【2026年上半期 ネット炎上事件簿】#5


 慎重に前置きをしても、切り取られて拡散してしまえば炎上はまぬかれない。文脈を無視して切り出された部分だけを深読みし、曲解して叩いて留飲を下げた気がしても、それは束の間のことでしかない。


 アテンションエコノミーを操るアルゴリズムに支配されないためにも、精神衛生のためにも、安易に炎上に加わるのは避けるべきだ。


 とはいえ、わかっていても見過ごせない、許せないということもある。3月に動画出演した際の発言が切り取られて炎上した、元俳優で収録時は六本木のホストだった前山剛久のケースがそれだ。


 2021年、俳優の神田沙也加さんが亡くなったことをきっかけに、神田さんと元彼女との二股交際疑惑が露呈。神田さんを激しく罵倒していたことも音声データ付きで報じられ、激しくバッシングされた前山。24年には罵倒の事実を認めていたが、今回はあらためて当時を振り返る様子が収録されていた。


 神田さんから告白されたが一度は交際を断っていたと語り、「これから結果を出していくためには今の彼女とお別れして、この子(神田さん)の方がいいかなと思って、(今の彼女と)ちゃんと話をつけて向こう(神田さん)にいった」と回想する前山。


 共演者から「亡くならなくてもエエやんって正直思うよね」と向けられると、「悲しかったですよ、もっと話してくれたらよかったのに」「僕の意見としては、しょうがないじゃん、みたいな」「結果がそうなっただけで、僕は本当に真剣だった」と心情を語った。


 この時の「しょうがないじゃん」が切り取られて拡散、炎上してしまう。


「自分の身内に対してもしょうがないと言えるのか」「故人を冒涜するのか」「人の心が無い」「ヘラヘラと最低」「最悪」……。まさに見過ごせない、許せないという非難一色である。神田さんの元夫も「シンプルにはらわた煮えくり返っている」と投稿し、擁護の声はまったく見られない。


 冷静に振り返っても、切り取られた部分は発言内容の象徴だった。全編にわたって当事者意識のなさが目立ち、まるで他人事と言わんとするような都合のいい言い訳ばかりを並べている、と受け取られても仕方がない内容だったからだ。


 後に前山はホストを辞め、芸能界への復帰断念も表明。


 俳優とは「心理の移り変わり、喜怒哀楽の濃淡を表現して観客に伝える仕事だ」と教わったことがある。そう話したベテラン俳優は「だから良い演技のことを“迫真”と言うんだ」と続けた。


 他人の感情を都合よく操ろうとするだけで、心理や感情の真に迫ろうとしない人物が良い俳優となる可能性は皆無だ。ホストという感情を操る立ち位置こそが本性なのだとすれば、俳優復帰の断念は正しい選択だったといえる。


(井上トシユキ/ITジャーナリスト)


編集部おすすめ