たとえば、現在は「ノンバイナリーモデル」として活動している22歳の岡本舵楽(だらく)さん。
2025年、彼は一本の動画をInstagram(@nemu.itte)に投稿。これが見事にバズりました。内容は、岡本さんの以下の変遷をまとめた“ビフォーアフター動画”です。
どうやってここまで美しくなったのか? モデルになったきっかけは? 将来の目標は? 気になることがたくさんあるので、7年間で大変化を遂げた岡本さんから話を聞いてみました。
自暴自棄の頃、ライブ配信で言われた「モデルをやってみれば?」
岡本:もともと、自分は引きこもっていたんです。高校卒業後に就職した会社では上司からのモラハラがきつく、4か月後に適応障害になって退職しました。その数か月後から俳優やアイドルのオーディションを受けたり、高校時代に始めたミュージシャン活動の経験を活かして音楽講師を目指したり、いろいろ挑戦したのですが、全部失敗してしまったんです。あの頃は自暴自棄で、家の壁を殴って手を骨折したりしていました。
その後、インターネットカフェのアルバイトも一応してはいたのですが、「アルバイトと食事と睡眠をするだけの毎日は嫌だな」と悶々とするようになり、細々と始めたインスタライブで自分の思いの丈を全部言ったんです。
「今、こういう状況でアルバイトしかしてなくて……」と言ったところ、僕の配信を見に来てくれた数少ないリスナーさんが「モデルをやってみれば?」と、何気ない一言をくれたんです。
「でも、モデルってすごい綺麗な人たちでしょ? 僕、たぶんできないよ」と返したら「1回だけでいいからやってみたらいいんじゃない?」と言われて。
「じゃあ、モデルになるためにはどうしたらいいんだろう? 容姿を磨くところから始めなきゃいけないんだよな」となって、そこから化粧水と乳液を買ってみたり。
――そのとき、初めて「自分の容姿を変えよう」という気持ちが湧き出てきた?
岡本:自分は小中学校の9年間、学校内で容姿を否定され続けてきました。「顔がブサイク」と言われたり、ニキビ肌だったので「汚い」「顔洗ってないんじゃないか」とか(苦笑)。あと、極度の乾燥肌で髪からフケも出ていたので勘違いされちゃって「こいつは風呂に入ってないし、顔も洗ってない奴だ。おまけに顔もブサイクだ」と、ずーっと自分の容姿を否定されて生きてきました。テレビで綺麗な人を見て「自分もそうなりたい」という思いはあったのですが「でも、自分はそういうのはできない。だって、ブサイクだから」と思っていました。
学校のクラスメイトの評価=世間の評価と思い込んでいた
岡本:そうですね。北海道の田舎で育ち、当時の僕はインターネットもやっていなかったので、自分を客観的に見られなかったんです。学校のクラスメイトの評価=世間の評価だと思っていました。
――動画を拝見しましたが、そこまで言われるような容姿ではなかったと思います。しかし、小~中学生時代にそういうことを言われたんですね。
岡本:当の本人たちも本当にそう思っていたわけでなく、ノリだったと思うんです。でも、そのノリを行っている本人が「いや、これはおふざけだから」と僕にわざわざ言ってくれるわけでもないので、僕は真に受けて「じゃあ、容姿を整えたところで“豚に真珠”だ」と思い込んで、おしゃれすることを自ら控えていました。
実は大金を使って美しくなったわけではない
岡本:周りの環境が変わったのが一番大きかったです。「スキンケアですごく高い化粧品を使ってるんですか?」と言われるんですけど、全然そんなこともないですし。大金をかけて整形したり、美容院ですごく高いお金払ったりというのもやっていなくて。
ただ、モデル活動をしていくなかで、一緒にお仕事したカメラマンさんや周りのモデルさんから「すごい綺麗だね」「可愛いね」とたくさん言われるから、それをどんどん吸収していってこうなったのかなと思います。
――へえ、そういうもんですか!
岡本:そうですね。褒められたら「もっとがんばろう!」となるので。
――具体的に、どんなことをがんばったのでしょうか?
