世界のサービス企業では、理念を掲げるだけでなく、現場の判断へ落とし込めるかが問われている。Gallupの「State of the Global Workplace 2026」によると、2025年に仕事へエンゲージしていた従業員は世界で20%にとどまり、管理職はチームのエンゲージメントの差の少なくとも70%に関わるとされる。
店舗数が増えるほど顧客と経営者の距離は広がる。創業者の原体験が採用、教育、評価、商品開発までつながらなければ、掲げた言葉と現場で受け取る体験の間に差が生まれる。

その他の写真:トレーニングイメージ

First fit株式会社が掲げるミッションは、「フィットネス(健康増進)から人生を好転させる」ことにある。この言葉は、広告のために後からつくられたものではない。田中健斗氏と林幸希氏が、身体の変化によって自らの考え方や人生が変わり、顧客にも同じ変化が生まれる場面を見てきた経験から形になった。

田中氏は公式メッセージで、「身体を変えることで人生が変わる」と語っている。トレーニングによって外見や生活習慣が変わり、得られた自信が仕事や日常への前向きな行動につながる。指導の現場でその姿を見続けた実感が、身体づくりを短期的な減量で終わらせず、その後の人生まで支えるサービスの原点になった。

同じ理念を共有する林氏にも、フィットネスによって自分自身が変わった原体験がある。内気で自信を持てなかった時期に身体を動かし、外見の変化をきっかけに自信を得た。やがて思考が前向きになり、精神面の安定にもつながったという。だからこそ、一部の競技者だけではなく、運動初心者にも「自分らしい姿」を感じられる体験を届けたいと考えている。


その言葉に現場の重みを与えているのが、二人が自ら身体づくりを突き詰めてきた経歴である。田中氏はSUMMER STYLE AWARDなど、林氏はBEST BODY JAPANやFWJなどで優勝実績を重ねた。競技歴は権威を示すためだけのものではない。食事、トレーニング、停滞、継続の難しさを自分自身で経験してきたからこそ、顧客の不安や努力を具体的に理解できる。

共通の原点を持つ一方、共同経営では役割を重ねず、それぞれの強みを生かしている。林氏はブランドの顔として外部へ発信し、顧客へフィットネスの魅力を伝える。田中氏は金融機関との調整、マーケティング、新しい情報の収集、事業全体の設計を担う。仕事は異なっても、現在も可能な範囲でセッションへ入り、経営判断が現場から離れ過ぎないようにしている。

役割が分かれても、二人が共有する経営の対象は顧客だけではない。「人生を好転させる」というミッションを、THE PERSONAL GYMで働くトレーナーにも広げようとしている。店舗を増やし、店長、教育担当、SV、マーケティング、FC支援などの役割を生み出すのは、年齢を重ねてもフィットネス業界で次の仕事へ進める選択肢を増やすためでもある。

その考えから見ると、100店舗という目標にも二つの意味が生まれる。
地域には運動を始める入口が増え、組織内には働く人の次のポジションが生まれる。店舗拡大と人材育成を別々に進めるのではなく、成長によって得た機会を顧客と社員の双方へ返そうとしている。

ただ、規模が大きくなれば、理念だけでサービス品質をそろえることは難しい。取材では、顧客情報、食事指導、店舗業務を一元化するCRMやAI活用の仕組みを開発し、トレーナーがブログ作成や事務作業に追われず、顧客対応へ集中できる環境をつくる構想が語られた。目指すのは単なる業務削減ではなく、蓄積したデータから変化が生まれた要因やコミュニケーションの傾向を学び、サービス改善へ戻す循環である。

顧客との接点を店舗の外へ広げる構想も進んでいる。二人が実際に使い、現場のトレーナーや顧客の声を反映したサプリメントなど、フィットネスを習慣化する商品を生み出す考えだ。売れそうな市場から逆算して中身を決めるのではなく、自分たちが本当に価値を感じるものを磨いた上で、届く伝え方を設計する。トレーナー、競技者、経営者という三つの経験が重なるからこそ描ける商品開発といえる。

二人の原体験、会社のミッション、店舗展開、人材のキャリア、今後の商品構想は、「人生を好転させる」という一つの軸で結ばれている。第三者として今後確認したいのは、店舗ごとの顧客継続、社員の定着や昇進、システム導入後のサービス品質である。具体的な成果が積み上がれば、理念が現場でどこまで実現しているかを、より客観的に示せるだろう。


取材を通じ、田中氏と林氏の共同経営は、役割を分けるだけでなく、同じ原点を異なる強みから実行する関係だと感じた。100店舗の先に、顧客、働く人、商品を通じてフィットネスの入口をどこまで広げられるか。今後の実装を見守りたい。
【取材/執筆:Y.U】
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