中国が東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する教育や人的交流を通じた「ソフトパワー外交」を急速に強化している。中国国営中央テレビ(CGTN)やASEAN事務局の発表によれば、中国の法学名門である中国政法大学は2026年7月5日、北京においてASEANの最高責任者カオ・キムホン事務総長に名誉教授の称号を授与した。
同日には同大学内に新設された「中国・ASEAN学院」の除幕式も行われ、カオ氏が名誉学院長に就任した。南シナ海問題を巡り安全保障上の緊張が続く中、中国がトップ外交を駆使して東南アジアの知識層や次世代リーダーを取り込もうとする意図が鮮明になっている。

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 今回の授与について、中国政法大学側は「中国とASEANの関係性の重要性を認識し、双方の対話、理解、そしてパートナーシップの推進に大きく貢献したカオ事務総長の功績を称えるもの」と説明した。除幕式には陸春龍学長も出席し、カオ氏と共に記念プレートを披露した。新設の中国・ASEAN学院は、教育・学術交流を促進し、相互理解を深める新たなプラットフォームとして機能する予定だ。カオ氏は授与式後、中国メディアのインタビューに応じ、今後の中国とASEANの協力関係の展望を語った。

 中国のこうした学術的・教育的アプローチは、単なる友好親善にとどまらず地政学的意図を帯びる。中国は近年、東南アジアの優秀な留学生を国費で招致し、中国寄りの専門家や官僚を育成する戦略を展開してきた。法学・政治学分野で国内最高峰とされる中国政法大学がASEAN現職トップを取り込んだことは、親中派拡大や中国主導の「法の支配」概念浸透に向けた強力な足がかりとなる。

 これに対し、東南アジアのメディアや専門家の間では警戒と期待が交錯している。一部の地政学アナリストは、中国による高官への接近は南シナ海領有権問題などでASEANの結束を切り崩す懐柔策の一環だと指摘する。経済依存が強まる中、教育や文化などソフトパワー面でも中国の影響力が圧倒的となれば、加盟国は中国に有利な外交方針を選択せざるを得なくなるとの懸念がある。
一方、実利を重視する国々からは、中国との人的ネットワーク強化が将来の経済協力や治安・法的枠組み構築に寄与するとの見方もあり、カオ氏の就任はASEANが中国との対話チャンネルを維持し、実質的利益を引き出す外交カードとも位置づけられる。

 日本にとっても今回の動きは看過できない。日本は長年、政府開発援助(ODA)や留学生支援を通じて東南アジアとの「心と心」の信頼関係を築いてきた。しかし、潤沢な資金力を背景に大学レベルで大規模協定や現職要職者への称号授与を戦略的に仕掛ける中国のソフトパワー外交は、日本の優位性を揺るがしかねない。2026年後半にはラオスでASEAN関連首脳会議が予定されており、中国は経済・軍事・教育の各分野で存在感を誇示しようとしている。日米韓が安全保障連携を強める中、中国の「静かなる影響力拡大」にどう対抗するか、日本外交戦略は新局面を迎えている。
【編集:af】
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