【2026年上半期 ネット炎上事件簿】#3


 発言や行動の文脈を無視した切り抜きが炎上の前提となり、誤解や曲解を避けるためには、言葉選びや言い方といった伝え方に気をつけていく慎重さが欠かせない。ところが、切り抜き動画を自ら投稿し、伝え方そのものまで間違えたケースもある。


 6月、歌手の日之内エミがひったくり被害の直後に立ち寄った警察署で、警察官と口論となった際の動画を投稿した。


「警察が嫌いな人へ」と題された2分弱の自撮り動画なのだが、収められていたのは、スマートフォンの充電を巡って「30%まで充電させたから」と警察署の備品である充電器を返却させようとする警察官と、「40%以上まで充電させろ」「途中で充電器を勝手に外すのは意地悪」だと主張する日之内の言い争いだった。


「これアサヒ警察署の充電器なので返してください」とカメラに向かって話す警察官に、「友達と連絡(できなくなる)」「この部屋にいたくない」と声を荒らげる日之内。「本来この部屋でスマートフォンの使用はできない」決まりだと警察官が伝え、部屋から出ていかせようとして揉みあいになり、日之内は苛立ちの声をあげる。


 これがネットニュースで報じられて炎上となったのだが、動画はその時点で1200万回も再生されていた。3000ほどついたコメントのほとんどが日之内への非難だった。新曲や活動の発表に合わせた炎上商法を疑う声さえ目につくありさまだ。


 8月半ばに確認したところ、再生数が約1500万、「いいね!」は約3万だったので収束しつつはあるようだが、3000ほどのコメントはほとんどがアンチによる非難である。フォロワー数がXで約1万3000、インスタグラムは4800、YouTubeでは5700という知名度のわりには大騒動といえる。


 日之内は2002年にデビュー、R&B、Hip-Hop系の若手歌手として活躍、著名グループとの共演もあったが、10年ごろからは病気をきっかけに表舞台での活動が少なくなっていた。それなのに大きな炎上となったのは、事が警察に関わっていたからだろう。


 警察関連の投稿は、擁護であれ批判であれネット上では大きく扱われやすい。

事件解決への進展が遅かったり誤認があれば非難一色となる一方、気遣いや素早い対応が報じられれば称賛の声があふれる。


 ユーザー側の思想信条にかかわらず、これにはあまりブレがない。今回は自ら場面を切り取ったうえ、さらに扇情的なタイトルを付けて投稿したがゆえに、「非常識」で「ワガママ」な「クレーマーみたい」に見える相手に、我慢強く対応する警察を気の毒がる反応が起きてしまったのだ。


 いまもSNSでの日之内とアンチによる応酬は続いている。再び名を売ったことは間違いない。


(井上トシユキ/ITジャーナリスト)


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