岡本:食事制限とか、あとは極度の猫背だったので「姿勢を正してみたら骨格がもっと変わるかなあ?」とか。
いじめ経験から「顔が綺麗」と言われても信じられなかった
――ただ、それ以前から「綺麗だね」と言われていたわけですよね。つまり、岡本さんにはもとから美しさの素養があったということになります。岡本:高校生時代の僕は髪を真っ赤に染め、くせ毛だったのでほぼアフロみたいな状態でミュージシャン活動をしていました。
だから、「顔が綺麗だから、髪をもうちょっと整えたら?」「もっとピシッとした服を着たらいいんじゃない?」と言われても、僕はそれをすべてイジりと捉えて「うるさい!」と返していました。バカにされていると受け取っていたんです。
――ストレートに受け取れなかったんですね。
岡本:そうなんですよね。そのとき、みんなの言葉を信じていればもっと早く垢抜けられたのかなあと思います(笑)。
「全身、整形してるんだろう」と言われてうれしかった
――投稿で2018年からNOWの変化を公開されましたが、SNSではどんな反響がありましたか?岡本:皆さん、混乱してましたね(笑)。褒めてもいただいたんですけど、「この写真は同一人物なのか」とか。あと、垢抜け後は中性的な写り方の画像もあったので「性転換手術をしたんじゃないか?」とか。僕はただ「自分をもっと美しくしたい」という思いだけで生きていたのに、こんなにいろんな憶測が立つものなんだなと思って。
――勝手なことを言う人はいますよね。
岡本:でも、そもそも注目されたことが一度もないような人生だったので、どんな形であれたくさんの人が自分の存在を認知してくれているのがなによりうれしかったです。
――食事制限や姿勢の矯正などご自身の努力で垢抜けたわけじゃないですか? なのに、「同一人物なのか?」という憶測が立った。つまり、「そこまで手間をかけたように見られたのか」と、垢抜けの度合いが逆に引き立っている気がします(笑)。
岡本:僕、奥二重からちょっと二重にするぐらいしかやっていないんです。なのに、「全身、整形してるんだろう」と言われたときは「実際には整形していないのに、整形級の垢抜けができたのか」と、すごいうれしかったです(笑)。
――SNS以外の日常生活で、周囲の態度は変わりましたか?
岡本:あんまり変わらなかったです。高校時代、「顔が綺麗だから、服をちゃんと整えたほうがいいんじゃない?」「髪を綺麗にしたほうがいいよ」と言ってくれた後輩がいたんです。今も彼女とは友人関係が続いているのですが、僕が「あの頃に比べたら垢抜けられたかな」と言ったら「今はもちろん綺麗だけど、高校時代からずっと『綺麗な容姿だな』と思ってたよ。やっと、それを信じてくれたね」と言ってくれて。
――いい言葉ですね。
岡本:高校時代のほかの友人も、僕が「モデル活動を始めたよ」と言ったら「でしょうね」みたいな反応でした。
モデル活動が充実していくと復讐心がなくなった
――外面が垢抜けた結果、内面も変わったという実感はありますか?岡本:内面はそこまで変わらなかったです。小中学校のとき浴びせられた言葉はいまだにフラッシュバックしますし、そのたびに自分がモデルをやっていることを忘れ、いじめられていたあの頃を思い出して「自分なんかダメだ」と思ったりするので。相変わらず、性格は暗いし根暗だしなよなよしてるんですけど(笑)。
でも、モデルのお仕事に行く度に思い出すんです。「あ、そうだ。自分はモデルなんだ。そんななよなよしてる場合じゃない」となり、そこで初めてスイッチが入ります。
――モデルって素敵なお仕事ですね。
岡本:そうですね。たとえば、ファッションショーだと本番直前まで僕はいじめられていた頃の自分のままです。でも、本番が始まって「じゃあ岡本さん、次行ってください」と言われた瞬間に「岡本舵楽」になるという感じです。
――モデルとして「綺麗だね」「可愛いね」と言われるようになり、小中学校時代の同級生にリベンジを果たしたような気持ちにはなりましたか?
