2026年6月8日午前7時37分、フィリピン南部ミンダナオ島沖を震源とするマグニチュード7.8の巨大地震が発生した。震源から約141キロメートル離れた同島最大の経済都市ダバオ市では、「震度5」という強い揺れを記録した。


その他の写真:Vivaldi Residences Davao FBから

 朝の通勤や通学の時間帯を襲ったこの大揺れにより、都市中心部の近代的な街並みは一瞬にして恐怖に包まれた。幸いにもダバオ市内での直接的な死者は報告されていないが、市内の建物が受けた衝撃は極めて深刻だ。なかでも、ダバオ市中心部の一等地にそびえ立つ37階建ての超高層高級コンドミニアム「ビバルディ・レジデンシズ・ダバオ(Vivaldi Residences Davao)」が、地震直後に市当局からレッドタグ「建物周辺区域への立ち入り禁止」という厳しい制限措置を受けたことは、市民や不動産関係者に大きな衝撃を与えている。日本人の感覚からすれば、震度5程度の揺れで、完成から2年にも満たない最新の超高層ビルが危険物件扱いされ、周囲が封鎖されるなどということはおよそ考えられない。なぜ、これほどの近代的な大ビルが、この程度の地震で使い物にならなくなってしまったのだろうか。その原因を深く探っていくと、フィリピンの華やかな都市開発の裏に隠された、ずさんな設計と工事の歴史、操作された竣工スケジュール、そして日本とはあまりにも違う頼りない建築基準の姿が浮かび上がってくる。

 このビバルディ・レジデンシズ・ダバオの歴史は、2014年頃に華々しく始まった。開発を主導した売り主の「ユーロ・タワーズ・インターナショナル」は、当時の経済成長に沸くダバオ市で、最先端の都市型生活を提供するランドマークとしてこのプロジェクトを発表し、またたく間に部屋の販売を開始した。翌2015年には実際の工事がスタートし、何年もの歳月をかけて建設が進められ、2024年10月ごろから一般の購入者への引き渡しが行われた。築年数で言えばわずか2年未満という、まだ新しい建物だ。販売時に配られたきらびやかなパンフレットには、このビルがいかに安全で素晴らしいかが誇らしげに書かれていた。「最新の技術を取り入れた頑丈な構造」「大地震の揺れにもしっかりと耐える安全な設計」(ローラー機構のみなのに)といった言葉が並び、環境にも優しい最先端の高級ビルとして宣伝されていた。
だからこそ、地元の富裕層や外国人の投資家、あるいは目の前にある名門アテネオ・デ・ダバオ大学に通うエリート学生の家族らが、将来の安心を信じて高いお金を払って買い求めたのだ。しかし、今回の地震はその約束を無残にも打ち砕いた。

 なぜ最新のはずのビルが持ちこたえられなかったのか。その最大の理由は、日本とフィリピンにおける「地震に対する建物の守り方」の決定的な違いにある。地震大国である日本では、高層ビルを建てる際、地面と建物の間に巨大なゴムのクッションを挟んで揺れを吸収する「免震」というハイテク技術や、建物の中に衝撃を吸収する装置を組み込む「制震」という技術が当たり前のように使われている。地面が激しく揺れても、ビル自体にはその揺れが伝わらないようにする「巨大なゴムのバンパー」がビルを守っているのだ。ところが、フィリピンの超高層ビルには、このような高度なゴムバンパーはほとんど設置されていない。なぜなら、部材の価格が非常に高く、維持する技術もないからだ。フィリピンの建築基準が求めているのは、基本的には「太い柱と鉄筋でガチガチに固めて耐える」か「柳の木のようにビル全体を大きくしならせて耐える」という、日本に比べると一世代前の古い考え方に基づいた設計だけだ。

 さらに悪いことに、施工の現場では、コンクリートに混ぜる水の量をわざと増やして作業を楽にしたり、中の鉄筋の量を減らして費用を浮かせたりといった、日本ではあり得ない手抜き工事が平気で行われているという恐ろしい現実がある。今回の地震で、37階建てのビバルディはゴムバンパーがないため、地震の巨大なエネルギーを、建物全体を激しく「しならせる」ことで逃がそうとした。ビルがムチのように大きく歪んだ結果、建物自体の骨組みは折れなかったものの、質の低い外壁のコンクリートパネルや窓ガラスがその激しい歪みに耐えきれなくなり、バリバリと割れて地上へ向かって剥がれ落ちてしまった。
もしビルの下に歩行者がいれば、頭上からコンクリートの塊やガラスの雨が降ってくるという、命に関わる大惨事になるところだった。これが、市当局が建物の周りを完全に封鎖せざるを得なかった本当の理由だ。さらに恐ろしいのは、見た目のしなりだけでなく、目に見えないビルの「根幹」が傷ついている可能性だ。

 高層ビルの場合、建物を支える根幹であるコンクリートや中の鉄骨に致命的な損傷があった場合、果たして元通りに直すことはできるのだろうか。結論から言えば、超高層ビルの心臓部が一度でも激しく傷ついてしまうと、それを完全に修理することは極めて難しい。確かに、ひび割れた部分に特殊な樹脂を流し込んだり、柱の周りに頑丈な炭素繊維のシートを巻き付けたりして補強する技術はある。しかし、37階建てという想像を絶する重さを支える超高層ビルにおいて、一度歪んで強度が落ちてしまったコンクリートや鉄骨を、新築時と同じ安全な状態に戻すことは不可能に近い。人間で言えば、背骨が複雑に折れてしまった後に、完全に元の動ける体に戻すのが難しいのと同じだ。もし、現在進められている専門家による詳しい検査で、建物の中心にある柱や梁に深い傷が見つかった場合、このビルは二度と人が住めない「幽霊ビル」になるか、最悪の場合は巨額の費用をかけて取り壊すしか道はなくなる。2025年10月のダブル地震では、イエロータグ指定を受けていた。
【編集:EULA】
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