6月20日に亡くなった美輪明宏の出発点は銀座の「銀巴里」を中心にしたシャンソン歌手だったが、生涯情熱を傾けたのは演劇活動だった。


 美輪は「メケ・メケ」が大ヒットし、「神武以来の美少年」としてメディアの寵児となったものの、週刊誌で同性愛者であることをカミングアウト。

“性と生の深淵”を詞に込めた自作自演の歌は当時の観客に理解されず、人気が急落。長い間、不遇をかこっていた。


 しかし、「ヨイトマケの唄」(1965年)のヒットで人気が再燃。映画にも出演したが、端役に過ぎなかった。


 美輪の俳優としての才能を見抜いたのが寺山修司だ。



美輪は台本を読むなり、「面白いじゃない。ボク、やるよ!」と興奮気味に言った

 寺山は美輪に、1967年に旗揚げした劇団「演劇実験室・天井桟敷」第1回公演「青森県のせむし男」への出演オファーをした。


 松竹女優だった妻の九條映子(後に美輪の勧めで今日子と改名)がSKD(松竹歌劇団)時代から美輪の大ファンで、美輪の誕生日に花束を抱えて楽屋を訪問する仲。九條主演の映画「黄色いさくらんぼ」で共演したこともある。とはいっても、美輪の役は「醜い老婆」だ。「たぶん断られるだろう」と思ったが、美輪は台本を読むなり、「面白いじゃない。ボク、やるよ!」と興奮気味に言った。


 そればかりか、自分の住んでいるマンションの空き部屋を稽古場に使うよう手配してくれた。


 せっかく人気が回復している時に、「アングラ芝居」の汚れ役に周囲は猛反対したが、舞台は大評判となり、続く「毛皮のマリー」(1967年)も大ヒットした。それが美輪の人生の転機となった。


「毛皮のマリー」は、美輪扮する男娼と「息子」の美少年の愛憎の物語だが、舞台美術を担当した横尾忠則のセットが大きすぎて舞台に搬入できず、2つに切ろうという提案に横尾が激怒。横尾が降板したため、美輪が自宅の豪華な調度を持ち込んで事なきを得た。



三島由紀夫は寺山に「彼を俺の映画に貸してくれないか」と申し出た

 舞台を見た三島由紀夫は美輪の鬼気迫る演技を“詩的猥雑さの極致”と絶賛。寺山に「彼を俺の映画に貸してくれないか」と申し出た。寺山は「人は貸し借りするものじゃない。自由にどうぞ」とあっさり承諾。これ以降、美輪は三島の「黒蜥蜴」やジャン・コクトー原作「双頭の鷲」で舞台俳優としての才能を磨いていく。三島が言うところの「聖なる怪物」の本領を発揮するのだ。


「毛皮のマリー」「黒蜥蜴」「双頭の鷲」は、「愛の讃歌」と共に、美輪のレパートリーとなった。

「愛の讃歌」は世界的シャンソン歌手、エディット・ピアフの波乱の生涯を描いた音楽劇で、美輪は作・演出・美術・衣装・主演と八面六臂の活躍。また、越路吹雪が歌って大ヒットした岩谷時子訳の「愛の讃歌」では原詞の意味が伝わらないと、新たに訳詞した。


 岩谷訳は「ただひたすら愛に生きる」というロマンチックな世界観だが、美輪は、「愛する人のためなら世界中の人を敵に回し、国を捨てても地の果てまであなたについていく」という原曲に近い激しいものだ。


 ここにも美輪の愛の峻烈さが分かる。3作品は渋谷・パルコ劇場で繰り返し上演された。


 コロナ禍もあって、2020年以降は舞台中止が相次ぎ、最後の舞台は2019年に新国立劇場・中劇場で上演されたパルコ・プロデュース「毛皮のマリー」だった。


 寺山死去の時も、美輪の「毛皮のマリー」の上演直前で、追悼公演となった。不思議なめぐり合わせというべきだろう。


 筆者に美輪を引き合わせてくれたのは九條今日子だ。1996年に渋谷・パルコ劇場で、ドイツの演出家、ハンス・ペーター・クロスが演出した「毛皮のマリー」の初日祝いの席で、「向こうはどうだった?」と聞かれたので、「全然ダメ。比べものになりません」と正直に感想を述べた。


「向こう」というのは同じく渋谷のシアターコクーンで別のカンパニーが上演していた寺山作、蜷川幸雄演出の「身毒丸」だ。

アンチ寺山だった蜷川演出には寺山リスペクトが感じられなかった。


「そうでしょ」とニッコリした九條が美輪に「ほら、ヤマちゃんが向こうより断然いいって褒めてるわよ。この人、寺山が大好きで、信頼できる人だから」と言うと、「あら、ありがとう」とほほ笑んだ美輪が、私の手をギュッと握ってハグした。それから、結婚式場で来賓に挨拶する新婚カップルよろしく手をつないだまま、しばらくの間、私を傍らから離さなかった。その時の美輪の心遣いが懐かしく思い出される。


 美輪は、姿形だけでなく教養百般に通じ、それをひけらかさない「愛とやさしさ」を持つ精神的な美しさを最も尊いものとして「麗人」と呼んだ。


 長崎で被爆し、ジェンダー差別や偏見と闘い、戦争とファシズムに警鐘を鳴らし続けた美輪明宏。彼こそが最期まで独自の美学を貫いた永遠の麗人だった。=文中敬称略


(山田勝仁/演劇ジャーナリスト)


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