岡本:以前は、自分のモデル活動はあの頃いじめていた人たちに対する復讐行為だと思っていました。
今も、あのときの言葉や彼らの顔がたまにフラッシュバックするのは事実です。だけど、常に頭にあるわけではないんですね。モデル活動が充実すればするほど、自分の容姿が褒められれば褒められるほど、意識しないようになった。だから、もう忘れました(笑)。
――素晴らしいですね。それは、前に進んだということだと思います。
岡本:そうです、今はもう興味もなくなってしまって(笑)。しがらみから解かれたのかなと思います。
自身のセクシャリティに気づいたきっかけ
――現在、岡本さんは「ノンバイナリーモデル」という肩書で活動されていらっしゃいます。岡本:今はもう性同一性障害と診断されていて、厳密に言えばトランスジェンダーなんです。だけど、僕はトランスジェンダーでも中性寄りなんですね。且つ、自分は完璧な女性になるということを諦めているので。
じゃあ、せっかくなら男に生まれたし……というのもあり、「男性的なモデルもやろう。でも、女性的なモデルのほうが得意分野だ」「両方できるし、自分のセクシャリティはトランスジェンダー寄りの中性……ノンバイナリーだから『ノンバイナリーモデル』じゃん」ということで、ノンバイナリーモデルと名乗っています。
――ご自身のセクシャリティにはいつから自覚的だったのでしょうか?
岡本:中学2年生からです。当時、塾に通っていたんですけど、僕がペンで数式を書いているとき、ペンを持つ右手の小指が立っていたんです。それを見た同級生から「お前、小指立ってるな。女なんじゃねえのか!?」と指摘されて。
――中学生っぽいイジりですね。
岡本:そうですね。まあ、男子だから「やめろよ。女じゃねえよ!」みたいなことを言ったほうがいいのかなと思いつつ、「女なんじゃないのか?」と言われたとき、なんかしっくり来て「確かに」みたいなリアクションをしたんですよね。
で、家に帰ってから「『女だろう』と言われ、自分は男なのになんで違和感がなかったんだろう?」と考えて出た結論が「自分って女性なんじゃない?」という。
岡本:全国を回っていろんなファッションショーやファッションイベントに出るのですが、特にユニセックスブランドのブランドモデルやアンバサダーを務めたりしています。ファッションショーでは中性的だったり女性的な服を着ながら、ときにはがっつりメイクしたり、またあるときはあまりメイクをしないみたいな感じです。
――まさに、ノンバイナリーですね。
岡本:そうなんです。だから、性別を取っ払った衣装を作るデザイナーさんたちによく起用していただいています。
自身のセクシャリティに悩む人に伝えたい言葉
――昨今、時代は流れがいい形に変わってきていると思うのですが、今も自分のセクシャリティについて悩む人、苦しんでる人はいます。そういう人たちに声をかけるとしたら、どんな言葉になりますか?岡本:自分が思ってる以上にめずらしいことじゃないよって。
――そうなんですよね。「自分の周りにそういう人はいない」と言う人がいますが「いや、君に言ってないだけだよ」っていう。
岡本:全然めずらしいことじゃないし、それが原因で自分が属していたコミュニティから村八分に遭って追い出されたとしても、自分のセクシャリティに近い人たちと一緒に新しいコミュニティを築けばいいし。今ある環境がダメなら次の環境に行けばいいって、僕は10代で学んだので。
――先ほど伺った、高校進学で環境をリセットしたという話につながりますね。最後に、今後の目標を教えてください。
岡本:もっと、メディアでの露出を増やしたいなと思っています。ファッションショーって、モデルが主役じゃないんです。主役はあくまで服で、モデルはいわば“動くマネキン”なんです。
もちろん、その活動は好きなので続けていきたい。でも、プラスして自分の思ってることや過去の経験から得たものを話せば、誰かの救いになるとまでは言わないまでも、人生を生きるためのちょっとしたアドバイスになれたら……と思っています。だから、いろいろなことをしゃべれるテレビ、ラジオ番組などでのメディア露出を増やしていけたらいいなと考えています。
<取材・文/寺西ジャジューカ>
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