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事態が短期間で平和的に収束する可能性は極めて低い。正面から米軍と全面戦争になることを回避したいイランは、傘下の「抵抗の枢軸」と呼ばれるヒズボラやフーシ派などを通じた非対称的な攻撃を激化させる見通しだ。中東各地の米軍基地やイスラエル、サウジアラビアなどの主要な石油インフラが標的となるリスクが急激に高まっている。原油輸送の要衝であるホルムズ海峡が実質的な戦闘地域と化せば、民間商船の船舶保険料は高騰し、海運会社は同海峡の通航を回避して喜望峰回りに変更せざるを得なくなる。こうした国際的なサプライチェーンの寸断によって原油価格は1バレル=100ドルから150ドルを超える水準まで急騰する恐れがあり、世界経済は物価高と不況が同時に進行するスタグフレーションの危機に直面することになる。
この中東発の深刻な地政学的危機は、石油輸入への依存度が高いフィリピンに対し、国家の存立を揺るがしかねない多角的な試練をもたらす。第1の危機は、ジェット燃料の物理的な供給不足とそれに伴う広範な航空網の麻痺がもたらす交通インフラへの甚大な打撃だ。中東からの原油供給が滞ることは、石油価格の上昇にとどまらず、精製品であるジェット燃料の物理的な不足に直結する。
第2の危機は、エネルギー安全保障の崩壊と国内物価の異常高騰だ。石油輸入に頼るフィリピンでは、原油価格の急騰が国内のガソリンや軽油価格の即時値上げに直結する。陸上物流コストの増加は、市民に不可欠な乗合バス「ジープニー」などの運賃引き上げ圧力となるほか、アジア最高水準にある電気料金をさらに高騰させる。こうしたエネルギー価格の上昇は食料品を含むあらゆる物価に転嫁され、国内のインフレ率を急速に押し上げる。急激な物価高騰は特に生活費に余裕のない貧困層の暮らしを直撃し、生活苦にあえぐ国民の不満はマルコス政権に対する深刻な社会的・政治的反発の火種となる可能性が高い。
第3の危機は、海外出稼ぎ労働者(OFW)の救出退避問題と送金激減という社会構造への打撃だ。現在、サウジアラビアやアラブ首長国連邦といった湾岸諸国には、100万人を超えるフィリピン人が滞在している。中東で戦闘が拡大した場合、自国民の緊急退避が不可避となるが、航空燃料不足から救援用のチャーター便を満足に手配できないという「二重の危機」に直面する。また、GDPの約1割を占める本国への送金が途絶えれば、国内消費は冷え込む。
第4の危機は、米比同盟のジレンマと南シナ海への波及である。米国が中東での作戦に軍事リソースを割くことで、インド太平洋地域への防衛資源の配分状況が手薄となり、同地域に「力の空白」が生じることは避けられない。中国がこの隙を突き、西フィリピン海(南シナ海)における海洋進出を強め、フィリピンの公船や民間船に対する妨害活動や主権侵害行為をエスカレートさせるリスクが高まる。フィリピン政府は、同盟国として米国を支持する一方で、国内のイスラム系コミュニティの世論にも配慮せねばならず、外交上、極めて困難なバランス外交と舵取りを強いられる。
今回の米軍によるイラン連続攻撃と港湾封鎖は、世界規模のエネルギー供給網を直撃する事態であり、フィリピン政府の危機管理能力が厳しく問われている。政府に求められるのは、単なる燃料価格への一時的な補助金支給にとどまらない。航空網維持のための燃料の優先確保や、中東地域からの困難を極める在留フィリピン人の退避ルート確立、さらには南シナ海の安全確保を巡る日豪などとの連携強化といった多角的な危機管理である。国家としてのレジリエンスが、今まさに歴史的な試練に直面している。
【編集:TY】








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