめったにない。拍手などできる雰囲気ではなかったのだ。それくらい凄まじい殺しの場面だった。
ストーリーは、あまりに偶然の出会いが多いので、冷静に考えるとツッコミどころ満載なのだが、冷静に見ていられない。松也と勘九郎、そして七之助の入魂の演技で、南北の世界に引き込まれた。
昼の部の話題作は中村獅童主演の「子連れ狼」。
井上によると、「歌舞伎に寄せていくことは考えていない」と獅童が言うので引き受けたという。その意図通り、歌舞伎には見えない。だが歌舞伎ではないものを歌舞伎座で上演する意図が分からない。
勘九郎や松也、七之助、米吉らが敵役や依頼人として登場するが、本来、主役の獅童を引き立てるはずの彼らのほうが、圧倒的な存在感を示す。獅童はセリフのない時、ただ立っているだけにしか見えない。
昨年5月に始まった尾上菊五郎(八代目)と菊之助の襲名披露公演も、今月の博多座が大劇場では最後。歌舞伎座に役者を取られたのか予算の都合か、幹部役者は團十郎、雀右衛門、彌十郎しか出てなく、さみしい座組。演目も菊五郎が演じたのは「茨木」で老婆実は鬼神、「ぢいさんばあさん」では爺さんと、うまいのだけど地味なものばかり。派手さは客演の團十郎にまかせた感じ。最後は父子での「連獅子」で、華やかに終わったから、終わり良ければ全て良しではあるが。
(中川右介/作家)

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